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34 我が家のトイレが異世界と繋がった件

「なんで休みの日にまでトイレ掃除しないといけないんだっつーの……」


 短かった秋は刹那の如く過ぎ去って、気付けば冬の足音がすぐそこまで聞こえてくる10月頭。

 俺――日比野太陽は、休日の時間を利用して、自宅のトイレを掃除をしていた。


「丁度いいし、この後コタツ布団を出すか……はーあ、ルカがいれば、きっとコタツの素晴らしさに魔力が沢山溜まるだろうな……っていかんいかん」


 ルカはもういない。

 そんな女々しいことばかり言っていたら、それこそルカに笑われてしまうだろう。


 異世界で頑張っているはずのルカに負けじと、俺もトイレ掃除を頑張らなければ。

 そう――最初の俺の嘆きが示す通り――俺は再び古巣であるトイレ清掃員に復職することになった。


 話は先月まで巻き戻る。

 ルカが異世界に帰った翌日。

 朝から求人サイトを巡って新しい仕事を探していると、スマホにLINE着信があった。


 画面に映るのは〝職場〟の二文字。

 当時絶賛プータローだった俺に職場は存在しない。

 とはいえ俺はすぐ、前の職場の上司からであることを悟り、電話に出た。


 曰く――俺がクビになった後、他の清掃スタッフの退職が重なり、人手不足で現場が回らなくなったので戻ってきて欲しい――とのことだった。

 普段はオフィスで管理職をしている上司が、朝から晩まで現場に駆り出される始末らしい。

 いつも不機嫌そうな上司が、俺の機嫌を取るような猫なで声で懇願してきた時は、少しだけ気分が良かったな。


『頼む! あの子供ルカも現場に連れてきていいから戻ってきてくれ!』


 挙句に――俺が抜けた瞬間、委託元である行政や企業からも、『以前と比べて清掃が雑になった』というクレームが殺到したらしい。

 どうやらあの会社で俺が1番丁寧に掃除をしていたことが、俺がクビになってから判明したようで――人手不足と委託契約解除の危機というダブルパンチから、ルカを同伴させても構わないという、異例の待遇で呼び戻されたのであった。


「(まあ、もうルカはいないんだけどさ)」


 最近流行りのウェブ小説の主人公なら、「今頃そんなこと言われてももう遅い」なんてこと言いながら、ざまぁみやがれと電話を切るのだろうが――残念なことにこちとら未だ無職の身。

