第19話 え、モフプニたち連れて行けない……?
稟議の出ている地に視察に行く日の当日。
魔王城に来て初めて合法的(?)に部屋の外に出る事が許された私は、迎えに来た魔王とレイルに呼ばれて扉を出た。
準備は万端だ。
着替えさせてもらった外行きの服は、いつものスカートスタイルとは違い、動きやすいパンツスタイルだ。
髪も結んでもらい、斜め掛けのポシェットをしている。
中にはハンカチだけという申し訳程度のもので、元々ポシェット自体の容量が少ないとはいえ、あまりにも中身が乏しい。
でも、エチケットはとても大切だ。
それに、外出したら何か入れたいものが新しくできるかもしれない。
それこそ前々世で『エコバックを持って行き忘れた時に限って入れるものがなくて困る』みたいな事態が何度もあった私としては、外出時の当然の危機回避準備だ。
特に、今は常にメイドが最低一人は付いていた前世とは違い、共と呼べる人はいないのだから、当然の用意である。
という訳で、私なりに今できる完璧の布陣を敷いた、のだが。
「……その綿毛スライムたちは置いていきなさい」
「えっ」
私はガーンとショックを受ける。
私になついてくれている、モフプニたち。
この子たちは『綿毛スライム』という名の種族らしい。
因みに先日の十匹から、更に四匹増えて、現在部屋には十四匹のモフプニたちがモフモフしている。
流石に皆は連れて行けない。
でも、現状で私に敵意なく一番仲良くしてくれているのはこの子たちで、私も実は初めての場所に行くにあたり、少なからず心細くはある。
というか、そもそも行くにあたりレイルから、「行先では大人しくしていなさい。でなければ、お前なんてどっかその辺で、プチッとお陀仏でしょうから」と散々脅されている。
魔族と呼ばれる人たちが、人間と比べてどれ程強いのか。
それは、まだ正確には分かっていない。
でも、少なくとも子どもの私が、何倍も大きな体の彼らになんて到底太刀打ちできそうにないのは、この前の廊下での一件で分かった。
となれば、当然不安になる訳だ。
「一匹だけ、選んだんだよ?」
「『厳選したから許可しろ』と言いたいのか。そんな、何の役にも立たない愛玩魔物を」
この子、魔物なのか。
そう思いながら、私は腕の中を見下ろした。
そこには「モフー」と言いながら、つぶらな瞳で私を見ている可愛いモフプニの姿がある。
「そのようなもの、視察には不要です。そうでなくてもお前という名のお荷物を抱えての視察なのに――」
「そのままでいい」
先程から黙って私たちのやり取りを見ていた魔王様が、一言そう口を開いた。
「魔王様、しかし!」
「荷物が増えるという事なら、ソレはその子どもの荷物だ。失くしたところで自己責任としてずっと抱えさせておけば、荷物量は一つも同然だろう」
つまり、魔王様たちは私という荷物を管理する。
私は、この子を管理する。
魔王様たちは、この子の安全や紛失には関与しない。
そういう事なのだろう。
……私、荷物じゃなくて人間だけどねっ!
でもまぁこの子も一緒に連れて行く許可が出たのは、純粋に嬉しい。
「一緒に行っていいって!」
「モフー!」
多分喜んだんだろうその鳴き声を、私はギュッと抱きしめた。
目的地までは、ドラゴンで三時間らしい。
今私たちは、そのドラゴンの背に乗り空を飛んでいる。
因みに今回は、ドラゴンに咥えられてはいない。
背に設置された、ラウンドケージの中にいる。
この前入ったのと同じやつである。
スタンド部分はあの部屋に置いてきているらしい。
初めて乗った時にはGがヤバかったけど、今回は最初から一切そういうのは感じなかった。
という事は、やっぱりあの時意地悪されたんだよね。
あの時の事を思い出した私は、ちょっとばかり恨んでレイルを睨んだ。
が、そんな私に気づいたレイルは。
「何ですか。お菓子はありませんよ」
「そんなもの欲しいって言ってない!」
面倒臭そうに言う彼に、私はキャンッと吠えるようにして言い返した。
それから、魔王様とレイルが雑談をしている声を聞きながら、私は視線を周囲に向ける。
下に見えるのは、魔王国の街並み。
空は薄紫色で、黒い雲海が所々にある。
そういえば、始めてきた時も結界の中に入った途端に世界の景色が変わったんだよなぁ。
最初は、夜とかなのかと思ったけど、今は昼で、晴れていてコレだ。
何で魔王国の空は青くないのか。
雲は白じゃなくて黒いのか。
分からない事が多すぎる。
他にも、人間の国とは全然違う。
まず『ドラゴンで三時間』なんていう時間の測り方、過去二度の人生も含めて、初めて聞いたよね。
何なの?
ドラゴンってタクシーみたいな感じなの?
少なくとも私には、そんなお手軽な乗り物にはあまり見えないんだけど。




