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48話 不完全な錬金釜

リエアの街に到着した俺たちは、明日の集合時間を決めて早々にログアウトした。


(そういや、あのゲームあれから全然やってないけど、今どうなってるんだ?)


リンを立派なヒーラーに育てる為、俺はあいつとパーティを組んだ。

始めは無愛想だったリンも次第に笑顔を見せ、目標を達成した後も俺たちは何かと一緒に遊ぶ事が多く、気づけば一年以上の付き合いになっていた。


「そりゃそうだよな」


VRの出現によって、多くのオンラインゲームがサービス終了に追い込まれた。

そしてそれはリンと出会ったゲームも例外ではなかった。


(今さら検索なんかして、どうしようってんだ)


あの時の俺は周りの変化にただただ焦っていた。

リンから向けられる笑顔、そして他のプレイヤーと過ごす時間だけが俺の不安を吹き飛ばしてくれた。


ゲームの中は俺にとって最高の居場所だった。


でも、現実はそんな俺を容赦なく追い詰めた。

歳を重ねる毎に周りが変化し、自分だけが取り残されているような感覚。


辛い現実から目を背けるようにゲームにのめり込み、辞めたくても辞められず、天国と思っていた場所は次第に俺を縛り付ける牢獄に変わっていた。


それから俺は逃げるようにゲームから離れ、それ以来リンとも会っていない。


(ま、結局ゲームから離れても何も変わらなかったけどな)


あの時、逃げたことに後悔はない。

もしあのままゲームをしていても、結局俺は心の底からゲームを楽しめなかったと思う。


それでも――


(別れの挨拶くらいしとくんだったな……)


今ゲームを楽しめているのは、歳を取って自分の限界を知ったからだ。

でも当時の俺は何もわからず、とにかく余裕がなかった。

自分の事しか考えられず、慕ってくれていた女の子に別れの挨拶すらせずに逃げ出した。


(ほんと、後悔先に立たずとはよく言ったもんだ)