 俺もまた、二つ返事で上司の提案を受け入れたのであった。


 丁寧に仕事をしようと、雑にしようと給料は変わらないにも関わらず――丁寧な清掃を心掛けていてよかったと、己の凝り性な性格に感謝するのであった。


「よし――こんなもんか」


 頬ずりしても問題ないくらい便器を綺麗に磨きあげ、レバーを〝大〟に引いて洗剤を洗い流す。

 やはりトイレが綺麗だと気持ちがいい。

 その時だった――


「あれ? な、なんか光ってねぇかこれ!?」


 ――日本一念入りに浄水していると言われる、東京の水道から、まるで絵具をそのまま水に溶かしたような、色とりどりの水が流れてくるではないか。

 そのカラフルな水は、完全に混ざり合うことはせず、まだら色となって、便器から溢れだしそうになっていた。


 半年前の俺なら、「なんかやべー薬品が溶けてそうな水で溢れそうになってる!?」とパニックになっていただろう。

 しかし今の俺は――この摩訶不思議な怪現象の正体を知っていた。


「こ、これってまさか……!?」


 まだら色の正体は水ではなく、異世界へ繋がるゲート。

 そこから飛び出してきたのは、銀色のモップ――否――髪の毛。

 そして――


「たいようっ!」


「ル――げふっ!?!?」


 ――弾丸のように飛び出してきた小さな体躯に押し倒される。


「ん。たいよう……会いたかった」


 飛び出してきた正体不明の小さき生き物は、俺の胸板に顔をぐりぐりと押し付けてくるものだから、その顔を見ることは叶わない。

 それでも――


 ――この声を。

 ――この重さを。

 ――この体温を。

 ――この匂いを。


 ――俺は1日たりとも忘れることはなかった。


 だから俺は、上半身にのしかかる()に手を置き、背中を覆う絹糸のような滑らかな銀髪をそっと撫でた。


「おかえり、ルカ」


「ん。ただいま」


「しかしルカ、なんで戻ってきたんだ……? もしかして、魔王の封印は失敗したのか?」


「たいよう! たいよう! たいよう!」


「分かった分かった、分かったからまずは説明をだな……」


 しかしルカは完全に感極まっており、俺の話を聞いてくれない。

 まるで数年振りに飼い主と再会した大型犬みたいだ。

 挙句の果てには全身で喜びを表現するように、俺の腹筋の上でタップダンスを始める始末。


 いくらルカが軽くて踵がぷにぷにとはいえ、全体重を踵の一点に集中させられると――げふっ!?


「それについては私から説明しよう」


「先にルカをどかしてく――おごっ!? み、鳩尾がっ……!?」


 ルカに続いて転移ゲートと化した便器から姿を現したのは、ルカの従者であるマルガレーテ。

 なんとかルカも落ち着きを取り戻し、俺から退いてくれた。

 あと少しでせっかく掃除したトイレが再び汚れてしまう所だった――俺のゲロで。


「太陽殿の尽力のおかげで、無事魔王の封印は成功の運びとなった。しかし、次は魔王軍によって壊滅的な被害を受けた被災地の復興をせねばなならない。そこで巫女様に、魔法の力で早急に復興を進めて頂くため、再び太陽殿の力を貸して頂きたい――という次第だ」


「なるほどな」


 上体を起こし、あぐらの体勢でマルガレーテの話を聞く。

 ちなみにルカは俺の膝の上に座り、俺の腕を自身の肩にシートベルトのように回して左右に揺れている。


「つまりまた、こっちの世界でルカの面倒を見て、魔力を溜めさせればいいんだな」


「話が早くて助かる」


「ん……また、お世話になります」


 ルカは俺の膝の上で肩越しに振り返る。

 そして眠たげな紫の瞳に――期待半分、不安半分の感情を乗せ、俺を見つめた。


「ん。迷惑……だった?」


「いんや。あれから色々あってな、ルカと一緒に働いても、怒られないようになったんだ。だから、またよろしくな」


「んっ」


 ルカの小さな頭に手をのせて優しく撫でる。

 するとルカは、心地よさそうに目を細めるのであった。


「ああ。ちなみにもう魔王軍は壊滅した故、今後は監視として私も太陽殿の所で厄介にさせて貰う。これからよろしく頼むぞ」


「ん。いならい。帰って」


「そんな!? なぜですか巫女様!?」


「変態だからじゃないですかね……」


 どうやらまた――いや、更に騒がしい日々になりそうだ。

 しかし、今度はルカにどんなものを見せて、どんなものを食べさせ、どんな体験をさせてやろうかと――今から楽しみにしている俺がいるのであった。


 でも、まず最初にやることは――


「それじゃあルカ、銭湯行くか」


「ん!」

これにて1章完結です。

ここまでお読み頂いた読者の方々には、深くお礼申し上げます。


次回から2章スタートです。

2章も多分ずっと似たような話ばかり続きます(笑)

この雰囲気が好みに合っていれば、今後ともお付き合い下さると幸いです<(_ _)>



★ここで乞食タイム★

ここまでお読み頂き、面白いと感じて下さったら、ブックマーク、評価頂けますと幸いです。

リアクション、感想もお待ちしております。


既にブックマーク、評価を入れて下さっている読者様には、改めてお礼申し上げます。

それらを原動力に、ここまで書き切れたと言っても過言ではありませんので!


――という訳で、よろしければ、2章以降もよろしくお願いいたします。ノシ

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