35 男の〝先っぽだけだから〟は信じるな
「ついに捕まえたぜぇ~! いい加減に観念して、大人しくしやがれ! ぐへへへっ!」
「や、やだぁ……は、離して……たいよう……///」
俺――日比野太陽は、目を血走らせながら、小学校中学年程度の背丈しかない、華奢なルカの上にまたがり、息を荒げながら、怯えるルカの脚に指を這わせようとしていた。
我が魔の手はほっそりとした脚の上を這い、そのまま――
「はぁはぁ……年貢の納め時だぜぇ……! はぁはぁ……いい加減に……いい加減に――」
「や! やぁ~~!!」
「――いい加減に、頼むから……パンツを履いてくれええええぇぇぇぇ~~~~!!!!」
俺はルカに覆いかぶさってパンツを脱がせようとしたのではない。
ルカにパンツを履かせるために、ルカを拘束していたのである。
「お前っ! いい加減にっ! しろっ! そんな〝自分が被害者です〟みてーな顔すんのやめろ!」
「やだぁ……パンツやだぁ……!!」
ルカに対して基本的に寛容な俺が、今日に限っては強引にルカに着衣を強要するのには理由がある。
今日は月に1度――妹の夕陽が遊びに来る日なのだ。
前回は児童誘拐犯にしか見えない俺を、長年積み重ねてきた兄としての信頼で、なんとか納得してもらうことに成功したが……その信頼が保たれているのは、かなりギリギリのラインだ。
ここで俺がルカにノーパンを強要しているなどの誤解を受けたら、今度こそ犯罪者の烙印を押されかねないだろう。
「今日1日だけだから! もう先っぽだけでいいから!」
「ん。先っぽだけ、と言われて、本当に先っぽだけで、済んだ事例は、ない」
「確かにそうだけども!」
かくいう俺も――〝先っぽだけ〟という言葉でルカが油断した瞬間、ずっぽしとパンツを腰の奥まで挿入する腹積もりだった。
「(はぁはぁ……すげー疲れた……)」
ルカを捕まえるのにただでさえ少ないおっさん(まだ20代だが?)のスタミナを使い切ってしまった。
もう息も絶え絶えだ。
10月半ばなのに額に汗がびっしょりである。
ここでルカを逃がしたら、もはや夕陽が来訪する前にもう1度ルカを捕まえることは不可能だろう。
「ゴムじゃなくて腰ひもで結ぶタイプだから! 痛くないから!」
「ん。痛くないと言って挿入されて、本当に痛くなかった事例は、ない」
「確かにそうだけども!」
ジタバタと暴れるルカの、焼きたてのパンみたいなふくらはぎを押さえつける。
にしてもルカの足、本当に細いな……。
ふくらはぎを掴んで親指と人差し指がくっつくくらい細い。
ちゃんとご飯食べてるのか心配になってくるが――ルカにメシを与えているのは他でもない俺である。
成人男性と同じくらい食ってますよ、コイツ。
「んっ!」
「あだっ!?」
――蹴!
抵抗を諦めないルカの蹴りが頬に突き刺さる。
しかしルカの角質とは無縁のぷにぷに踵では、一瞬怯みはしても、俺を止めることは叶わない。
ついにルカの足にキッズ用パンツが通され、太ももへと挿入されていく。
あとはルカの腰を浮かせればミッションコンプリート――となる直前。
――ガチャリ!
――ドタドタドタ!
