第18話 魔王ザクゼディアの真実と、私がしたい事
「せっかくの民のための政策もうまく行っていません。《《誰かが》》根回しをして妨害している可能性がありますが」
「……犯人探しをしても、無駄だろう。どうせまた、精々がトカゲのしっぽ切りだ」
どうやら妨害も受けているようだ。
現行の体制を変えようとすれば、自ずとそれに抵抗する勢力は出てくる。
今まで甘い蜜を吸っていたが故に、それを取り上げられたくない者。
今まで問題なかったのだから、これからも変わらないでいいだろうという者。
そうでない者たちも存在はするけど、皆、立場が低く声が小さい。
改革を願う人の数がどれだけ多くとも、かき集めても尚声が権力者より小さければ、国を変えるのは難しい。
二度目の人生で、『王族の相談役』をしていた分かった事がある。
国というのは、王の一存で最終決定を下す事ができるけど、それだけで国は動かない。
国王の言葉について来る有能な臣下が数いて、初めて国は動くようにできている。
この王には多分、まだそういう臣下が少ないのだろう。
数が足りない。
つまり、立場としては『王』だけど、力は未だ『王』足り得ていない。
私は過去二度の人生で、それぞれ一度ずつ『王』を見てきた。
一度目は、会社という組織の『王』を。
二度目は、ニンゲンの国の『王』を。
前者は、仕事はできるけど気分屋で自由奔放。
後者は、国の今を維持するために貴族間のバランスを保つことに注力する、とても保守的な王だった。
どちらも間違ってはいないと思う。
自分のしたいようにする『王』はある種の暴君だけど、支える人間の話を聞いて止まる事もできれば、進み続ける王で在れる。
保守的な時に日和見と言われる事もあるが、今あるものを当然と思わず、守り続ける王でもある。
――この人は、どうだろう。
一度目の『王』とは違い、考え方の主体は『自分』ではなく『国民』だ。
二度目の『王』とは違い、味方の数を維持するのではなく、孤高にも一人で立ち続けている人に、私には見える。
孤独な王だ、今はまだ。
でも、真実国と国民を思い行動し、頭を悩ませる事のできる王を、私は知らない。
二度目の人生で他国の色々な種類の王に会った事のある私でも、純粋にそれだけで在れる王は見た事がなかった。
どこかには必ず「回り回って自分のため」と言えるような打算が見える人ばかりだった。
とても、世渡りが下手な王だ。
本来は、意思が強く、先見の明があり、身分に関係なく優しく在れる王なのだろうに、それを知っている者がこの国に、一体どれだけいるのだろう。
「機嫌取りのために、予算を出す事はしない」と決断を下す。
「政略結婚を受けない」という姿勢を崩さない。
それはある種の潔癖で、迎合しないという事だ。
この人は、多分そういう妥協が苦手で、かけ引きの類は苦手なのだろう。
少なくとも、私の目には今、彼がそういうふうに見えている。
でも、ここまで真っすぐで愚直なら、それは最早美徳だろうと思う。
『王』は、一人で王になれる訳じゃないし、なる必要だってない。
――こういう人には、彼の覇道をきちんと支えげあげられる人が必要だ。
魔王様は、怖がられている。
私を摘まんで廊下を歩く度に、周囲の人たちが恐怖心で魔王様を見ていたのが分かった。
例えばお嫁さんでもできたなら、あの威圧感も少しは緩和されるかもしれない。
そういう王は、二度目の人生にもいた。
さっき魔王様は「結婚に興味がない」と言っていたけど、本物の好意を向けられたら変わる可能性はある。
そもそも魔王様は、ちょっと威圧感があるだけで、顔の造形そのものはいい。
間違いなく美形の部類に入る。
見栄えはする。
彼の人間性――いや、魔族性?
そういうものを知ってもらう事ができれば、モテてすぐにお嫁さんの一人や二人くらいできるだろう。
有能な臣下に味方になってもらう必要もある。
そうすれば、この王は自分のしたい事がもっとできるようになる。
あと、自分のしたい事を王城内ではなく、国内に広く広める必要がある。
魔王のあの思想の最大の味方になってくれるのは、被支配層だ。
だからそこに届くように動くのが効果的だ。
やるべき事は、山のようにある。
つまり、私が今やるべきは。
「魔王さま! わたし、その『かいぜんたんがん』の場所に行きたいです!」
この体は子どもだけど、子どもの体と目の善し悪しは関係がない。
パッと目に入った書類の内容が、ちょうどよさそうだったから声を上げた。
見出しには、こう書かれている。
“自領の労働層のストライキに対する、鎮圧行為の許可”
鎮圧。
つまり、力づくでどうにかするための許可。
そんなのを求めてきているこの嘆願は、おそらく魔王様の思想の正反対を行くものだ。
でも、だからこそ手始めに選ぶにはちょうどいい。
「お前、一体何を突然――」
「わたし、ぜいじゃくなニンゲンだから、魔王さまと一緒にそこに行けないと死んじゃうかも」
「……」
魔王様が沈黙した。
しんと静まり返った室内に、やがて「ハァ」という小さなため息が聞こえてくる。
「その場所には、どうせ様子を見に行こうと思っていた」
「魔王様?!」
どうせ許可など出る筈がない。
そんな余裕の表情でいたレイルが、「それはつまり、そのニンゲンを一緒に連れて行くという事ですか?!」と叫ぶように驚いた。
それに、魔王様は沈黙で答える。
否定をしないのが答えだし、私には彼のその様子が、暗に「決定事項だ」と言っているように見えた。
どうやらレイルにも、同じように思えたらしい。
レイルは悔しそうに低く唸った後、最後には苦虫を嚙み潰す――なんて、生易しい。
噛み殺すような勢いで「分かりました」と答えた。
「ただし、私も一緒に行きますからね?!」
「お前はいつもついてくるだろう」
という事で、どうやらその嘆願のある地に、三人で行く事が決まったようである。




