39話 謝罪はいらない
待ち合わせ時間を過ぎていることに気づいた俺たちは、慌てて愛多の待つ神殿都市へ向かった。
すでに待ち合わせ場所で待機していた愛多に、事情を説明がてらプリンを紹介すると、ピコの時と同じく目を輝かせた。
可愛い可愛いといいながら、プリンが移動する横をニコニコしながら付いて歩いている。
プリンと愛多の行動をしばらく見守っていると、少し遠くに移動した愛多がこちらを振り返った。
「おじさーん、この子に乗ってもいいー?」
俺はもういい歳だ。
一番乗りにこだわる子供じゃあるまいし、愛多が乗りたいと言うのなら喜んでプリンの背中に乗る権利を譲ろう。
「い、いいぞー」
俺の返事を聞くと、愛多は嬉しそうに手を振った。
(ま、なんだかんだあいつには助けられてるからな、日頃の感謝ってことで……)
「あっ!ラヴさーん、ストップ!ストップでーす」
俺たちのやり取りを横で見ていたバルドさんは、突然何かを思い出したかのように声を出し、愛多のいる方に向かって走り出した。
しかし、バルドさんの制止が届くよりも早く、愛多はプリンの背に手を置き、地面を強く蹴っていた。
ステータス補正による身体能力で、自分の頭と同じ高さにあるプリンの背中に軽々と飛び乗る――すると、先程まで大人しかったプリンが突然暴れ出した。
「ちょっ、なに急に――」
あまりの暴れぶりにプリンの背から振り落とされそうになった彼女は、自ら飛んで地面に着地する。
愛多が離れるとプリンは突然落ち着きを取り戻し、草原の草を食べ始めた。
「すみません、所有権のことをすっかり忘れてました」
「所有権?」
俺と愛多の声が同時に重なった。
レンタル用のグラスメアには盗難防止の為、一時的に所有権を移し替える措置がされている。
もし所有者以外の者が騎乗した場合、今のプリンのように拒絶反応を起こすようだ。
(今のプリンの行動は、テイムした俺以外の人間が乗ったから起こったってことか……)
「えー、じゃあわたし、この子に乗れないの?」
「テイムされたグラスメアを見たことがないので絶対とは限りませんが、おそらく――あ、でも所有者と一緒なら乗ることはできるはずです」
現実でも馬に二人乗りしたりするからな、この世界でもその辺は同じってことか。
――つまり、プリンに一番乗りするのは俺にしかできないわけだ。
せっかく一番乗りを譲ろうと思ったが、それならばしかたがない。
「そういう理由ならしょうがない。お前に一番乗りを譲ろうとしたが、俺が乗るよ!いやあ、乗せてやりたかったんだけどなぁ」
愛多は頬を膨らませて何か言いたそうにしていたが、そんな彼女の横を通り過ぎ、俺はプリンの元へ向かった。
(やっぱり俺が乗ってやんなきゃだよな)
プリンを一撫でし、地面を力強く蹴ってプリンの背に跨る。
視点の高さが一気に変わり、ゆっくりと歩き出したプリンに合わせて画面が上下する。
段々とスピードを上げていくプリンの息遣いが聞こえ、画面越しとは思えない臨場感で、
俺はこの世界をいつもとは違う視点で堪能した。
始めは自転車程のスピードだった速度も、少しずつ早くなりトップスピードに近づいていく。
(すごい、これならどこにだって行ける気がする――)
ドサッ
突然視界がひっくり返り、次の瞬間――目にしたのは青空だった。
「は?え?」
何が起きたのかすぐには理解できなかったが、プリンの顔が目の前に出てきたことでようやく状況を理解することができた。
(落ちたのか、俺は……)
仰向けに倒れていた俺を心配する声が遠くから聞こえる。
だんだん声が近づいてくると、綺麗な青空が一変、バルドさんの顔が視界に飛び込んできた。
「…………」
「ユキトさん、大丈夫ですか!」
「あ、はい……大丈夫です」
ゆっくりと上半身を起こすと、何が起こったのかバルドさんに目で問いかけた。
「えっと……す、少しお待ちください!」
そう言ってバルドさんは突然動きを止めた。
「すみません、お待たせしてしまって。どうやらグラスメアに乗るには鐙が必要なようです」
(もしかして、わざわざ調べてくれたのか?)
「ステータスが高ければ乗ることはできます。
ですが、速度を出したり馬上での戦闘には鐙が必要です」
低レベルの俺のステータスは低い。
ステータスが高くても乗ることがせいぜいということは……
「つまり、鐙がなければプリンには――」
「戦闘の度に乗り降りすることを考えると、移動は歩いたほうがいいと思います……」
ピコは戦力外、プリンには乗れず――俺のテイムするモンスターってなんでこんなに癖が強いんだ……
「ユキトさんすみません。少し考えれば鐙のことだってわかったはずなのに――」
バルドさんが謝ることなんて一つもない、むしろ頼ってばかりで謝るのはこちらの方だ。
でも、ここで俺が謝れば優しいバルドさんのことだ、きっと気を使わせてしまう。
俺が彼と同じ立場なら謝って欲しいか?
いや、俺なら――
「鐙は手に入れるとして……どのみちステータスは上げたいと思っていたんです。もしよかったら、レベル上げ手伝ってくれませんか?」
バルドさんは一瞬キョトンとした表情を見せたが、すぐに顔をほころばせながら快諾してくれた。
謝られるくらいなら、頼ってくれたほうが俺は嬉しい。
これが正解かどうかなんてわからない。
でも、バルドさんの表情を見れば、少なくとも間違いではなかったと思えた。




