17話
「遅い」
声と同時に――目の前に現れる。
「っ……!」
セリナが即座に剣を振る。
だが――空を切る。
「無駄だ」
男の声は、すぐ横。
次の瞬間。
衝撃。
「ぐっ……!」
セリナが壁に叩きつけられる。
「セリナ!」
「大丈夫……!」
立ち上がるでも分かる。
余裕はない。
「……逃げるぞ」
神代が言う。
「……はいよ!」
リオが即座に動く。
来た道へ。
全員が走る。
――その瞬間、背後に気配。
「っ!」
神代が振り返る。
もういる、速すぎる。
「逃がすと思うか」
手が伸びる。
リオの首元へ。
完全に捉えられている。
「……っ!」
リオの目が見開く。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間。
「――触るな」
神代が割り込む。
腕を掴む。
「……!」
男の動きが一瞬止まる。
でも完全じゃない。
力が押し返してくる。
「……っぐ……!」
重い。
削りきれない。
「……なんで」
リオが小さく呟く。
「……あたし、なのに」
「うるせえ」
短く言う。
「仲間だろ」
その一言。
一瞬だけ、時間が止まる。
「……は?」
セリナが思わず声を漏らす。
「……神代」
ルシエルの声。
少しだけ揺れている。
「……それ」
「後で説明すんだよ!」
怒鳴る。
「今は逃げるぞ!」
「……っ、了解!」
セリナが動く。
リオも、遅れて走り出す。
通路を駆ける。
後ろから、気配。
消えない。
むしろ近い。
「……来てる!」
「分かってる!」
角を曲がる。
でも――先回り。
「っ!?」
前に、男。
「ルートは把握している」
当然のように言う。
「逃げ場はない」
「……チッ」
神代が舌打ち。
「なら――」
「……壊す」
ルシエルの声。
低い。
「やめろ!」
「……でも!」
「ここでやったら終わりだ!」
「……っ」
止まる。
ギリギリで、抑える。
「……神代」
震える声。
「……どうする」
「決まってる」
一歩前に出る。
「こじ開ける」
「……無謀だな」
男が言う。
「そうでもねえ」
神代が構える。
「時間稼ぎだ」
「意味がない」
「ある」
視線だけで後ろに合図する。
「行け」
「……は?」
セリナが固まる。
「何言ってんのよ」
「お前らは抜けろ」
「無理に決まってるでしょ!」
「いいから行け!」
強く言う。
セリナが一瞬、言葉を失う。
「……リオ」
神代が名前を呼ぶ。
「……なに」
「道、分かるな」
「……分かる」
「なら案内しろ」
「……っ」
リオが歯を食いしばる。
「……なんで」
小さく呟く。
「なんで、そこまで」
「しつけえな」
神代が笑う。
「仲間って言っただろ」
「……」
言葉が出ない。
「……神代」
ルシエルが腕を掴む。
「……やだ」
「大丈夫だ」
「……大丈夫じゃない」
「それでもだ」
短く言う。
「信じろ」
「……っ」
一瞬、迷って――離す。
「……絶対、来て」
「ああ」
即答。
「……行くわよ!」
セリナが決断する。
リオの腕を引く。
「ちょっ――」
「今は従いなさい!」
「……っ」
走り出す。
ルシエルも、振り返りながら。
でも――進む。
三人の足音が遠ざかる。
「……さて」
神代が前を見る。
「一対一だな」
「……愚かだ」
男が言う。
「だが」
わずかに目を細める。
「理解はできる」
「そりゃどうも」
「だが結果は変わらない」
「やってみろよ」
神代が踏み込む。
――ぶつかる。
衝撃。
床が軋む。
「……っ!」
力が重い。
でも――さっきより、集中できる。
「……成長はしているな」
「どうも」
「だが――」
押される。
やはり、差はある。
「足りない」
「知ってる」
それでも退かない。
「時間稼ぎで十分だ」
神代が低く言う。
その目に、迷いはない。
一方。
「……っ、こっち!」
リオが先導する。
通路を駆ける。
「神代……!」
ルシエルの声が震える。
「大丈夫よ!」
セリナが言う。
「信じなさい!」
「……っ」
分かってる。
でも不安が消えない。
「……なんで」
リオがぽつりと呟く。
「なんで庇うの」
「今さらでしょ」
セリナが言う。
「……あたし、裏切るかもしれないのに」
「それでもでしょ」
「……意味わかんない」
「そういうやつなのよ」
少しだけ笑う。
「バカだけど」
「……ほんとに」
リオが小さく笑う。
でも――その目は、揺れていた。
後ろ。
遠くで、衝撃音が響く。
「……神代」
ルシエルが小さく呟く。
手を強く握る。
「……絶対」
その目が細くなる。
「……助ける」
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