51話 隠しクエスト
「どうですか?新しい武器の使い心地は」
「慣れは必要ですが、使い勝手はいいと思います」
アシスト機能のおかげで、一定の範囲内であれば多少下手でも攻撃を当てることができる。
焦って外すこともあるし、範囲外の敵への攻撃は純粋なエイム力が必要になるが、それでも片手剣よりパチンコの方が俺のプレイスタイルに合っている。
だが――
(かっこ悪いんだよなぁ……)
バルドさんや愛多のように、剣を使って敵を圧倒するスタイルは見ているだけで心が沸き立つ。
それに比べパチンコは、子供でも扱える道具として認知しているせいか、俺の心に全く響かない。
とはいえ、いくら愚痴っても今の俺が使える武器はこれとブーメランしか無い。
これ以上は考えても意味はないので、俺は話題を変えることにした。
「それにしても、やっぱり遠いですね」
王都は神殿都市の北に位置し、神殿都市と王都の間には隔たるように山脈が連なっている。
王都に行くには山脈を直接越えるか、迂回する方法がある。
俺たちは山脈を迂回し、遠回りするルートで王都へ向かっている。
「仕方ありません。今の私たちではあの山脈を越えることはできませんので」
王都への一番の近道はあの山脈を越えることだ。
だが、山脈には強力なモンスターが棲んでいて、山脈を越えようとするプレイヤーを見つけると襲ってくるそうだ。
モンスターは討伐可能で、実際にトップクランだけは討伐に成功している。
しかし討伐しなくても迂回さえすれば王都へ行くことができ、着いてしまえばその後はワープできるので、ほとんどのプレイヤーはあの山脈に近づくことはないようだ。
(んな強いモンスターをこんな所に配置すんなよな)
俺は遠くに見える山脈を忌々しげに見ながらため息を漏らす。
山脈を迂回し、歩き始めてから数時間、俺たちはようやく王都へたどり着いた。
「遠くから見えた時も思いましたけど、目の前で見ると圧巻ですね」
目の前にそびえる巨大な城壁。
王都を取り囲むように連なるそれは、華やかなイメージとは程遠く、まるで要塞のような威圧感を放っていた。
(いくらなんでも、でかすぎだろ……)
門をくぐり王都へ一歩足を踏み入れると、目の前に広がる光景に思わず足が止まる。
音という音が全て集約しているのかと錯覚するほど騒々しく、様々な場所で呼び込みの声やよくわからない楽器の音が鳴り響いている。
「すげぇ……」
神殿都市の整然とした町並みとは違い、王都は様々な家屋が軒を連ね、人々が所狭しと行き交っている。
(リエアの街が可愛く見えるな)
「――さん、ユキトさん!」
圧倒され動けないでいた俺の背後から、バルドさんが声を掛けてきた。
「え?あ、はい!すみません。ちょっと驚いてしまって……」
「初めてくるとビックリしちゃいますよね。あの、これからどうするかお聞きしたくて」
俺たちが王都へ来たのは高額報酬のクエストを受けることだが、それ以外にもプリンに乗る為の鐙の情報収集もしておきたい。
「……先にレンタル屋に行って鐙の情報収集をしてもいいですか?」
「ええ、もちろんです」
俺はバルドさんの背中を追って、南門からレンタル小屋のある東門へ移動した。
「ここがレンタル小屋です。そちらにいる店主の方に話しかけると馬をレンタルできます」
レンタル小屋には馬が数頭繋がれ、小屋の傍らにいる店主はこちらに気づきニッコリと微笑んでいる。
「いらっしゃいませ。どんな馬をご所望でしょうか?」
「あ、いえ、レンタルじゃなくて、少しお聞きしたいことがあって来ました」
「儂にですか?お答えできるかわかりませぬが伺いましょう」
俺は店主にプリンをテイムしたこと、そして乗るために鐙が必要な事を伝えた。
「ふむ、そういうことでしたか。鐙ならこちらでご用意できますよ」
「え!売ってもらえるんですか!?」
「え、ええ、鐙は儂らにとって必要なものですから、常に在庫を置いてあります」
あまりにもあっけなく鐙を手に入れられる事がわかり拍子抜けするが、プリンの背に跨る自分を想像し胸が高鳴っているのを感じる。
「あの、鐙はおいくらですか?」
「大金貨10枚ですな」
聞き間違いか?金貨でなく大金貨10枚と聞こえたような気がしたが……
(まさかな)
「すみません。上手く聞き取れなくて、もう一度教えてください」
「はい、鐙一つで大金貨10枚です」
「……」
人の良さそうな顔をして、このおっさんぼったくる気だろうか。
鍛冶師の少年から装備を買っていなくても、到底手の届く金額じゃない。
(……しょうがない、金を貯めてから出直すか)
「すみません、手持ちがないので出直します」
俺は店主から視線を逸らし、ギルドへ向かうためバルドさんに案内を頼もうと振り返った。
しかし、バルドさんはその場から動こうとせず少し考える素振りを見せた後、店主に向かって口を開いた。
「あの、値段が高すぎる気がするのですが、何か理由があるんですか?」
「え、ちょっと、急にどうしちゃったんですか!?」
普段のバルドさんならNPC相手とはいえ、誰かに意見するようなことはしないと思っていた。
だからこそ、バルドさんの行動に俺は驚きを隠せなかった。
「実は、鐙を作っている職人が急に納品ができないと言い出しましてな。なんでも鐙の素材に使う『ペンナブル』の生息地へ繋がる街道にモンスターが現れたとか……」
隠しクエスト【名馬を求めて】の受注が可能になりました。
クエスト達成条件:街道を塞ぐモノクルスの討伐
クエスト報酬:天駆の鐙
クエストを受注しますか?
