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50話 いざ王都へ!

「くそっ、あと少しだと思ったのに!」


シープテイルとの戦闘は、最後に不意を突かれる形で俺の敗北に終わった。

完全に油断していた俺が悪いし、そこに後悔はあるが不満はない。


ゲームで失敗することはよくあることだし、反省して次に活かせばいいだけだ。

それよりも、今問題なのは――


「装備……どうすっかなぁ」


俺はストレージを見ながら呟いた。

先程の戦闘で、『銅の剣』と『アルマクトの盾』は耐久値が0になり、消失した。


すぐにでも装備を整えたかったが、バルドさんとの合流時間が迫っていたので俺は待ち合わせ場所へ急いだ。


「すみませんお待たせしてしまって」

「いえ、私も今来たところなので――それで、今日はどうしましょうか」

「あの、その前に行きたいところがありまして……」


今日をどうするか決まっていないが、フィールドに出る以上装備は必須だ。

俺はバルドさんにシープテイル戦での経緯を話し、バザーに行きたいと提案した。


バルドさんは俺の提案を快く受け入れ、俺たちはどんな武器がいいか話し合いながらバザーへ向かった。


「うーん」

「この辺りはどれも相場とあまり変わらないですね」


いくつかの露店を見ても、めぼしい装備は見つからなかった。

そもそも遠距離武器の品揃えは、ほとんどが弓で高額な物が多い。


デスナイトの報酬や今までの戦闘で蓄えはあるものの、弓を買えば所持金はほぼ0になる。

できればもう少し値段を抑えたいところだが……


「あ、それでは値段交渉してみるのはどうでしょう」


そう言ってバルドさんは一つの露店を指差した。


バザーの露店には無人のアバターが座っていて、話しかけることで売買ができるようになっている。

だがまれに、プレイヤー自身が露店に座り直接販売することもある。

そういったプレイヤーの場合、直接交渉して値切ることもできるそうだ。


俺は勧められるがまま露店の前へ移動した。


(来たはいいけど、俺値引き交渉なんてしたことないぞ……)


「あ、あのぉ、見せてもらってもいいですか?」

「は、はいっす!ぜひ見てってくださいっす」


元気な店主に許可を取り、俺は出品リストを表示した。


(お、結構……いや、かなり安いぞ!それにこれは――おいおいマジかよ!)


俺はリストからアイテムを選択し、それを出現させる。


「すみません!この『種子島』って、ほんとにこの値段で売ってもらえるんですか!?」


俺はこの世界で初めて手にした銃を前に、興奮気味に店主に問いかけた。


「は、はいっす!あ、でも少し問題があって……」

「もしかして一発打つのに時間がかかるとかですか?それなら全然――」


種子島の装填には30秒から1分ほど掛かると、昔テレビで見たことがある。

戦闘でその時間は致命的だが、それを補って余りある威力を持っている。

それに仲間と連携すれば十分使い物になるはずだ。


「いやその銃は……一発撃ったらぶっ壊れるっす」

「なんで!?」


運用以前の問題に、俺は思わず声を張り上げた。


「実は、その種子島を含めてみんな俺が作ったんすけど、どれも上手くできなくて……」


彼のサブジョブは鍛冶師。

生産系のジョブは作成時のミニゲームによって、アイテムの品質が大きく変わる。


「専用のクランとかあるみたいなんすけど、ノルマとかいろいろあって……俺はもっと自由に作りたいって思うんすよ」


クランでは効率よく生産をするために、コツや技術を共有しているらしい。

しかし、クランに入りたがらない彼は独学でやっている分、うまく装備を作れないようだ。


一度の作成で振れるハンマーの回数は決まっている。

温度管理や叩く強弱、スキルを駆使してランダムに設定される理論値を叩き出すのが鍛冶師の腕の見せどころだ。


「作り直すにも生産職メインの俺じゃ、材料を取りに行くのも一苦労なんす」

「なるほどなぁ、取引所で素材を買うっていうのは……」


俺が言い終わる前に鍛冶師の少年は首を横に振る。


「生産職はとにかく金がかかるんす。少しでも装備が売れれば別っすけどこれじゃあ……」


彼は自分の販売している品を見ながらうなだれている。

販売リストを改めてみると安い商品は耐久値が極端に少ないなど、訳あり商品になっているようだ。


(うーん、どうしたもんか……)


困っている彼を助けたい気持ちはある。

だが、俺も懐にそこまで余裕があるわけじゃない。


それならば――と、一緒にフィールドを回って素材集めを提案しようと思ったが、俺の後ろで石のように固まっているバルドさんを見て考えを改めた。


(せめて何か買って売上に貢献を――お、これなんていいんじゃないか?)


