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第14話 漏れ出た『ヤンキー』と今度こそ大ピンチ!



 私と武官は周りの人たちの視線を一気に集めて――。


「触んなっ!!」


 手に持っていたものでベシッと殴られた。

 しなやかな鞭のようにしなったソレだけど、細い事としっぽであるからか、威力はそれ程ない。


 ただし私の筋力も、それ程なかった。

 弾かれたその勢いに負けて、私は大きくよろけた。


 あ、これ転ぶ――ポフンッ。


 私のお尻の安全は、柔らかなモフプニに守られる。


「ありがとう」

「ボフー」

「モフーッ?!」

「ごめんね、驚かせちゃったね」


 受け止めてくれたクリーム色の子にお礼を言うと、慌てた様子で白い子が、私の胸に飛び込んできた。

 モフモフ言いながら胸の中で頬ずりをしてくるところを見ると、本当に心配させちゃったらしい。


 それにしても、モフモフに挟まれているこの現状。

 何という触り心地天国――。


「貴様、今俺のしっぽに触ったな……?」


 モフプニたちとのやり取りで上がった体感温度が、怒気を孕んだその声に一気に下げられた。


 見れば、顔を真っ赤にした般若の形相で、ライオン耳と鬣持ちの人型武官が上から見下ろしてきている。

 猫に似た捕食者の目が、私をまっすぐ威圧している。

 大きな体が、わなわなと怒りに震えている。


「魔族のしっぽに触る事がどういう事か、勿論分かってやってるんだよなぁ?」


 いえ、分かりません。


「耳としっぽは獣型魔族にとって、急所とも呼べる場所。断りなく触るのは禁忌の所業だ」


 そうなの?!

 じゃあ、もしかして私、結構ヤバい……?


「落とし前、付けるんだよなぁ?」


 一瞬前までとの温度差に、うっかり凍えちゃいそうだった。


 でも、凍えてはいられない。

 コレ、下手したら死ぬ!

 そういう威圧感が今私の小さな体にのしかかってきている。


 どうしよう……!


 どうにかしなきゃ!

 どうにか!

 どうにか……?


 人間、思わぬ脳みそのキャパオーバーを迎えると、かえって気持ちがスンとなるものらしい。

 冷静になった私は、「これ、私がどうにかする必要ってあるの?」と自問自答をし始めた。


 だって、よく考えればそもそもこの人が、ネズミメイドさんに暴力を振るおうとしたのが悪くない?


「何で、あんな事をしようとしたの?」

「あ?」

「さっき、このメイドさんを蹴り飛ばそうとした」


 私がそう尋ねると、彼は「ハッ」と鼻で嗤う。


「そんなの見たら分かるだろ! 俺が『獣人種』で、こいつが『獣種』だからだよ!」

「そうだと、何でこんなふうに理不尽に虐げられてもいいの?」

「はぁ? そういうもんだろ! こいつらは知能がすこぶる低い。やれと言った事すら、こうしてミスる」


 馬鹿にしている空気を隠さないその武官に、私は彼が先程メイドさんに向けていた言葉を思い返す。


「ミスって、『廊下を歩くあなたの邪魔をした』事?」

「そうだ!」

「でも、ぶつかるのが嫌ならあなたが避ければよかったでしょ? あなたも前、見てなかったんじゃない?」

「あぁ?!」


 凄まれたが、もう怖くない。

 逆に、メンタル的にはすごみ返してやりたい気分ではある。


 でも、この場合、もっと効果的な方法がある。

 私はニコリと淑女の微笑みを浮かべ、やんわりと彼らの意識改革を――。

  

「悪いのはあっちに決まってるだろ! だって、あっちが弱者でこっちは強者! 弱肉強食の世界だろうが、魔王国なんて!」

「わたしには、あなたの『弱者』をいじめて誇る姿こそ、『俺は弱者です』って主張しているように見えるけど」

「あぁ?!」


 やべっ。

 この前、王城に着くまでの間の短い時間で予想外にレイルの地雷を踏んだから、今度はもう少し穏便に事を進めようと思っていたのに、ついヤンキーメンタルがちょっと漏れ過ぎちゃった!



 前世では猫を被っていたから、少なくともこんなふうに暴力沙汰にはならなかった。


 前々世では、一応「暴力を振るうとそれだけで罪」という法律があり、法治国家だったから、相手から暴力に訴えられるような事はなかった。

 そして何より私自身、少々の荒事くらいなら、度胸があればやれていた。


 でも、今世の私はどうだろう。

 体は小さい。

 度胸はあるけど力はなくて、だけどこうして自ら渦中に飛び込んで。


 そうすれば一体どうなるかのなんて、火を見るよりも明らかだったのに。



 本格的に、命が危うい。


 いや、でもまだこの武官の気が意外にも長いっていう可能性も残って――。


「口だけは褒めてやるよ、口だけはな。が、さっきも言ったろ? 所詮は弱肉強食だ。カタコトじゃない事には驚きだが、そのサイズはゴブリンだろ! 戦闘力は俺とは雲泥の差! プチッと潰された後で、あの世で自分の生意気な口を後悔するんだなぁ!」


 いなかった!


 ニンマリと笑った彼の口から、ギザギザの鋭い歯が見えた。

 そして、改めて振りかぶられた拳。


 それはブンと音を立てながら、私に迫り――やられるっ!!


 ギュッと目を閉じた。

 痛みを覚悟した。

 こういう時に自分が如何に無力なのかを改めて自覚して――あれ、痛くない……?



 ブワッとものすごい風圧にこそ見舞われたものの、それ以上は何もない。

 おかしいなと思いながら、そろりと瞼を上げてみると。



 目の前を、黒いマントがひらめいていた。


 目隠しのようになっていたそのマントの向こう側には、振るった拳を簡単に受け止められ、驚いた顔になっている例のライオンの『獣人種』の武官がいる。



 その手を受けとめた主の声が、頭上から降ってきた。


「お前はここで、何をしている」

「魔王さま」


 見上げれば、そこには眉間に深いしわを刻んだ、魔王様の顔があった。


 


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