【はい】 【いいえ】
(なんだこれ、隠しクエスト?)
「やはり隠しクエストでしたか、値段がおかしいのでもしやと思いましたが……」
隠しクエストは一定の条件を達成すると受注できる特別なクエストだ。
過去にプレイしていたゲームでもこういったクエストはあったが、このゲームにも存在するらしい。
それにしても指定モンスターの討伐か、この手のクエストで弱いモンスターだった試しがないんだよな。
「あの、っ……」
俺は喉元まで出かけていた言葉を慌てて引っ込めた。
今何をしようとした?
当たり前のようにバルドさんに情報を求めようとしていなかったか?
勝たなければ行けない局面ならまだしも、安全に勝ちたい――ただそれだけの理由でバルドさんの知恵を頼ろうとした。
(それはダメだろ……)
ベテランに教えを請うことは別に悪いことじゃない。
ただそれが、いつの間にか当たり前のように――感謝もせず当然の権利として求めてしまうと、簡単に関係が破綻してしまうことがある。
昔プレイしたゲームで俺はそこそこのプレイ歴があった。
初心者の頃にはベテランに教わったことがあるし、ベテランと呼ばれるようになってからは初心者に手ほどきをしたこともある。
そして、両方体験したからこそ分かったことがある。
それはどちらも相手の事を考えなきゃダメってことだ。
ベテランが初心者に教えるのは何も善意だけじゃない。
自分の溜め込んだ知識を披露し、それで感謝されれば最高に気持ちいいからだ。
だが調子に乗って過剰に情報を与えれば、初心者の楽しみを奪ってしまうことになる。
逆に善意で教えてくれる上級者に、調べればすぐ分かることを聞いてくる初心者は毛嫌いされる。
ベテランでも初心者でも相手は人間だ。
怒りもすれば泣くことだってある。
(要するに相手には敬意を払えってだけなんだが……)
もちろんバルドさんに敬意を払っているし、感謝を忘れたこともない。
だが、一度その環境になれてしまうと人は簡単に抜け出せなくなる。
「頭でわかっちゃいるけど、頼っちまうんだよなぁ」
「あのぉ」
「うおっ、ビックリしたぁ」
突然背後から声を掛けられ、思わず後ずさった俺にバルドさんは何度も頭を下げた。
「すみません、何度かお呼びしたのですが反応がなかったので」
「あ、いえ、こちらこそすみません。大げさに驚いたりして……」
よかった。先程の独り言は聞かれていなかったらしい。
「あ、あの、何か悩み事でもありますか?話して楽になることもあるので私でよければ相談にのりますよ」
しっかり聞こえてたよ……
ここで何もないと言ってもバルドさんのことだ、きっとかえって気を使わせてしまう。
(別に隠すようなことでもないしな)
俺は思っていたことを全てバルドさんに話した。
そして最後に、俺はなるべく頼らないようにしますとやんわり伝えた。
「……あの、頼るのってそんなにダメなことなんですか?」
「え?」
「すみません!ユキトさんが仰ったような経験は私にはありません。でも、私はとも――な、仲間に頼られたら嬉しいし助けたいと思ってます」
それは俺も同じだ。
でも――
「もし何か不満があったらその時は、直接相手に伝えます。それくらい言い合える仲だと思ってますから」
バルドさんはそう言って微笑み、俺はそんなバルドさんを見て息を吐いた。
(ったく、おっさんになって小難しく考える癖がついちまったのかもな)
「すみません。なんかいろいろ考えすぎてました。もう大丈夫です!」
そうだ、もっと単純でいい。
俺には頼れる仲間がいる。
「行きましょう。隠しクエスト――モノクルス討伐へ!」
「はい!あの、モノクルスには厄介な特徴が――」
俺は手を前に突き出し、バルドさんの言葉を遮った。
「楽しみは取っておきます。大丈夫、どんな相手だって俺たちなら余裕です!」
バルドさんは無言で頷き、俺たちはモノクルスの待つ街道に向かって歩き出した。
そして意気揚々とモノクルスへ挑んだ俺は、戦闘開始直後にモノクルスから放たれた巨大な斧によって、あっさり命を散らすことになった。