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


ドンドンドン


「んぁ!?んだよ、朝っぱらから」


荒々しく扉を叩く音が部屋中に響き渡り、俺の睡眠は強制的に解除された。

気持ちよく寝ていた所を邪魔され、俺はボーッとする頭を掻きながらドアノブに手を掛けた。


「……だって」

「……から、ちょっと静かにして」


このボロアパートにチャイムなんて高等な物もなければ、のぞき穴すらない。

普段ならドアを開けるまで誰が立っているか分かるはずもないが、扉の向こうから聞こえる聞き覚えのある声を前に、俺は慌てて部屋に戻りズボンを手に取った。


「あ、やっと出た!」

「ちょっと凛心、まだ早いんだから声抑えて!」


玄関を開けると、そこには二人のギャルが騒がしく立っていた。


「お前ら、なんでこんな朝っぱらからここにいるんだよ」

「おじさんに用事があって来たの!」

「ねぇ、外暑いんだから中入れてよ」


なぜここにいるかは分からないが、凛心は俺の返事を待たず家の中に押し入った。

愛多は申し訳なさそうな顔をしながらも、凛心の後へ続いた。


「で?何なんだこの状況は?」

「それはマジでごめん!今日はおじさんに謝りたいことがあってさ、私この後バイトだから今しか時間作れなかったんだよ」

「謝りたいこと?」


謝罪したいと言われても皆目見当がつかない。

身に覚えはない――が、わざわざこんな時間に出向いてくるなんてよっぽどのことなんだろう。


「うん、私も話を聞いてビックリしたんだけどね。ほら、凛心!」

「えー、ユッキーだって若い娘と一晩一緒にいられて嬉しかったと思うけどなぁ」

「りーこー」

「はいはい、ユッキー昨日はごめんねー」

「昨日?あの、話が全然見えないんだけど……」


二人の会話を聞いていても全く意味がわからなかった。

昨日というなら宿泊についてだろうが、謝られる理由はない。

むしろ引き入れた俺にも問題はあったと思う。


「あのね、凛心がお金ないって言ったらしいけど、それ嘘だから」


確かに昨日、凛心は金が無いから泊めてくれと言っていた。

しかし嘘を吐いてまで押し入った理由が分からない。


それから愛多は申し訳なさそうに事情を説明してくれた。


凛心は最近、愛多の付き合いが悪いことを不満に思っていたらしい。

事情を聞くと、愛多は最近始めたオンラインゲームが忙しく、そこで出会ったフレンドのことを楽しそうに話していたそうだ。


「うちより優先されるの悔しいけどらぶがすごく楽しそうに話すからさ、最初は黙って見守ってたわけ、そしたらさぁ」


愛多のことを見守っていた凛心は、先日出会った俺が愛多のフレンドと知って心配になったらしい。


そりゃそうだ、自分の親友がこんなおっさんと仲良くしてたら心配して当然だ。

凛心は俺の後を付け、金がないと言って無理やり家に乗り込み俺の反応を伺っていたそうだ。


「なるほどな……つーかいくら何でも危険すぎるだろ!俺が襲ってたらどうするつもりだったんだよ」


若い女性が中年男性の家に来るなんて危険極まりない。

一歩間違えれば最悪の展開だってありえたかもしれない――そう思ったらついつい声を荒げていた。


「うーん、それについては確かに危なかったかも……おじさんがだけど」

「は?」

「凛心って昔結構やんちゃしてたらしくてさ、それに習い事もやってたんだよね?」

「離婚した親父の影響でちょっとね~そんな大したことないよ」


あっぶねぇ。

手を出すつもりなんかなかったけど、一歩間違えてたらこっちが最悪の展開を迎えてたかもしれない。


「とにかくさ、一晩過ごしてユッキーがいいやつってわかって安心したよ。いろいろ疑ってごめんね」

「いや、まぁ愛多みたいな若い娘がこんなおっさんと一緒にいたら疑いたくもなるだろ」

「だよねー」

「凛心!」


愛多は凛心を諌めるように怒ってはいるが、凛心はそれを楽しんでいるように見えた。


「あ、それより愛、あのことユッキーに言わないと!」

「あ、そうだった!あのねおじさん、私少しの間パーティ抜けてもいいかな?」


理由を聞くと、凛心は俺の家を出た後すぐにネカフェに向かいゲームをプレイしようとしたらしい。

しかしゲームをやったことのない凛心は操作が分からず、お手上げ状態になって愛多に泣きついたそうだ。


「このまま合流しても迷惑になっちゃうからさ、凛心が慣れるまでは二人でやろうかなって」

「いいんじゃないか?あ、でも俺がこれ以上強くなっても僻むなよ?」


俺はスマホのアプリを起動して、表示されたステータスを愛多に見せた。


「え?マジ?なんでそんな上がってんの?ダンジョン入る前は5だったよね?」


前のめりになって問い詰める愛多に、俺は別れた後のことを包み隠さず話すことにした。


「うわぁ、引くわ~。おじさん私に言わなかったっけ?楽して強くなるのは~てきなこと」


言った、しっかりと覚えてる。

俺は正直、キャリーされて強くなるプレイヤーの事を軽視している。


VOの運営もある程度対策しているとはいえ、抜け道のようなものは必ずプレイヤーに発見される。

今回も適正ダンジョン内であれば、キャリーしてもらい楽にレベルを上げることはできる。


これで劇的なレベル上げはできないものの、数レベル上げることは可能だ。


だがレベル上げはステータス上の経験値だけでなく、強くなるための経験を積む意味もあると思っている。

実際、キャリーされたプレイヤーは上位のダンジョンやレイドで使い物にならない事が多かった。


「いや、今回はバルドさんの実力を見せてもらう意味もあってだな」

「ふーん、でもさそれをあたかも自分の実績みたいに言うのはどうなの?」

「い、いやそれはそのぉ、少し調子に乗っていたというか……すみません」


愛多からの突き刺さるような視線に、俺は観念したとばかりに謝罪した。


「ぷぷ、冗談のつもりだったのに焦ってんのウケるんだけどー」

「お前なぁ」

「あのー、うちを仲間はずれにすんの辞めてほしいんですけどー」


それから少し雑談をし、バイトの時間が迫っていた愛多は慌てて凛心の手を引いて出ていった。


俺は静かになった室内で軽い朝食を済ませ、ゲームの電源を入れた。


「バルドさんと合流するまでに、やることやっとかないとな」


ログインするやいなや、俺は以前素材を売った道具屋へ向けて一目散に駆け出した。


「なんだお前か、今日も素材を売りに来たのか?」


店に入ると相変わらず怖そうな店主が鼻をふんと鳴らし、問いかけてくる。


「いえ、今日は鑑定をお願いしたくて伺いました」


迫力ある外見と流暢な受け答えに、相手がNPCということを忘れそうになりながら問いかけに答える。

今回ダンジョンの攻略報酬はただの上級ポーションだったが、転移部屋の宝箱の報酬は見たこともない錬金釜だった。


バルドさんに聞いても効果はわからないということだったので、もしかしたら凄いお宝なのかもしれない。

俺は期待に胸を膨らませ、店主に錬金釜を差し出した。


【錬金釜】

効果:?????/?????


「ふん、錬金釜か……すぐ終わるから待ってろ」


店主は錬金釜を手に取り、カウンターの奥へ持っていくと数分もしないうちに戻ってきた。


「ほらよ、鑑定結果がでたから確認してくれ」


【不完全な錬金釜】

効果:連続錬成/?????


「連続錬成って何ですか?それに二つ目が鑑定できてないみたいなんですけど……」

「連続錬成ってのは、錬金釜を使う度に発生する待機時間を無くす効果がある。つまり素材さえありゃあいくらでも錬成し放題ってことだな」


え、それってすごくレアなんじゃないか?

