第11話 至高のモフプニと、脱走経路!
そろりそろりとクッションに近づいた。
カーペットにペタンと座り込んで、目の前の丸いクッションに恐る恐る手を伸ばす。
チョンッ。
人差し指で突いた。
「モフ」
返事が返ってきた。
口が開いて閉じていた。
口の存在が確認できた。
サワッ。
手のひらで触れてみた。
フワフワとした毛並みと、ポヨヨンとした程よい弾力。
そして何より、ちょっと温かい。
「……いきもの?」
「モフッ」
返事が返ってきた。
同時に、おそらく瞼を上げたのだろう。
フワフワの白い毛の間に、クリッとした黒い目が現れた。
瞬間。
まるで雷に打たれたような感覚を受けた。
お互いに、お互いを見つめている。
この子から目が離せない。
つぶらな瞳が光にウルウルと揺れる姿が、とても愛らしくて何と言うか――。
「モッ!」
「うわっ!」
突然ピョンと飛びかかってこられて、驚いたのと、慣性に逆らえずに、私はコロンとカーペットの上に転がった。
結果的に私の上に乗る形になったその子は、私の顔に体を寄せて、頬にスリッとすり寄ってくる。
あったかい。
モフモフ。
プニプニ。
天国……。
「モフー」
「きみ、ひとなつっこいんだね」
人慣れしてるのかな。
そう思いながら、モフモフプニプニを堪能する。
前々世では、プニプニのスクイーズにとてもお世話になった。
社長がサラッと言う無理難題や、かなり面倒臭いいじけ。
それらすべてが最初から――いや、最初じゃなくても、二つ返事で許容できる筈もなく。
そういう時は、流石に毎回社長に怒り爆発するわけにもいかないので、手で握ったり潰したりすると、ゆっくりと元の形に戻るやわらかい感触を楽しむ癒やし系のおもちゃや雑貨『スクイーズ』をプニプニして癒された。
前世では、モフモフにとてもお世話になった。
猫を被って過ごす日々を苦に思った事はなかったけど、それは家で飼っていた大きなワンコをモフモフしていたお陰でもある。
それら二つが、一体になったようなこのお得感。
あー、モフモフプニプニ、癒されるぅ……。
「君は、誰?」
「モフー」
返事が返ってきたけど、名乗ったのかどうかは定かではない。
喋れる訳じゃないのかな……って。
「あれ? そういえばこの子、どこから来たんだろう?」
私はふとそう疑問に思った。
私はずっとこの部屋にいる。
でも、私が知る限りこの子がこの部屋に入ってくる機会なんてなかった。
料理や着替え、お風呂のお手伝いなど。
色々なところでこの城のメイドに力を借りているけど、その間もずっと「どうにかして外に出られないかな」と狙っていたから、出入り口はずっと見ていた。
「何かに引っ付いて」とか「私が寝ている間に誰かが扉を開けて、その時に一緒に」とか、そういう可能性も全然あるけど、もしそうじゃなかったとしたら、この子は三日もの間、何も食べずにずっとこの場にいた事になる訳で。
中には、三日どころか一週間程度なら問題なく食べずに生きられる生き物もいるっていうけど、この子がそうなのかな。
まぁあり得ない訳じゃあない。
そもそもこんな耳どころか足もない、毛玉みたいなモフモフプニプニ、前々世にも、前世にもいなかった。
この子は言わば、今のところ生態不明な謎生物。
何があってもおかしくはない――。
「モッ」
「ん?」
「モフー!」
鳴きながら、モフモフプニプニが私の手からピョンと飛び出た。
そしてそのままピョンピョンと弾みながら、どこかに向かって進んでいって。
「壁? ……あっ!」
壁にポヨンと体当たりしたその子を「怪我しちゃうよ?」と思いながら迎えに行ったら、体当たりしたその壁がガコンとちょっとだけ音を立ててズレた。
触ってみると、どうやら隠し扉みたいなのがあるみたいだ。
場所は、床に近い位置。
具体的に高さを言うと、私が背伸びして手の先がギリギリ届くくらい。
「もしかして、ここから来たの?」
「モフ―」
「そうなんだ」
言葉こそ通じないけど、何となく頷いたような気がした。
私は小さな納得と共に、キョロキョロと辺りを見回す。
そして。
「あっ、アレにしよう」
見つけたのは、私が抱えられるくらいの大きさの、小さな箱だ。
中に何が入っているのかは知らない。
でも、部屋の隅に沢山積んであるから、多分何かが入ってるんだと思う。
それを持っていこうとしたが、重くて全然動かなかった。
ふたを開けると、中には布類が入っている。
それらをポイポイッとすべて出して、空になった箱をえっさほいさと運ぶ。
そうして三つ、壁の前に持ってきた。
階段状になるように置いて、その上をよいしょよいしょと乗れば、ほら。
顔の前くらいの高さに、隠し扉が来た。
改めて壁に触る。
「『ニンジャやしき』の壁みたいな感じかな」
空いた穴の向こう側を覗いてみると、狭い通路みたいなのが続いている。
前々世で言うところの、エアダクトみたいな感じだ。
それにしては、あまりにも低い位置にあるなっていう感じだけどね。
ともあれ。
「わたしなら通れそう」
転生を自覚して初めて、私は自分の体が小さい事に感謝した。
「この先に何があるのかは分からないけど……でも、行かないっていう選択肢はない!」
ここから出られる方法、見つけた!
でも、まだちょっと位置が高いかな……。
私は一度この上から下りて、今度は階段を三段まで作った。
そうして今度こそ、悠々と――隠し扉の穴によじ登り、脱出作戦を開始した。
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第二章:転生幼女は魔王に交渉を持ちかけた!
第三節:一方その頃、継母たちは
第12話 大人しく情報収集しようと思ってたんだよ? 一応ね?
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