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38話 新しい仲間

「すみません、お待たせしちゃいましたか?」


「いえ、俺も今来たとこです」


まるで付き合いたてのカップルのようなやり取りだが、相手は可愛い彼女ではなく、ガチムチの男である。


愛多からバイトが長引いて遅れるという連絡を受けた俺たちは、それならば――と、先に二人で遊んでいようということになり、先日ログアウトした神殿都市で待ち合わせすることになった。


「それじゃあ、あい――ラヴが来るまでどうしましょうか?」


危なかった……つい、いつもの癖で『愛多』と、リアルの名前で呼びそうになってしまった。


「あ、ラヴさんの呼び方はいつも通りで大丈夫ですよ。他の方の前ではやめたほうがいいと思いますけど……」


「え?あの、俺あいつの名前言いましたっけ?」


「はい、あの黒い影を倒す為に指示をしていただいた時に言ってました」


迂闊だった……いくら余裕がなかったとはいえ、これは完全にマナー違反だ。


(後であいつに謝らないとな……)


「それに、そのぉ……ラヴさんが自己紹介の時に普通に名乗っていたので……」


あいつ何してんの?

オンラインゲームするのは初めてって言ってたけど、これは注意したほうがいいかもしれない。


「あいつのことは合流するまで置いておくとして、バルドさんは何かしたいこととかありますか?」


とは言っても、初心者の俺がいる時点で、できることは限られている。


「あの……昨日ユキトさんからお話を聞いて気になったことが……」


昨日のダンジョンの帰り道、俺は古参プレイヤーであるバルドさんに、モンスターテイマーについていろいろ聞いていた。


さすがのバルドさんでも知っていることは少なかったが、少しでもテイムの条件を得るために、ピコとスライムをテイムできた時の状況を伝えた。


望みは薄いかもしれない。

それでもバルドさんなら――と、期待を抑えられなかった。


①敵対しているモンスターのHPが一定値以下になる

②戦闘継続の意思

③モンスターとのステータスによる力量の差(HPを含む)

スライムの呪いを受けた時はHPが半減し、テイムできない


「これがユキトさんの考えるテイムの条件でしたよね?」


「ええ、そのとおりです」


「ではとりあえず、このやり方でテイムできるか試してみましょう」


♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「やっぱり何度試してもダメですね……」


俺たちは都市を出てすぐの草原で、雑魚モンスターを相手にテイムの検証を繰り返していた。

しかし、何度やってもテイムすることはできず、時間だけが無駄に過ぎていった。


(スライム相手でもダメなんて……もしかして、確実にテイムできる方法なんて始めからなかったんじゃないか?)


「バルドさん、お付き合いしていただいてありがとうございました。これ以上迷惑は掛けられないのでこの辺でそろそろ――」


これ以上やってもおそらく結果は変わらない、俺のわがままにこれ以上バルドさんを付き合わせるのは申し訳なかった。


それに愛多もそろそろ合流するはずだし、やめるにはいい頃合いだろう。

そう思ってバルドさんに声を掛けたが、彼は何か考え事をしているのか反応が返ってくることはなかった。


「あ、すみません。少し考え事をしていて――何か言いましたか?」


バルドさんに先程言ったことを再度伝えると、


「すみません、最後に試してもらいたいことがあるのですが――」


そう言って、バルドさんは空中に手をかざして、何か操作をし始めた。


『パーティからバルドが離脱しました』


突然、システムメッセージが表示され、バルドさんがパーティから抜けたことを告げられた。


「あの、これはいったい……」


「お話を聞いて思ったんです、ユキトさんがテイムに成功した時ってパーティを組まずソロで活動してる時じゃありませんでしたか?」


「っ!」


言われてみれば確かにそうだ……

ピコとスライム、二匹のモンスターは俺がソロで活動している時にテイムが可能になっている。


(いや、でも……パーティ行動中はテイム不可なんてことあるのか?)


「もし、ユキトさんの仮説が当たっていたとして、パーティを組んでしまえば簡単に条件を満たせてしまうと思うんです」


自分のHPは極力減らさず、相手のHPはギリギリまで減らす。

確かにパーティを組めば簡単にクリアできてしまう。


「運という可能性も否定はできませんが、試しにユキトさんよりレベルもステータスも低い相手で試してみませんか?」


バルドさんからの願ってもない提案に俺は即決し、すぐに雑魚モンスターのいるフィールドに移動した。


「俺よりレベルもステータスも低いモンスターって……あれですか?」


バルドさんに連れてこられたのは、ユニア村から歩いてすぐにある草原だ。

弱いモンスターなら初期村の近くということは納得できるが、目当てのモンスターを見て、思わず目を疑った。


「はい、あれが目当てのモンスター『グラスメア』です」


あれって……どう見ても馬だよな……


「あのぉ、どっからどう見ても現実の馬と同じに見えるんですが……」


「そうですね、見た目だけじゃなくて能力も現実の馬とほとんど変わりません」


それならステータスが低いのも納得だ。


「グラスメアは移動手段として、レンタルされていて――」


広大なフィールドを徒歩で移動するには時間がかかる。

安価な値段でレンタルできるグラスメアは、移動手段として重宝されているようだ。


モンスター扱いなら倒してレベル上げに使えると思ったが、


「どの個体もレベルは1しかありませんし、経験値も1しか貰えません。ただ、足は速いので逃げたりすることも考えると、スライムを狩ったほうがマシですね」


そんなにうまい話はない……か。


(確かにこいつなら俺よりステータスは低いし、安全にテイムの練習ができるってわけか)


