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拾った娘が元魔王で、気づけば俺たちは敵になっていた  作者: 東海林


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19話

森の中。


「……遅い」


ルシエルが立ち止まる。


「……神代、遅い」


「落ち着きなさい」


セリナが言う。


「ちゃんと来るわ」


「……でも」


視線が揺れる。

手が、わずかに震えている。


「……遅い」


繰り返す。

それしか言えないみたいに。


「……大丈夫だよ」


リオがぽつりと言う。


「来る」


「……なんでわかるの」


「なんとなく」


「……適当」


「うん」


あっさり認める。


「でもさ」


少しだけ間を置く。


「ああいうやつ、死なないよ」


「……」


ルシエルは何も言わない。

でも――少しだけ、視線が揺れる。


その時。

――ガサッ。


音。

全員が振り向く。


「……っ!」


セリナが剣を構える。

ルシエルの目が細くなる。

空気が張り詰める。


そして。


「……はあ……はあ……」


聞き慣れた声。


「……神代!」


ルシエルが駆け出す。

森の影から、神代が現れる。


息が荒い。

服もボロボロ。

でも――立っている。


「……遅いよ」


「……っ!」


言い終わる前に、ルシエルがぶつかる。

そのまま、強く抱きつく。


「……遅い」


「……悪い」


「……遅い」


「……分かってる」


何度も繰り返す。

それでも離れない。


「……生きてるじゃない」


セリナが安堵の息を吐く。


「当たり前だ」


「当たり前じゃないわよ」


「まあな」


軽く笑う。

でも、足が少しふらつく。


「……無理してるでしょ」


「してねえ」


「してる顔よそれ」


即バレ。


「……ねえ」


リオが少しだけ近づく。


「なんで庇ったの」


まっすぐ聞く。

さっきと同じ質問でも、今度は逃げない。


「言っただろ」


神代が答える。


「仲間だからだ」


「……あたし、まだ裏切るかもよ」


「それでもだ」


「……」


言葉が止まる。


「その時はその時だ」


「軽くない?」


「重く考えても意味ねえ」


肩をすくめる。


「今、一緒にいるならそれでいい」


「……」


リオが、黙る。

目が揺れる。


「……ほんと変」


「よく言われる」


「……うん」


小さく笑う。

今度は、少しだけ優しい。


「……神代」


ルシエルが顔を上げる。


「なんだ」


「……傷」


「あー」


腕を見る。

血が滲んでいる。


「大したことねえ」


「……嘘」


「バレたか」


「……手」


「ん?」


そっと触れてくる。

優しく、壊れ物みたいに。


「……無理しないで」


「無理しないと死ぬだろ」


「……やだ」


小さく言う。


「……いなくなるの」


その一言、重い。


「……なら強くなれ」


神代が言う。


「俺もなる」


「……一緒?」


「ああ」


「……ならいい」


少しだけ、安心した顔。


「……で?」


セリナが現実に戻す。


「どうするの」


「ここにはいられない」


神代が即答する。


「追手来る」


「……よね」


「移動だ」


「どこへ?」


「距離取れる場所」


「……街は無理よ」


「分かってる」


少し考える。


「……森の奥、さらに抜ける」


「安全圏なんてないわよ」


「分かってる」


「でも?」


「ここよりマシだ」


「……はあ」


納得するしかない。


「……神代」


ルシエルが袖を引く。


「なんだ」


「……さっき」


「ん?」


「……強くなってた」


「あー」


少しだけ笑う。


「まあな」


「……すごい」


「まだ足りねえ」


「……ん」


小さく頷く。


「……でも」


「なんだ」


「……好き」


「急だな」


「……強い神代」


「そうかよ」


悪くない。


「……ねえ」


リオがぽつりと言う。


「さっきの、どうやったの?」


「何が」


「男止めたやつ」


「あー」


少し考える。


「深く触った」


「……は?」


「自分でもよく分かってねえ」


「雑すぎるでしょ」


「でもできた」


「……それが一番怖い」


正直な感想。


「……行くわよ」


セリナが言う。


「長居は無用」


「だな」


再び、歩き出す。

今度は四人で、さっきより、少しだけ距離が近い。


「……神代」


「なんだ」


「……離れないで」


「離れねえよ」


即答。


「……ん」


その一言で、ルシエルは、もう何も言わなかった。


森の奥へ、さらに奥へ。

追われながらも、それでも――四人は進む。

今度は、バラバラじゃない。


少しだけ、本当に少しだけ仲間になっていた。

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