53話 新人パーティ
「ちっ、先客か」
次の狩場へ到着した俺は、戦闘中の三人組を見て咄嗟に岩陰に身を寄せた。
狩場での遭遇は何かと気を使うからな。しょうがない、ここは諦めて別の狩場に――
三人の戦闘を見て立ち去ろうとした瞬間、俺は違和感に気づき足を止めた。
三人の周りには10匹以上のランドモルが存在し、その内の数体はすでにスタン状態が解除され三人を取り囲んでいた。
(三人であの数をさばけるのか?)
ランドモルのスタン状態は数十秒で解除される。
スタン中は完全に無防備になり、慣れたプレイヤーなら一度に何匹も相手取ることができる。
だが、見た感じ彼らの動きはどこかぎこちなく、戦況も優勢とは思えなかった。
(おいおい、まさかあれ全部に煙玉を投げ入れたのか!?)
少しでも状況を確認するため三人の周囲に目を向けると、あちこちの穴という穴から勢いよく煙が上がっていた。
(初心者か?くそっ、どうする!?)
もし意図してやっているのなら、敵に囲まれている状況も彼らの作戦かもしれない。
そうであれば例え善意で助けに入ったとしても、いい顔はされないだろう。
ぐるぐると思考が巡る中、俺は大きく息を吸いそれを一気に吐きだした。
「ああもう知らん!何かあったらそん時考える!」
俺は意を決して走り出し、スタン状態が解除された個体をパチンコで狙い撃つ。
「なんだ!?」
「う~ん?」
「え、なに!?」
三人がそれぞれ声を上げる中、俺はパチンコを引きながら声を張り上げた。
「これ以上動ける個体が増えたら面倒だ!スタン中の敵を先に始末してくれ!」
三人は突然の援護に驚いていたが、俺の声を聞いて顔を見合わせ、軽く頷くとすぐに行動に移った。
(よし、何とか指示に従ってくれたな。あとは――)
スタン状態が解除された個体が三人の元へ向かわないように、一発ずつ石を当てていく。
ランドモルのヘイトがこちらに向いたのを確認すると、小高い岩の上に駆け上がり状況を確認する。
(三人は――順調に狩ってるがまだ時間がかかりそうだな。後はこっちで数匹惹きつけながら逃げ回ればなんとかなりそうだ)
ランドモルは地上では動きが遅くなる。
例え複数いたとしても、遠距離から牽制していればそこまでの脅威にはならなかった。
適度な間合いをとってパチンコから石を打ち出し、それでも怯まない個体には鉛玉を打ち込み時間を稼いだ。
「ヒヒーン」
突然岩陰に待機させていたプリンが嘶く。
振り向こうとした瞬間――突然地面が盛り上がると俺の体は宙に浮き、気づけば空を仰ぐ形で地面に倒れていた。
(な、倒れた!?一体何が――いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!)
倒れていた時間はほんの数秒、牽制していたランドモルとの距離も十分離れている。
それでも嫌な予感が拭いきれず、俺は立ち上がるため急いで上半身を起こした。
「は?待っ――」
視界が変わった瞬間、目の前には今にも爪を振り下ろそうとしているランドモルの姿があった。
咄嗟に体を捻りランドモルの爪から逃れようとしたが、振り下ろされた爪は俺の右肩をなぞり、その衝撃で手に持っていたパチンコが足元に落ちる。
ランドモルが再び手を振り上げ、長く鋭い爪が陽光に照らされ反射した。
(くそっ、ここで死んだらあいつらが――)
「ヒィーン!」
突然割って入るように現れたプリンは、尻尾を激しく振り甲高い鳴き声を上げながらランドモルを威嚇し始めた。
「プリン!」
プリンの威嚇で怯んだランドモルの隙を突いてパチンコを拾い上げ、俺は弾受けにありったけの鉛玉をセットし力いっぱい引き寄せた。
「喰らえ!パワーショット!」
目と鼻の先にいるランドモルに狙いを付ける必要はない。
スキルを使った渾身の一撃。
鉛玉は腹に吸い寄せられるようにランドモルに全弾命中する。
「ちっ、ダメか……」
しかしランドモルのHPを削り切る事はできず、よろめきながらランドモルは腕を振り上げた。
「くっ――」
ランドモルの爪が俺の体を切り裂こうとした瞬間、背後から現れた男の一撃によって残り少ないランドモルのHPは0になり、その場に倒れ込んだ。
「悪ぃ遅くなった!大丈夫か!?」
「あ、ああ。そっちは全員無事か?」
「あんたのお陰でな。マジで助かったよありがとな」
他の二人の姿は見当たらない。
どうやらランドモルの処理を二人に任せて一足先に俺の下へ駆けつけてくれたらしい。
助けに入って逆に助けられたのはカッコつかないが、全員無事だと知りほっと胸をなでおろした。
「いやぁ、ギリギリ間に合ってよかった――」
「このバカ!あんたのせいでこんな事になったんだからちゃんと謝りなさいよ!」
突然男の背後から一人の女性が現れ、男の頭に勢いよく拳を落とした。
「なっちゃん、殴るのはよくないよぉ」
「本名で呼ぶなって言ってんでしょ!」
「ったく、相変わらずうるせえなぁ」
「うっさいわよバカ!あ、えっと、助けていただいてありがとうございます。それとこのバカのせいでご迷惑おかけしてごめんなさい」
「いや、無事ならよかったです。えっと、それじゃ俺はこれで――」
三人の漫才のようなやり取りに圧倒され、俺はその場から逃げるよう歩き出した。
「ん?あのー、この手離して貰っていいですか?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!助けられたままでお返しができてません。何かお礼させてください!」
「いえ、結構です」
「そんなことおっしゃらずに、お願いじまずうぅぅ」
おそらく現実なら肉を引きちぎられる程の勢いで引き止められ、俺は諦めて彼女たちに向き直った。
「えーっと、別に気にしなくても大丈夫ですよ。そこの彼にもお礼の言葉を頂きましたし……」
「あ、まだ自己紹介してませんでしたね。私は『アオイ』って言います。そしてこの子が――」
「はいぃ。わたしは『カエデ』といいますぅ。よろしくおねがいしますねぇ」
人の話を聞いてくれない活発な女性がアオイ、ほわほわしている方がカエデというらしい。
そして――
「この俺が【黒狼の牙】のリーダー、『ハルト』ってんだ。よろしくな!」




