第13話 蔓延る差別と、「ギャフッ」と言わす!
事の始まりは、王城散策だ。
外に出た私は、お供のモフプニ二匹と一緒に、王城内を歩いていた。
もしかしたら「そんなの連れてたら、目立つでしょ」と思うかもしれないけど、全然そんな事はない。
だって、ここは魔王城。
そして、どうやら魔王城には――いや、魔族には、色々な種族がいるらしい。
例えば人型。
これは、人間と同じ見た目に一部異形の――例えば角とか翼とかが付いている人たち。
他には、獣人型。
これは、動物の見た目をした二足歩行の魔族たち。
そして、そのどちらでもない『異形』と呼ぶのがしっくりくるもの。
これは、前々世で言うところの『モンスター』。
アメーバ状のものとか、ゴブリン的なものとか。
お供のモフプニたちも、この種類に分類される……と私は思っている。
だって、実際にこの国でそういう見た目の違いをどう呼んでいるか、私は知らない。
誰も教えてくれないしね。
だからすべては私の中での分類だ。
まぁともあれ、ここはそういう場所なのだ。
すれ違う魔族たちも、色々いる。
だからモフプニたちを連れていても、大して目立ったりはしていない。
と、それはさておき。
「何度見ても、慣れないなぁ」
私は小さく苦笑した。
城内には、色々な装飾が散りばめられている。
使われているレースカーテンは全部黒だし、遮光カーテンは紫やワインレッドが多い。
カーペットは血濡れのような真っ赤で、床は黒。
壺や置物は、角の生えた骸骨とか、ガーゴイル的な物とか、今にも動き出しそうな手の模型とか。
他にはアンティーク物っぽいのもある。
ここに来た日にも思ったし、何なら軟禁されていたあの部屋の中にいても思ってたことではあるけど、全体的にゴシックとハロウィンの掛け合わせみたいなデザインなんだよね。
装飾の趣味が。
あと、前世で見慣れた城とは違い、トゲトゲギザギザとした攻撃的なデザインが多い。
所々壁に飾られている肖像画は、もしかしたら偉い人なのかな。
人間の国での肖像画と言えば威厳を示すためにも神々しさを演出するものだけど、なんかどれも恐怖を煽るような顔になっている。
――まるで、すべてが私を怖がらせにきているみたい。
夜に一人でこの廊下を歩くのは、もしかしたらちょっと怖いかもしれない。
けど、今は昼間だもんねっ!
今日の天気は曇りだからちょっと薄暗いけど、夜よりは明るい。
大丈夫。
そんな事を思いながら、辺りを観察しつつトコトコと歩く。
すれ違う魔族は多分武官か、文官か、城メイドや執事のどれかだ。
身に付けている物を見れば一瞬で分かる。
これは、前世で見慣れた人間の国の城とあまり変わらない。
すれ違う人たちはたくさんいたけど、誰も私には気がつかない。
理由は簡単だ。
多分、誰も下を気にしていないから。
それどころか、隣を歩く同僚と大きな声で談笑している武官も、歩きながらも書類を読んでいる文官も、前すらきちんと見ていない――。
「おいコラてめぇ!」
突然聞こえてきた太い怒号に、思わず肩がビクッとなった。
声の方に目を向けてみると、すぐに廊下の少し先で肩を怒らせている人の背中を見つける。
大声を上げたのは、大きな体の武官魔族だった。
オレンジ色の人型の魔族。
たてがみのような髪はぐるりと顔を一周するように生えていて、顎髭に繋がっている。
髪に埋もれるように、丸くて小さなモフモフの耳が頭から生えているのが辛うじて見えた。
「『先祖返り』の分際で、気高き獅子一族のこの俺の歩みを邪魔したかぁ?! あぁん?!」
「す、すみませ……」
「そこは『私めのような下賤な先祖返りが、この世に存在して申し訳ありませんでした』だろうがぁ!!」
その言葉と共に、まるで前々世で言うところの『筆』のように、長い尻尾の先っちょだけフサフサな部分が、威嚇でもするかのようにブワッと大きく膨らむ。
彼が怒っている相手は、彼の前に《《落ちていた》》。
メイド服を着たネズミ姿の女の子。
こちらは、私がさっき『獣人型』と仮名付けした、二足歩行で歩く動物のような容姿の子だ。
彼女は顔を青くして、大げさな程にガタガタと震えている。
まるでこの世の終わりみたいな顔になっている。
辺りを見てみれば、廊下を行き来する人はそれなりの数いた。
でも、誰も二人の間に割って入ろうとする人は一人もいない。
私が仮名付けしたところで言うところの『人型』の人たちは、そこにいるのにまるでその光景が見えていないかのように素通りだった。
対してネズミの彼女と同じ『獣人型』の人たちは、痛い傷から目を背けるようにして、必死に見ないようにしている感じだ。
私は「あぁ」と理解する。
これは、アレだ。
私が秘書として入社した直後にあった、プライドが高くて立場のある正社員が、派遣に対してネチネチと嫌な事を言っていた時の雰囲気。
あれと、とてもそっくりだ。
なまじ社内での権力がある分、他の人たちは巻き込まれて自分までターゲットにされたくない。
もしくは「自分は正社員だから関係ない」と、見ないふりをしている。
勿論、見た感じそれよりも暴力的で過激な現場に見えるので、もっと酷い状況なんだろうけど、一体何が言いたいのかと言うと、今この場所は『力の上下関係が明確な間柄で、強者が弱者を虐げている』現場に他ならないという事だ。
前々世では、勿論ネチネチと派遣社員を虐めていた上司に、壁ドンをして抗議した。
社長はたまにその時の事を「オッサンを足で壁ドンするパンツスーツ地味系女子、チグハグで面白かったよなぁ」と大爆笑しながら、楽しそうに話していた。
私としては「見ていたんなら助けてよ」と思った訳だけど、社長だって別に意地悪で割って入らなかった訳じゃなく、一応は「きっと自分が出ない方が上手く収まる」と踏んだ上で、見守っていたらしい。
そんな私が、この状況を見ていれば、勿論。
「いつまでも俺の行く先を遮るな! 邪魔だ、早くどけ――」
言いながら、例の武官が足を後ろに振りかぶった。
振り子のようになったその足の先には、勿論ネズミのメイドがいる。
気付けば駆け出していた。
暴言だけでもやり過ぎだと思うのに、暴力は流石にライン越えだ。
だから。
「ダメーッ!」
武官に追いすがり、止めようと手の届く場所を引っ張った。
引っ張る事で、動きが少しでも止まればいいと思っていた。
もしくはバランスを崩して、蹴りを空ぶってくれればいいと。
しかしその結果。
「ギャフッ!」
聞こえたのは、ものすごく情けない声。
辺りの人たちは今度こそ、みんなピタリと足を止める。




