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40話 古層の迷宮①

今回のお話で、キャリーという単語がでてきます。

キャリーとは実力のあるプレイヤーが、実力の低い味方をサポートする行為です。

上位のプレーヤーが下位のプレーヤーのレベル上げやランク上げをサポートするために、一緒にプレーするなど

「着きました。ここが『古層の迷宮』です」


場を和ませようと、とっさに口にした俺の一言。

それを受けて、バルドさんがダンジョン行きを提案してくれた。


リエアの街から数キロ、草原を歩いていると不自然に盛り上がった小高い丘が姿を現す。

丘の斜面に半ば埋まるように石造りの入口が、ポッカリと口を開けている。


「このダンジョンは罠が少なく、低レベルですがモンスターも多く出るのでレベル上げにちょうどいいと思います」


今回は通常のレベル上げと同時にジョブレベルも上げるため、ピコを戦闘に参加させるつもりだ。

保険としてバルドさんにはパーティリーダーを務めてもらっている。


「すみません。めんどうな役目を押し付けてしまって……」


以前の影のこともある。

ピコに万が一の事が起こらないように、バルドさんには全力で戦ってもらう必要がある。


もちろんキャリーしてもらうつもりはない。

モンスターは俺と愛多で処理し、バルドさんには後方から見ていてもらうつもりだ。


「ピコちゃんは死なせません。安心して背中を預けてください」


心強い言葉を受け、俺は前だけを見てダンジョンへ足を踏み入れた。


「オリエンス遺跡のダンジョンとは全然違いますね」


古層の迷宮は、オリエンス遺跡とはまるで違っていた。

道幅は広く、通路は光源が見当たらないのに明るい。


分かれ道も複数あり、俺たちは何度もマップを確認しながら行ったり来たりしている。


「ダンジョンは入るたびに中の構造が変化します。

オリエンス遺跡は元々ダンジョンではなく、建物が朽ちた所に魔物が住み着いて簡易ダンジョンのようになったと書いてありました」


驚いたことに、バルドさんはヴァルセリア・オンラインに関する書籍を全て読み漁っているらしい。

本人はちょっと好きなだけと言っているが、発売された書籍を全て買う辺り、あきらかにちょっとの域を超えている。


「あ、この先の曲がり角になにかあります!気をつけて進んでください」

「え?わかるんですか?」


ダンジョンは入るたびに中の構造が変わる。

先ほどバルドさんが言った言葉だ。


(いくら経験豊富とはいっても、構造が変わるダンジョンの細部まで分かるもんなのか?)


「私、サブジョブが『探査士サーチャー』なんです」


探査士は感知系のジョブで、一定の範囲にある資源や敵の脅威などを察知することができるようだ。

とても便利なジョブと思ったが、バルドさん曰く使い勝手はそれほどよくないらしい。


「範囲はそこまで広くないですし、この先に何かある程度の情報しか得られません。ただレベルカンストまですればいくつか使えるスキルもありますが――」


(ということは、俺の『解体屋』もレベルを上げれば少しはマシになるのか?)


正直に言って、俺のサブジョブ解体屋は全く役に立っていない。

レベル1の解体報酬アップはまだいいが、次に取得したスキル【状態保存】、これがほんとに意味がわからない。


今後レベルを上げれば役に立つかもしれないが、現状では完全にゴミスキルだ。

今回の戦闘でジョブレベルが上がればいいが、次のスキルも役に立たなかったら……そう思うとジョブレベルを上げるのが怖くもある。


そんなことを思いつつ曲がり角を曲がると、前方に敵の姿を発見した。


【エルビートル】

全身はオレンジ色で、所々に黒い模様の入った体長1m程の虫が三匹横並びになっている。

人によっては嫌悪感を抱く姿をしているが、隣りにいる愛多からは特に何のリアクションもなかった。


「お前、こういうの平気なんだな」

「んー?キモいっちゃキモいけど、画面越しだし余裕余裕♪」


なんとも頼りがいのある言葉に感心していると、後ろから悲鳴なような声が聞こえ、

振り向くとそこには、先程通った曲がり角から半分だけ顔を出したバルドさんの姿があった。


(あの人、あの見た目で虫が苦手なのかよっ!)


