11話
――ドンッ!!
ドアが内側に吹き飛んだ。
木片が散る。衝撃が部屋を揺らす。
「っ……!」
セリナが即座に前に出る。
剣を構える。
「来たわね……!」
煙の向こうから、ゆっくりと人影が現れた。
一人。
だが――
「……一人か」
神代が呟く。
「でも」
セリナの額に、うっすら汗が浮かぶ。
「さっきの連中とは、全然違う……」
それだけで分かる。
圧が違う。空気が重い。
呼吸が浅くなる。
「……へえ」
低い声が響く。
姿がはっきり見える。
黒い外套。無駄のない体つき。
顔は隠していない。
無表情な男だった。
「もう見つけてたのか」
視線が、まっすぐルシエルに向く。
「……やっぱり、お前か」
「……神代」
「分かってる」
ルシエルの手が、少しだけ強くなる。
――まずい。
これは、さっきまでとは違う。
「名乗れ」
セリナが言う。
「ギルド所属、セリナ」
「……必要ない」
男は一切興味を示さない。
「任務は一つだ」
一歩、踏み出す。
「対象の回収」
その言葉。軽いのに、重い。
「……拒否したら?」
神代が聞く。
「殺してから回収するだけだ」
迷いがない。
完全にそういう仕事のやつだ。
「……分かりやすいな」
「交渉はしない」
即答。
「無駄だからだ」
次の瞬間――消えた。
「っ!?」
セリナの目が見開かれる。
気配が、消えた。
でも――
「後ろ!」
神代が叫ぶ。
振り返る。
そこには、もういた。
「遅い」
振り下ろされる刃。
セリナが咄嗟に受ける。
――ガキィン!!
金属音が響く。
「っ……!!」
重い。腕が軋む。
押し切られる。
「……弱いな」
男が淡々と言う。
「ギルド程度か」
「……っ!」
セリナが歯を食いしばる。
でも、押される。
完全に力負け。
「セリナ!」
神代が動く。横から腕を掴む。
――触れた瞬間。
「……?」
男の動きが、一瞬だけ止まる。
力が、抜ける。
「……やっぱ効くな」
神代が低く呟く。
「面白いな」
男の口元が、わずかに歪む。
「それが、お前の力か」
「さあな」
適当に返す。
でも――違和感があった。
完全には止まってない。
「……なるほど」
男が一歩引く。距離を取る。
「削るタイプか」
分析が早い。
「だが――」
次の瞬間、また消えた。
「……!」
今度は神代の後ろ。
完全に狙われてる。
振り返る暇もない。
「神代!」
セリナの声。
――でも。
「……遅い」
男の刃が、振り下ろされる。
その瞬間。
「……いらない」
ルシエルの声。
空気が、落ちる。
重圧。
見えない何かが、一気に押し寄せる。
「……ほう」
男の動きが、止まる。
完全に。今度は明確だった。
「これが本体か」
興味深そうに言う。
体が、押さえつけられている。
「……ルシエル、抑えろ!」
「……でも」
「いいから!」
一瞬、迷う。
でも――
「……ん」
力が緩む。空気が戻る。
男が、軽く息を吐いた。
「……危ないな」
「だろ」
「いや」
首を振る。
「お前じゃない」
ルシエルを見る。
「それだ」
視線が鋭くなる。
「やはり、回収対象に相応しい」
「……やだ」
ルシエルが小さく言う。
「……行かない」
「選択権はない」
即答。
「ある」
神代が割って入る。
「ここにいる」
「……そうか」
男が構える。
「なら、排除する」
次の瞬間。
今までとは比べ物にならない速さで踏み込んできた。
「っ……!」
セリナが反応する、でも追いつかない。
完全に格上。
「神代!」
「分かってる!」
迎え撃つ。触れる。
力を削る。
でも――
「……足りないな」
男が踏み込む。
止まらない。
完全には削りきれない。
「……チッ」
神代が舌打ち。
その時横から、刃が走る。
――セリナ。
「はああああっ!!」
全力の一撃。
男がそれを受ける。
ほんの一瞬、動きが止まる。
「……今!」
「分かってる!」
神代が腕を掴む。
力を流す。
削る。
今度は、しっかり効いた。
「……っ」
男の体勢が崩れる。
その瞬間。
「……消えて」
ルシエルの声。抑えきれてない。
空気が、歪む。
まずい。
「やめろ!!」
叫ぶ。一瞬の静止。
その隙に――男が後ろに跳んだ。
距離を取る。
「……なるほど」
軽く息を吐く。
「理解した」
視線が、三人を順に見る。
「お前が抑えて」
神代を見る。
「お前が攻撃して」
ルシエルを見る。
「お前が繋ぐ」
セリナを見る。
「連携としては悪くない」
冷静な評価。
でも――
「だが、未完成だ」
はっきりと言い切る。
「……今日はここまでにしてやる」
「逃げるのか」
神代が言う。
「違う」
男は首を振る。
「報告する」
淡々と。
「対象確認。護衛あり。排除には追加戦力が必要」
最悪の報告だ。
「……また来るぞ」
「だろうな」
「次は、終わらせる」
そう言って男は――消えた。
完全に。気配も残さず。
静寂が戻る。
「……はあ……」
セリナが膝をつく。
「強すぎ……」
「……ああ」
神代も息を吐く。
あれは、明らかに格が違った。
「……神代」
ルシエルが小さく言う。
「……ごめん」
「何が」
「……止めきれなかった」
「いい」
短く答える。
「むしろ抑えた方だ」
「……ん」
少しだけ、安心した顔。
「……ねえ」
セリナが顔を上げる。
「今のやつ、何よ」
「さあな」
「でも確実に――」
言葉を区切る。
「今までのとは別格」
「だな」
否定できない。
「……神代」
「なんだ」
「……増える」
ルシエルが静かに言う。
「……もっと強いの」
その言葉。重い。
「……面倒だな」
神代が呟く。
でも――引く気はない。
「……逃げるだけじゃ足りねえな」
「ええ」
セリナも頷く。
「強くならないと」
「……ん」
ルシエルも小さく頷く。
三人の視線が交わる。
さっきの戦いで、はっきりした。
――このままじゃ勝てない。
「……やるしかねえな」
静かに言う。
その声には、もう迷いはなかった。
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