「すみません。これと……あとこっちもください」

「あ、あざっす!」


彼は自分の商品が売れたことが意外だったのか、呆けた顔をした後、途端に顔を輝かせた。


(そんな大した買い物じゃないのにな)


俺が手に取ったのはパチンコ――Y字型のフレームにゴムを通した簡素な武器だ。

そしてパチンコに必須な鉛玉を購入した。


「……あと、これも貰っていいですか?」

「え、でもこれは――」

「分かってます。護身用に持っておきたいので」


俺は先程の種子島をもう一度手に取り、表示された金額を支払った。


全て合わせて大金貨三枚。

訳あり品でなければ大変お買い得な値段だが、品質を考えれば決して安くはない買い物だ。

だが、金のない彼からすればこれでも精一杯の値段設定なんだろう。


「あ、あの……ありがとうございまっす!」

「いえ、これからも鍛冶師として頑張ってください」


俺は振り返らず手だけ振ってその場を後にした。


「あ、あのユキトさん。大丈夫ですか?」


(やっちまった……)


頑張っている若者を見て思わずカッコつけたはいいものの、俺のストレージに表示された金額は残りわずかになった。


残りは金貨数枚、盾を買うのはこの際諦めて調合用の素材を購入することに決めた。

アルエ水やマナグリスを大量生産し、しばらくの間は中・後衛として戦うつもりだ。


取引所へ訪れた俺は早速素材を購入しようとリストを開いた。

取引所のリストは安い方から順に表示され、常に最安値が確認できるようになっている。


「は?嘘だろ……」


表示された素材は全て一度の購入限度数である99個が表示され、金額は俺が買った時に比べ三倍以上値上げされていた。


少数買うならそこまで問題はない、しかし99個からでしか買えないのであれば話は変わってくる。


「なんだよこれ……数時間前はこんな金額じゃなかったはずだぞ!」


俺の叫びにバルドさんは何事かと駆け寄ってくる。


「これは……やられたかもしれませんね」

「やられたって、何を」

「ここを見てください。販売者の名前です」


バルドさんの指し示す方に視線を向けると、そこには『ラパース』という名前が表示されていた。


「あの、この人がいったい何だって言うんです?」

「他の出品者を見てください」


わけがわからずバルドさんの言う通りに他の出品者を確認する。


「え、これって……」


画面に表示された素材、その素材の出品者が全て同じ名前で統一されていた。


「おそらく、転売目的で買い占めをされたんだと思います」


需要のある商品を調べ、一気に買い占めて値段を釣り上げる。

褒められた行為ではないが利益は出るため、この手の行為をするプレイヤーは後を絶たない。


「大して利益にもならないはずなのに、どうしてこんな……」


そう、利益が出るからやるんだ。

今回のように需要の少ないアイテムを買い占めても大した利益にはならない。


(ラパースとかいうプレイヤーの意図はわからないが、どのみち値段が釣り上がってることに変わりはない……)


「あの、提案なんですが一度王都へ行ってみませんか?」

「王都ですか?」

「はい、王都なら高額報酬のクエストもありますし、これからの事を考えても行っておいた方がいいと思うんです」


(高額報酬か……いつかは行くことになるんだし、ちょうどいい機会かもな)


装備を整え、これからも調合をするのであれば金はいくらあっても足りない。

それに王都にはクラン設立の施設や、その他にもここにはない施設がたくさんあるそうだ。


(クランか……二人とも元気かな)


たまにクリスさんから連絡はくるものの、二人とは随分会っていない。

二人と過ごした時間を過去の思い出と感じてしまうほど、時間が経ったように感じる。

それほどヴァルセリア・オンラインでの一日一日が濃密で、とても大切なものだと改めて実感した。


(……ていっても、思い出で終わらせるつもりはないけどな)


俺はまた二人と一緒に冒険することを心に決めながら、王都に行く決心を固めた。

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