それにテイムが成功すれば、無料で移動手段もゲットできる。

戦力にはならないが、試してみる価値はあるな。


「よし、それじゃあ早速やってみます!」


馬は非常に臆病で警戒心の強い動物と聞いたことがある。


手っ取り早いのは遠距離からの攻撃だが、ゴブリンを一撃で倒したブーメランでは攻撃力が高すぎる。

かといって、小石を投げた程度じゃ十分なダメージを与えられず逃げられる可能性がある。

俺に残された選択肢は、銅の剣による近接戦しかなかった。


警戒されないよう武器をしまい、ゆっくりと近づく。


(さすがにいきなり攻撃をしてくることなんてないよな?走ることしかできないって言ってたし)


グラスメアはこちらに気づくと、耳をピンと立てこちらを凝視している。

俺は一旦近づくのを止めると、あらかじめストレージから出しておいたモンスターの餌を手のひらに乗せた。


「よーしよーし、ほら怖くないぞー。美味しいご飯だよー」


グラスメアは餌に興味を持ったのか、少しずつこちらに近づき鼻をひくつかせる。

そして、ようやく警戒心を解き、手に乗せた餌を食べ始めた。


(よしっ!ピコのご機嫌取り用に買っておいた餌が役に立った)


後は相手のHPを一定値まで下げるだけだ。

俺はゆっくりと腰にある剣に手をかけた――すると、グラスメアは餌をねだっているのか俺の体に頭を擦り付けてきた。


(やめてくれ、そんなことされたら決意が鈍って攻撃どころじゃ――)


【テイム条件を達成しました。個体名[グラスメア]をテイムしますか?】


           【はい】  【いいえ】


「は?」


突然現れたシステムメッセージに驚き、声が漏れる。

混乱する頭をなんとか落ち着かせ、【はい】を選択する。


(ダメだ全然理解が追いつかない。何でなにもしていないのにテイムできたんだ?)


擦り寄ってくるグラスメアを片手であしらいながら、なぜテイムできたのか考えていると、遠くで見守っていたバルドさんが駆け寄ってくる。


「無事テイムできたんですねっ!おめでとうございます」


「あ、いや、それが……なんといいますか――」


俺は先ほど起こったことをそのまま話した。


「なるほど、そんなことが……私たちが考えている以上にテイムは複雑なのかもしれませんね」


戦闘すらせずにテイムできたことで、より謎が増えてしまった。

もしかしたら本当に運で決まるのかもしれないとさえ、考えてしまう。


「とりあえず、この子に名前を付けてあげませんか?いつまでも個体名呼びじゃなんですし」


ステータスを確認すると、ピコの隣りに新しいアイコンが追加されていた。

タップするとステータスが表示され、名前は個体名のグラスメアとなっている。


名前か……

ピコの時はシエラさんが付けてくれたが、今はいない。


(そんなに日は経っていないはずなのに、なんだか懐かしいな……)


あの時は、ピコの耳を見て決めたって言ってたな。

でもこいつの特徴らしい特徴といえば、綺麗な毛並みくらいだ。


色は黄色がかった明るい茶色で、陽の光を浴びるとより黄色く見える。


(毛色は黄色に見えるし、蹄は黒……なんかプリン食べたくなってきたな)


「プリン……か」


ダメだ、想像したら無性に食べたくなってきた。

さすがに家にプリンはないし、後で買いに行こう。


「プリンちゃんですか!可愛くていい名前ですねっ」


「あ、いや、今のは違くて――」


しまった、ついついマイクをオンにしたまま口に出してしまった。

急いで訂正――しなくてもいいのか?


どうせこのままじゃ名前なんて決まらないし、少なくともバルドさんは褒めてくれた。

俺のネーミングセンスに頼るよりいいかもしれない。


「よし、お前の名前は今日からプリンだ」


新しい名前を呼ばれたプリンは、前足を軽く上げながら鼻を鳴らし、俺の肩に頭を擦りつけてきた。


再びステータス画面を開き、追加されたアイコンをタップすると、先程は個体名だった名前がプリンに変更されていた。


結局テイムの条件は分からないまま、だけど――


新しく仲間になったプリンを撫でながら、俺はテイマーとして確実に一歩前進したことを実感した。

このお話で、総文字数10万文字突破しました(#^^#)

執筆は遅いですが、これからも更新していきますのでよろしくお願いします。


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