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第6話 これのどこがウサギやねん



「悪魔、だと……? この私――魔王様配下一の側近・翼有の魔族:レイルに、よもやそのような事を口走るとは。肝だけは据わっているようだな、ニンゲン」


 ベースは笑顔。

 でもその中に、怒気と加虐心を孕んだ表情だ。


 美形だと、そんな表情さえ絵になるけど、なるほど、『悪魔』は地雷らしい……なんて、冷静を装って分析してみたけど。


 ジャブのつもりだったのに、下手を打った……!

 まさかの、こんな所で命の危機だ。

 

 なんせ、私は今空の上で宙ぶらりんなのだ。

 服をパッと離されてしまったら、それだけで私は落下して、地面でプチッとなっちゃうだろう。


 タラーリと額に冷や汗が滲む。

 が。


「魔王様からの指示でなければ、今すぐ放り棄てて帰るものを」


 レイルが、チッと舌打ちをしながら忌々しげにそう呟いた。


 それは、そのくらい怒っているという意味ではあるけど、同時に。


 ――もしかして、天が私に味方した?


 その証拠に、彼はものすごーく不機嫌そうだけど、何かしてくる様子はない。


 ホッと胸をなでおろした。

 が、そうなると今度はふつふつと、苛立ちが湧き上がってくる。


 だって、迎えに来てくれたんだとしたら、運び方、おかしくない?!

 もうちょっと丁重に運んでくれてもいいと思うけど!


「はぁ……。城に着いたら、まずはマシな恰好をさせなければ。幾ら薄汚いニンゲンだとて、流石に見た目が悪すぎる」


 何おう?!

 ぶつぶつと聞こえてきた独り言に、思わず眉を吊り上げる。


 私、可愛いもん!

 ……たしかに見た目は今、ボロボロだけど!


「そもそも私は、魔王様がニンゲンと関わり合いになる事自体、反対なのだ。ただでさえ、あの方はお優しすぎるのに」


 そういえばこの人、自分の事を『魔王様の側近』って言ってたな。

 っていう事は、一度目の人生の社長に対する私みたいな立場なのかな。


「しかも、いつも多忙でいらっしゃって。仕事を理由に食事も睡眠も疎かになさるような方が、ニンゲンなどのために時間を使うなどと、愚の骨頂がすぎる!」


 私の時は、どちらかというと「いかにやりたがらない仕事をさせるか」に苦心していたけど、どうやらこの人は別の方向に手を焼いているみたいだな。


「あぁ、今はどうされているでしょうか。私がいない間に、寂しい思いをされていないか」


 え、魔王様って寂しがりなの?


「また、すっかり冷めてしまったスープをお飲みになって、お腹を壊したりしていないだろうか」


 え、魔王様ってお腹弱いの?


「この私がいなければ、魔王様は身の回りの世話もままならない。自然の摂理として、きっと生きていけないだろうに」


 え、そんな弱っちいの?


「今頃きっと魔王様も、私がいない事実に嘆き悲しんでおられるに違いない。だから私が散々『ニンゲン如きの迎えに行く必要などない』と、あれ程――」


 なんか、話を聞きながら「妙な既視感があるな」と思ってたけど、分かった。

 

 寂しがりで、お腹が弱くて、自然の摂理的に弱っちい。

 これはアレだ。


 ウサギだ。

 ウサギ以外の何物でもない。



 魔王様は、ウサギ……。


 私が勝手に納得している間に、竜は私を咥えてレイルを背に乗せ、目的地――魔王城へと向かったのだった。




 そして、数時間後。


 ここに来てすぐに手足ぷらーん状態からようやく解放された私は、メイド服の人たちに引き渡されて、すぐにお風呂に入らされた。


 服を着替えさせられ、身なりを整えられて。

 そして、今。


 途中、歩くのが遅かったせいで、今度はレイルに汚いものでも持つかのように首根っこをツンとつままれた私は、再び手足ぷらーん状態になって、謁見の間の前にいる。


「魔王様、人質を連れてまいりました」


 レイルの声に、中から「入れ」という声が返ってきて扉が開いた。



 扉の先にあったのは、縦長の大きなホールだった。


 天井が高い。

 ぶら下がっているシャンデリアの色は深紅で、壁も柱も床も、すべて黒を基調にしている。


 たまに入っている金色や銀色の差し色が、この配色の邪悪さを若干緩和している。

 とはいえ道中の装飾もそうだったが、置物や壁掛けの絵はどれも見事に邪悪寄りだ。


 そんな部屋を、レイルがカツカツと足音を鳴らしながら歩いていく。

 その先にあるのは深紅の玉座で、ある男が肘置きに肩肘をついて座っていた。



 瞑目しているその男が、ゆっくりと瞼を上げる。

 その動きに合わせて、綺麗な黒髪がサラリと揺れた。


「魔王様の一の側近・レイル。例のニンゲンを連れ、ただいま帰還いたしました」

「よく戻った」


 聞こえてきた声は、低い。

 が、不思議と圧迫感は少ない。


 ゆっくりと開いた眼は、金色だった。

 瞳孔が縦に開いた、普通の人とは違う目をしているけど、それ以外は特に差がないように見える。


 切れ長の目が少し涼しげで、「これはさぞかし女性受けしそうだな」なんて考えた……訳だけど。



 次の瞬間、私を見つけた彼の眉間に、一気にギュッと皺が寄った。

 同時に、目に見えない威圧感がブワッとこちらに降りかかってくる。


 何だかものすごく嫌われて……いや、威嚇されている?


「どちらかというと、手負いのオオカミ」


 これのどこがウサギやねん。

 寂しがり屋でお腹が弱い訳ないじゃん、この見た目と威圧感で。 



お読みいただき、ありがとうございます!


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第二章:転生幼女は魔王に交渉を持ちかけた!

 第二節:ティアリス、魔王と堂々交渉!(命の危機➁)

  第7話 私『生贄』じゃありませんっ!


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