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拾った娘が元魔王で、気づけば俺たちは敵になっていた  作者: 東海林


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10/30

10話

宿に入った瞬間、ようやく少しだけ息が抜けた。


「……とりあえず部屋確保」


「ええ」


セリナが受付に向かう。

その間も、神代は周囲を軽く確認する。

――視線は、まだある。

減ってはいるけど、消えてはいない。


「……神代」


「なんだ」


「……いる」


「分かってる」


ルシエルが小さく呟く。

声はいつも通りでも、手の力が少し強い。


「……部屋、取れたわ」


セリナが戻ってくる。


「二部屋。隣同士」


「分かった」


鍵を受け取る。

そのまま階段を上がる。

廊下は静かだった。


逆に、それが不気味だ。




部屋に入る。ドアを閉めた瞬間。


「……外、二人」


ルシエルが即座に言う。


「廊下か?」


「……うん」


「……やっぱり来てるわね」


セリナが舌打ちする。


「どうする」


「まずは様子見」


「賛成」


いきなり動くのは危険だ。

相手の出方を見たい。


「……神代」


「なんだ」


「……近く」


「分かってる」


ルシエルがぴったり隣に座る。

というか、もう半分乗ってる。


「……ねえ」


セリナが小声で言う。


「この状況でそれ必要?」


「……必要」


即答。


「……はあ」


諦めた顔。

もう突っ込む気もないらしい。



しばらくしてコツ、コツ、と足音が近づいてきた。


廊下。ドアの前で止まる。


「……来る」


ルシエルの声。


次の瞬間。


――ガチャ。


鍵が、外から開いた。


「は?」


セリナが即座に剣に手をかける。


でも――ドアが開いた瞬間。


「やっほー」


軽い声。


「……お前かよ」


そこにいたのは、リオだった。

手をひらひら振っている。


「びっくりした?」


「するわ」


即答。


「なんで鍵開けてんのよ」


「得意なんだよね」


あっさり言う。

悪びれた様子は一切ない。


「……不法侵入って知ってる?」


「知ってるけど?」


「ならやめなさいよ」


「無理」


即答。こいつ、ほんとに自由だな。


「……神代」


ルシエルが少しだけ声を低くする。


「……やっぱ嫌い」


「分かる」


今回は同意する。


「ひどいなあ」


リオは笑ったまま、部屋に入ってくる。

そして――ドアを閉めた。


「……何しに来た」


「様子見」


軽く言う。


「それと――」


一瞬だけ、表情が消えた。


「確認」


空気が変わる。

さっきまでの軽さが、消えた。


目が、違う。


「……何の」


セリナが警戒を強める。

リオは、ゆっくりとルシエルを見る。


「本当に、それなのか」


その言い方。完全に確信してる。


「……なに」


ルシエルの目が細くなる。


「……知ってるのか」


神代が聞く。


「まあね」


肩をすくめる。


「探してたから」


「……誰に頼まれてる」


「上」


簡単に答える。


「魔王の残滓を回収しろってさ」


空気が、一気に冷える。


「……やっぱりか」


セリナが低く呟く。


「でもさ」


リオは笑う。


「思ってたのと違うんだよね」


「何が」


「もっと、こう……」


言葉を探す。


「バケモノっぽいと思ってた」


ルシエルを見る。

今はただ、神代の隣にいるだけの少女。


「……失礼」


「いや事実だろ」


神代が返す。


「でも違う」


リオは首を振る。


「少なくとも、今は」


「……だから何だ」


「だから――」


一歩、近づく。

その瞬間。セリナが剣を向けた。


「それ以上来るな」


「怖いなあ」


でも止まらない。

ギリギリの距離まで来る。


「……どうする気だ」


神代が聞く。

リオは、少しだけ考えて――


「まだ決めてない」


「は?」


「だってさ」


軽く笑う。


「任務通りなら、報告して終わり」


「……だろうな」


「でも」


視線が揺れる。

ほんの一瞬だけ。


「それ、つまんなくない?」


――やっぱりこいつ、普通じゃない。


「……は?」


「せっかく見つけたのにさ」


肩をすくめる。


「はい報告、はい回収って、味気ないでしょ」


「仕事だからな」


「それはそうなんだけど」


少しだけ、間を置く。


「もうちょい見たいなって」


その言葉。

軽いのに、妙に本音っぽい。


「……信用できると思う?」


セリナが低く言う。


「思わないでいいよ」


即答。


「その代わり」


にこっと笑う。


「裏切るかもしれないし、助けるかもしれない」


「最悪じゃない」


「でしょ?」


楽しそうに言う。ほんとに最悪だ。


「……帰れ」


神代が言う。


「今はな」


「えー」


「今は、だ」


強く言う。

リオは少しだけ考えて――


「……分かった」


あっさり引いた。

そのままドアに向かう。


「でも」


振り返る。


「すぐまた来ると思うよ」


「何が」


「追手」


軽く言う。


「さっき外にいたの、あたしじゃないから」


「……は?」


「じゃあね」


そのまま、ドアを開けて出ていった。

足音が遠ざかる。


――静寂。


「……最悪ね」


セリナが呟く。


「完全に敵じゃないのが余計に面倒」


「だな」


神代も同意する。


「……神代」


「なんだ」


「……来る」


ルシエルが、静かに言う。


「……いっぱい」


その一言で全員の空気が変わった。


――次が来る。


しかも、今までより確実に強いやつが。


「……準備しろ」


神代が立ち上がる。


「ここで迎え撃つ」


「了解」


セリナも剣を構える。

ルシエルは、ゆっくりと目を細めた。


「……神代」


「なんだ」


「……壊していい?」


「……抑えろ」


「……ん」


短く頷く。

――その直後。

ドアが、外から叩き壊された。

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