第12話 大人しく情報収集しようと思ってたんだよ? 一応ね?
よいしょよいしょと這いずって進んだ先にあったのは、外の景色だった。
そこは、多分人が滅多に通らないのだろう。
紫色の草がボーボーに生い茂っていて、まさに『無法地帯』という感じ。
「もしかして、もともと抜け道とかだったのかな。それにしては小さすぎるとは思うけど……いや、それよりも」
問題なのは、そこじゃない。
出した顔に、ヒュッと冷たい風が軽く吹き付けてきた。
ちょっと高さがある。
これ、足届くかな。
そんな事を言いながら、パタンと開けた忍者扉から、外に出――。
「やっぱり、届かない……!」
伸ばした足がプルプルと、宙ぶらりんで震えていた。
我が足ながら、短いっ!
何でこんなに短いのか!!
いやまぁ理由は分かってるよ。
転生したからだよ。
あと、体が小さくなかったら、そもそもこの穴を通って外には出れなかった訳だから。
「仕方がない。とはいえ、出た位置が高すぎて足がつかない『かのうせい』に、ぜんぜん気が付いていなかった――」
ズルッ、と体が滑った。
慌てて両手に力を入れるも、筋力に乏しいこのカリカリの体じゃあ、体重を支えるには足りなくて。
あ、これ落ちる。
そう思った。
でも、そう思ったところで何もできやしない。
ちょっとだけ、二度目の人生の最後を思い出した。
高さは雲泥の差だったけど、あの時もこうして仰向けで落ちたのだ。
あの時見えたのは、たしか綺麗な星空と、そういえばバルコニーの上からこちらを見下ろす、誰かの冷たい目――。
そんな事を考えながら、スローモーションにも思える時間の流れに身を任せるしかなかった時だ。
目の端からシュッと、何かが飛び出した。
そして。
……ポフンッ。
「ん?」
元々この高さからじゃあ、落ちても死ぬような事はないと思っていた。
下が草だったから、多少のクッションになるだろうとも思っていた。
でも、それでも予想していた衝撃すらない。
というか、むしろ夢心地……を通り越して、最早神心地というか、前々世で言うところの「人をダメにするソファー」的な。
いやまぁ感触は違うんだけど、寝転び心地はそのくらいとてもいい。
私は、ギュッと閉じていた目を恐る恐る開けてみた。
そして。
「ボフー」
「さっきの白いクッションの子……?」
いや違う。
たしかに触り心地のいい、フワフワの毛と絶妙なポヨンポヨン加減が素晴らしいところは同じだけど、主に大きさが違う。
さっきの子より、ずっと大きい。
それに。
「モフー」
鳴きながら、私の後ろをずっとついてきていたあの子が、隠し扉からピョンと飛び出した。
私のお腹の上に着地して、またもう一度「モフー」と鳴く。
この子はここにいる。
という事は。
「別の子?」
「モフー」
「ボボフー」
「モフ」
「ボフッ」
……なんか、お互いに意思疎通を図ってる?
そんな事を思っていると、視界がゆっくりと下がった。
下敷きになっている大きな子が屈んだ感じだ。
いや、球体に「屈む」も何もないような気はするけど。
視界がゆっくりと下がり、私の足が地面に着く。
立ち上がって振り返ると、下敷きになって平たくなっていた大きな子が、ポヨンと元の楕円形に戻った。
私が寝転べるくらいのサイズで、まさにさっき部屋からついてきた子の『特大版』だ。
でも、よく見たらちょっと手元の子とは、毛の色が違うみたい。
手元の子みたいな純白じゃなくて、ちょっとクリーム色っぽい。
あと、口元に髭みたいなモフモフが付いている。
大きな体に似合う大きな黒い目が、私の事を見据えていて――。
キラキラと輝いているように見える。
また、私も目が離せない。
さっきもこんな事があったなと思い出し、何でだろうと考えた。
そして、気付く。
そうだ、この目は、前世で飼っていた犬のあのつぶらな瞳と、輝きがとてもよく似ているのだ。
「ボフーッ!」
雄たけびのような低い鳴き声と共に、その子が私の胸に飛び込んできて――ボヨヨンッ。
「えっ」
その体に押される形で、私は軽く跳ね飛ばされた。
たたらを踏み、大きく吹き飛ぶのこそ避ける事ができた。
しかし完全に勢いを殺す事はできず、地面に尻もちを――ポフンッ。
いつの間にか私の手から抜け出していた白いクッションの子が、私を尻もちの結末から救った。
「モフーッ! モフモフ!」
「ボフー……」
白い子が怒って、クリーム色の子が落ち込んでる……のかな。
私は立ち上がり白い子に「ありがとう」と言い、クリーム色の子に「大丈夫だよ」と答えた。
そして。
「わたし、これからお城を散策するんだけど、君たちも来る?」
「モフッ」
「ボフー」
という事で、一人と二匹で王城探索!
情報収集のため、可能な限り静かに、周りに気づかれずに移動しようとおもってたんだけど……。
「わたしには、あなたの『弱者』をいじめて誇る姿こそ、『俺は弱者です』って主張しているように見えるわ」
「あぁ?!」
衆人環視の前で、気付いたらこんな事を言っちゃっていた。
でも私、悪い事したとは思ってないからねっ?!