「…………あ」
タイムリミットを知らせる無慈悲な足音が――襖の向こうから響いてしまった。
「お兄ちゃん! 遊びにきたよ!」
開け放たれた襖の奥から現れたのは――俺と血が繋がっているのか疑わしいまでに顔立ちの整った少女。
艶やかなロングヘアをツインテールにした我が妹――日比野夕陽だった。
そんな最愛の妹の黒目がちな目に映った光景は――
息を荒くした俺が――
ルカの上に跨り――
足を拘束し――
パンツに手を這わせている――――兄の姿。
「ま、待て夕陽! これは違うんだ!!」
これはパンツを脱がせようとしているのではく、履かせようとしているのだ。
しかし――残酷なことに、真実というものは当事者ではなく、観測者の解釈によって捻じ曲げられてしまうのが世の常である。
すなわち――
「お兄ちゃんがルカちゃんのパンツ脱がそうとしてる~~~~~~~~!?!?!?!?」
――妹の絶叫が、ボロアパートに響き渡った。
***
「で? 辞世の句はまとまった?」
「待ってくれ、まずは話を、聞いてくれ」
「下の句は?」
「いやこれは辞世の句ではなく……」
「ん。言の葉虚しく。秋風に散る」
「なんか良い感じの下の句を作るな! 元はと言えばルカの下半身のせいだろうが!」
居間の中央にて、ツインテールが怒髪天を衝いている夕陽の足元で正座をしながら――俺は必死に弁明の言葉を紡いでいた。
ルカは性犯罪から保護された被害者のように、夕陽の背中に庇われている。
本当は真逆なのに……。
「まさかお兄ちゃんがルカちゃんをそういう目でいたとは思わなかったよ……。もしや、私がお兄ちゃん好みのロリじゃなくなっちゃたから、ルカちゃんで溜まった欲求を……!?」
「頼む! まずは児童相談所のフリーダイヤルを検索する手を止めてくれ!」
俺は必死に、これが誤解であることを伝える。
夕陽の脚にしがみついて必死に弁明するが、「邪魔」と冷酷な声で足蹴にされてしまう。
ルカはこの状況を面白がっているのか、もしくはガチでパンツを履きたくない故なのか、俺の味方をしてくれない。
「ん。はぁはぁしてるたいように、押さえつけられて、足を無理やり掴まれて……怖かった」
「や、やっぱり……」
「ん。ゆーひお姉ちゃんが来てくれて、良かった……お姉ちゃん、好き」
「きゅ~ん/// もう大丈夫だよルカちゃん! 夕陽お姉ちゃんが守ってあげるからね!」
ルカの演技にすっかりと騙された夕陽。
夕陽はルカの上目遣いにメロメロになりながら、「怖かったねぇ、よしよし」とルカを撫で回している。
「あっおい! 夕陽見ろ! コイツ今〝計画通り〟って顔してるぞ!?」
「え~? そんなことないよね~♪」
夕陽が抱きしめるルカの顔を覗き込んだ瞬間、再度母性をくすぐる被害者モードの顔に戻るルカ。
こ、これが異世界の巫女の処世術なのか……!?
こ、このままでは俺は本当に妹から性犯罪者として扱われてしまう!
産まれた瞬間から愛情を注いできた夕陽から、ゴミを見る目で見下されるのは……兄として耐えられない!
「頼む夕陽! 俺の一生に一度のお願いだ! ルカのポンチョの下を確認してくれ! コイツノーパンだから!」
こうなれば自棄だ。
ルカのノーパン主義を秘匿することよりも、俺の誤解を解く方が重要だ。
「はぁ、またこんな出まかせ言って……ルカちゃん、ちょっとごめんね」
「んっ……!? ま、待っ――」
――ペロン。
夕陽は真実を明らかにすべく、ルカのポンチョを後ろからめくる。
夕陽の目に映るのは、剥き出しになったぷりぷりの煮卵ヒップ。
「……ふぅ~。疲れてるのかな?」
夕陽は目頭を揉みこみながら、深呼吸した後、もう1回――ペロン。
やはりそこにあるのは、よく味が染みてそうな煮卵が2つ。
布の類は見つからない。
「あの……ルカちゃん……なんでパンツ履いてないの?」
「ん。てへぺろ」
ルカはイタズラがバレた子供のように、舌を出しながらてへへと笑うのであった。
誤解も無事とけたことで――今回はここまで。
妹再来編――次回へ続く!




