第3話 不遇を言葉でぶん殴って、逃走
そして、三度目。
それが今回。
二度目の目覚めは、優しい顔をしたメイドの笑顔が私を迎えてくれた。
今回はそれとは正反対の、邪悪をそのまま顔に貼り付けたような女が、私に色々と言っている。
伯爵家の娘でさえいい環境を用意してもらえていたのに、それより爵位が上の筈の公爵家の娘が、この仕打ち。
勿論、家庭によって事情は違う。
例えば家が没落していれば、こういう事もあると思うけど、目の前の継母は成金みたいに、ゴッテゴテに自らを飾り付けていた。
一応、生きるための最低保証はされていた。
公爵家としての体裁があるからか、食事は最低限与えられていた。
――ものすごく固いパンと冷めたスープ、たまに傷んだ食材が混ざっていて、お腹を下したこともあったけど。
屋根のある場所に寝かせてもらえていた。
――ただし、布団なんてものはなかったし、隙間風もビュービューだったけど。
一応服は着せられていた。
――ただし、今着ているのと同じボロボロの服で、着替えなんて勿論なかったけど。
……よく耐えたよね、私が自分を自覚する前のティアリスは。
その我慢強さを、私は心から褒める。
「本当によかったわ。“『人食いの魔族』たちの国に、生贄にやれ”という王命の矛先が、『我がウェーバー公爵家の娘』で」
「お姉さまがあちらに行くお陰で、わたしたちは王家から今までの事、全部許されるんですって。お姉さまも、生きていた意味ができてよかったですね。このままじゃあ、一生役立たずだったもの」
継母がニヤリと嫌な顔で笑い、その隣で私と同年代の女の子が、ひょっこりと顔を出して言葉を続ける。
彼女は、義妹のリズ。
私とは対照的に、綺麗に着飾りお肌も髪もツヤツヤだ。
厚遇過ぎて、ちょっと食べすぎているのかな。
六歳児にしては頬や腕が、プニッとしすぎているような気がする。
見目としてはぽっちゃりはマイナス要素だけど、私と二人横に並べれば、どちらが幸せな境遇で生きてきたのか・親に愛されているのかは明白だ。
「安心して? わたしが《《ここ》》で幸せになります。だからお姉さまは――どうぞ来世で幸せになって?」
流石は継母仕込みなだけあって、『嫌な女』がこの歳で既に板につき始めている。
貴族令嬢としては、あまりにも品位に欠けるけど、そんな事などこの子はきっと、まるで気付いていないのだろう。
「中でも魔王は酷く残忍で、角が生えていて体から黒い霧を発する、とても醜悪な男なんですって」
「もし死ぬのが怖いのであれば、今までの生活で積んだ掃除や洗濯の経験を生かして、魔族に『こび』を売ったらいいと思うわ。一秒くらいは、長く生きていられるかも」
そんな言葉で最後まで私の不安を煽ろうとしている姿は、人として醜悪だった。
ティアリスが持っている情報は、ひどく断片的だ。
例えば私は、自国の名さえ知らない。
その原因は、間違いなくこの人たちだ。
彼女たちが、私の心を貶めるために必要な、私を絶望させるのに都合のいい情報しか、私に与えていないのだ。
だから今もこの通り、魔王国という怖いところに送られるのだろう事は分かっても、何故そんな事になったのかは知らない。
それでも、一応『情報』である事には変わりないけれど。
――聞き飽きちゃったよね?
ティアリス。
心の中で、これまでの私にそう問いかける。
私の中で、誰かが頷いたような気がした。
私は、二度目の人生で『淑女の鑑』と称されていた。
でもそれは、演じた結果に過ぎない。
私は一度目の人生で、何度か社長に「ふざけんな!」と啖呵を切った。
私は、TPOは弁えるけど、言うべき時に我慢するような殊勝な性格は本来していない。
つまり、何が言いたいのかというと。
「ご心配なく、お義母様、リズ。貴女方に心配されずとも、貴女方の視界の外で、わたしは勝手に幸せになりましゅから」
前世で培った完璧で優雅な『淑女の微笑み』と、前々世から引き継いでいる強気で、ズバッと言い返した。
目の前の二人が、一体何を言われたのか分からないような顔になった。
その間に、私は「馬車を出して!」と声を上げる。
同時にパタンと扉を閉めると、馬車はそれを合図にしたかのように、ガタガタと走り始めた。
外から、「なっ……生意気なっ!!」という継母のヒステリックな金切り声と、「ちょっとお母様、あの顔見ましたぁ!?」というリズの焦った声が追いかけてきたけど、気にしない。
私にはもう関係のないことだ。
だって、来世までもう会わない相手でしょう?
来世でも私は会いたくないけど。
「言いたい事が言えて、スッキリしたわ」
そう言いながら、作った笑顔のまま馬車の座席に座り直した私は。
っていうか、噛んだ……!
遅れてやって来た羞恥心に、バッと顔を両手で覆う。
せっかくカッコよく決めようと思ったのに!
最後の最後で失敗したぁ!!
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第二章:転生幼女は魔王に交渉を持ちかけた!
第一節:ティアリス、魔族に出会って手足プラーン(命の危機①)
第4話 目標は「死なない!」 なのにピンチ?!
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