元々バルドさんには後方で見てもらうつもりだったし、肝心のピコはバルドさんに抱きかかえられている。

問題はない――が、頼れる先輩の意外な姿に、思わず苦笑いがこぼれる。


俺は改めてエルビートルに向き直り、剣を抜いた。

狭くはないものの、通路での戦闘ではブーメランを使えるほどのスペースはない。

適正武器の熟練度を上げることができないのは痛手だが、使える武器が少ない現状では仕方がなかった。


「攻撃してこないね……どうする?こっちから行っちゃう?」


武器を構えて臨戦態勢に入ったはいいが、エルビートルはこちらを警戒してなかなか動こうとしない。

今までの俺なら様子見をしていただろう。

しかし、過去の経験を経て俺は一つ学んだことがある。


俺は手早くストレージを操作し、大量に保管した石を取り出すと、それを持てるだけ手に持った。


「ん?おじさんどしたん――って、なにそれ?」


愛多は俺の手にある石を見て、怪訝そうな表情を見せる。


「何って石だが?見てわかんないか?」

「いやいや、それくらい分かるっつ―の。私が聞きたいのはそれをどうするかってこと!」

「投げる以外、使い道なんてある?」


俺は……弱い。

その証拠に影との戦いで俺は指示をしただけ、勝てたのはバルドさんと愛多のおかげだ。


別に弱くたってゲームは楽しめる。

けどな――何もできない足手まといに、年下に守られてばかりなんてまっぴらごめんだ!


弱いやつは弱いやつなりの戦い方がある。

……それを証明してやる!


勢いよく投げた石は、ばらけながら飛び――数発がエルビートルに命中した。

攻撃を受け警戒から臨戦態勢に入ったエルビートルは、三体同時に物凄い勢いでこちらに向かってきている。


「二匹受け持つ、残り一匹は任せたっ!」

「ちょっ、おじさん大丈夫なの!?」


レベルも装備も貧弱な俺が二匹を相手にどう戦うか、心配されても仕方がない。

俺は追加で石を投げ、エルビートルをさらに挑発する。


「ほらほらどうした、こっちにこい雑魚どもっ!」


クリスさんのメインジョブ『聖騎士』、このゲームにタンクという役割があるなら、この挑発も無駄じゃないはずだ。


ゲームの――ましてや虫に感情があるのかはわからない。

それでも、挑発が成功したのかエルビートルは一際大きい鳴き声を上げ、こちらに向かってくる。


俺はエルビートルから視線を外すと、愛多に背を向け駆け出した。

目的の壁に到着すると、壁を背にして盾を構える。


これで挟まれる心配をせず、前にだけ集中できる。


エルビートルは愛多に興味を示さず背を向けて俺を追ってきたが、それを見逃す愛多ではない。

背を向けている一匹に双剣で攻撃を加え、注文通り一匹を仕留めに掛かった。


まだ倒すのに時間はかかるだろうが、愛多がこちらに加われば挟み撃ちにできる。


(まあ結局、愛多頼みにはなるんだけどな)


エルビートルの攻撃は、強力な顎による噛みつきと突進だけだ。

二匹からの攻撃を全て防ぐことはできないが、盾を使いなんとか致命傷を避けている。


(これならなんとか――)


愛多が来るまでしのぎ切れる――そう思った瞬間、


「ちょっとー、なにこれぇ」


声のする方に視線を向けると、愛多は尻餅をついてその場から動かず、目の前にはすでに事切れたエルビートルが横たわっていた。


「おい、そっちが終わったなら手伝ってくれ!」

「そうしたいけど無理なんだってばぁ!」


よく見ると愛多の体は濡れていて、彼女を中心に透明な液体が床に広がっていた。


あの液体が何なのかわからないが、身動きが取れない以上、愛多の援護は絶望的だ。


(くそっ、こんなことならカッコつけるんじゃなかった)


会話をしてる最中でもエルビートルは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。


……どうせこのままじゃ、俺のHPが先に尽きる。

なら一か八かに賭けてやる!


狙うのは突進、重い一撃だが一定の距離を空けて繰り出してくる分、対処がしやすい。


一匹のエルビートルが足に噛みつき、HPがじわじわ削れていくが構わない。

俺はもう片方のエルビートルに全神経を集中させ、いつもより低い位置に盾を構えタイミングを図った。


「――ここだあぁっ!」


力強く地面を蹴ったエルビートルが、一直線に飛び込んできた瞬間――俺は構えていた盾を払い上げた。

絶妙なタイミングで盾とエルビートルが接触し、エルビートルは衝撃によって大きく後ろに吹き飛んだ。


渾身のパリィが決まって硬直しているエルビートルを無視し、俺は足に噛みついたエルビートルに剣を突き刺しとどめを刺す。


終われば呆気ない幕引きだったが、この程度の相手に苦戦するようじゃ先が思いやられる。


(もっと強くならないと――って、うん?)


【斬適正がD→Cに上昇しました】

【武器『片手剣』の熟練度が一定に達しました。片手剣スキル『スラッシュ』を習得しました】


突然目の前に表示されたシステムメッセージ。


適正装備じゃなくてもレベルが上がるのか?

いや、それより――


「おせぇええんだよおおぉぉ!」

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