待機時間が無くなるなんて、普通なら喉から手が出るほど欲しい効果のはずだ。


「この錬金釜ってもしかしてすっごいレアだったりします?」

「あん?ったく、何も知らんようだが連続錬成ってのはダンジョン産の釜じゃ珍しくも何ともないわい」


これは間違いなくレア物と思って鑑定に出した品がそこらの物と変わらないと言われ、浮かれていた分ショックは大きかった。


「……ふん、ただもう一つの効果だがな、こいつ次第じゃ化けるかもしれんぞ」


店主は珍しく口の端を吊り上げ、ニヤリと笑いながら錬金釜を指さした。


「もう一つの効果は鑑定じゃはっきりせなんだ。こいつを真の姿にするには何かが足りんのかもしれん」

「それって何なんですか!?」

「バカモン!そんなの分かったらとっくに元通りにしとるわ!それを探すのがお前の仕事だ」


結局、二つ目の効果はわからずじまいだったが、あれだけ苦労してゲットしたお宝にまだ可能性があると分かってホッと胸を撫で下ろした。


「さてと、せっかく錬金釜を手に入れたんだ使わない手はないよな」


俺は街のバザーを片っ端から巡り、捨て値同然の素材をいくつか購入した。

そして取引所にも顔を出し、めぼしい商品を見つけては片っ端から買い漁った。


「さすがに買いすぎたか……」


ストレージにはヒリング草やエーテル草、それに油嚢など様々な材料が並んでいる。


転移部屋でのゴブリン戦、俺の窮地を救ったのは咄嗟に投げた魔力ポーションだった。


あの時、油嚢の油を被ったゴブリンに魔力ポーションが当たり、その後投げた松明によってゴブリンの体は炎に包まれた。


原因は魔力ポーションで間違いない。

通常油嚢の油は油嚢から取り出した瞬間劣化し、油としての燃焼能力が無くなる。


(油嚢から出たら劣化……いや、そもそもほとんどの素材は進行速度こそ違うが劣化するよな……)


「あん?何だお前また来たのか、今度は何のようだ!」

「お尋ねしたいことがあります」


なぜ素材が劣化するのか、ない知恵を絞っても答えは出なかった。


(餅は餅屋っていうしな)


「ああ?何で素材が劣化するかだあ!?てめえそんなことも知らねえのか!」


(何でゲームの中でまで怒られないといけないんだよ!)


「ふん、まあいい。素材が劣化する理由はなモンスターの魔力が関係してる」

「魔力ですか?」

「ああ、どんなモンスターでも体内には魔力が通っててな、その循環した魔力がモンスターの力になってるってわけだ」


モンスターに魔力があるのは分かった。

でもそれと劣化がどう関係してるっていうんだ?


「あの、それと劣化にどんな関係が?」

「ああん!?今のでわかんねえのか!察しのわりぃ野郎だな」


(NPCに怒ってもしょうがない、我慢だ、俺……)


「はぁ、いいか?素材は魔力を通して力を発揮する。それなら供給が止まった素材はどうなると思う?」

「えっと、力を失う……」

「ああ、それが劣化って形で現れるわけだ」


劣化は魔力の供給が止まるから起こる――なら、再び魔力を通してやれば劣化しなくなるはずだ。

ゴブリン戦では魔力ポーションが当たって燃焼能力を取り戻した。それなら――


「ま、とりあえずいろいろ試してみますか」


錬金釜に素材を入れると釜はガタガタと震え、やがて釜の中から煙が上がりアイテムが出来上がる。


【ゴミ】×1

使い道のない無価値なもの


「ゴミって……」


入れた素材はそこら辺で拾った石とヒリング草だった。

その後も購入した素材を使って様々な組み合わせを試してみた。


(いろいろ分かってきたぞ)


まず、錬金できる組み合わせは決まっていて、正しい組み合わせ以外はゴミとして排出される。

そして、一部のアイテムは素材の質によって完成品に違いが出ることも分かった。


以前、クリスさんから教わったヒリング草とスライム水を使った回復ポーションを作ってみた。

クリスさんは出来上がるのは劣化した回復ポーションと言っていたが、それはスライム水が劣化していた場合だ。


スライム水はストレージから出すとすぐ劣化する。

しかし俺のサブジョブ解体屋のスキル『状態保存』ならスライム水を劣化させず運用することができる。


実際に劣化していないスライム水を使用した所、劣化していない回復ポーションを作ることができた。

ダンジョン報酬で見かける上級ポーションほどではないが、通常の回復ポーションでも戦闘では大いに役立ってくれるはずだ。


(役立たずと思っていたスキルがまさかこんな形で化けるなんてな)


その後も検証を重ね、油嚢については魔力ポーションと合わせることで本来の燃焼効果を取り戻せることがわかった。


組み合わせを見つけてはメモを取り、作業に集中していたせいか気づけば昼時をとっくに過ぎていた。


「ん?もうこんな時間か、素材買い足したいけど先に飯食うか」


数時間にも及ぶ錬金で買い漁った素材はほぼ使い果たした。

補充をしようと考えたが腹の虫がもう待てないと鳴り出し、俺は冷蔵庫を漁りに立ち上がった。


――この時、腹の虫なんて無視してでも素材を買っておけばよかったと、俺は後悔することになる。

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