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第10話 脱走チャレンジ中に……「モフー」とエンカウント?



 魔王城にやってきて、三日。

 私はずっと与えられた部屋で、軟禁状態になっていた。


 あれから魔王様たちは一度も顔を出さない。

 外に出たい。


 だって、ずっと引きこもっていたら運動不足になるし、つまらないもの。

 あと、情報収集ができないと、自分が今どういう状況なのかも分からない。



 たとえばどうやら今は抑える事ができているらしい『反ニンゲン派』や『主戦派』と呼ばれる魔族たちを、魔王様が押さえられなくなってしまったら。


 彼らはこの部屋に雪崩れ込んできて、私に危害を加えてくるかもしれない。



 私は『死なない事』を目標にしている。

 でも、単に生きていられればいいっていう話でもない。


 命があっても、痛いのは嫌だ。

 次点で寒いのも、お腹が減るのも嫌だ。


 そうならないように、うまく立ち回る。

 そのためには情報が必要なのだ。



「どうにかして、外に出たいけど」


 扉の前で、短い両腕を胸の前で組んで「うーん」と考える。



 普通にしても出られないのは、連日の外の護衛の様子伺いで分かっている。 

 だから、策を講じなければならない。


「……よし!」


 今こそ、前世の経験を活かす時!

 そう思い、胸の前で両手のこぶしをグッと握り、自分自身に気合を入れる。


 まずは!


 私はガチャリと扉を開けた。

 護衛の人がこちらに気が付いたのを視認した私は。


「わたしを外に出してくださらない?」


 肩にかかっていた自分の髪をサララッと手の甲で払いながら、流し目気味にそう告げる。


 必殺!

 前世で培った『人タラシ術』の一つ。

 ――淑女のささやかな我が儘。


 コツは「シャラララーン」な雰囲気を出す事だ。


 さぁ、どうだ!


「まさか、本気ですか……?!」

「えっ」

「だってそれ、宣戦布告でしょう」

「せんせんふこく?」

「はい。こう、『お前の首をこうしてやる』という、挑発ポーズというか」


 戸惑い交じりにそう言われ、私は「えぇっ?!」と声を上げる。


 護衛の人が言いながら実践してくれたのは、手の甲を上にして首の横に添え、スパッと切るようなジェスチャーだ。


 ……まぁ、たしかにさっきの髪の毛を払う仕草、見様によっては首チョンパに見えなくはないかもしれないけど、何でこんなところは前世でも人間の国でもまれに使われる共通ジェスチャーなの?!


 最敬礼であの大事故だったんだから、今回も魔族の間では別の解釈が存在しててよっ!


「部屋に戻ってください」


 ガチャリ。

 扉が閉められた。



 ……いいわ。

 まだ別にも手段はあるんだから!


 私はまたガチャッと扉を開ける。


「あの、これ、おかし。ほしくない?」

「食事は十分に足りていますので」


 ガチャリ。

 扉が閉まった。


 次の策!


「トイレに行ってくるね!」

「トイレは室内にあるでしょう」


 ガチャリ。

 扉が閉まった。


 まだめげないもん!

 次!

 扉を開けたらダッシュで走り抜け――ガシッ。


「子どもの足を止められない護衛など、存在しません」


 首根っこを掴まれた……。

 まだまだ!

 知らないふりをして普通に出れば、意外と――ガシッ。


「何故、それで出れると思ったのですか」


 ポイッと部屋の中に投げ入れられた。

 軽い体は柔らかなベッドに着地し、ポヨヨンッと小さく弾む。

 無傷ではあった。


 ガチャッ。


「今度は何ですか」

「部屋が暑いの」

「……」


 部屋の中に大きな氷がやって来た。

 多分「これで冷を取れ」という事なんだろう。


 うぅむ……こうなったら、最後の手段!

 ガチャッ。


「わたしを誰だと思っているの?!」


 扉を開けて早々に、私はそう言い放ってみせた。

 前世の、ちょっと素行の悪い令嬢の口癖を苦し紛れに真似してみた形だ。


 言いなれない言葉過ぎて、ちょっと舌が縺れかけたけど、何とか言い切ってムンッと胸を張る。


 ちょっと邪道だけど、これも自分の言葉を通すための一つの手段。

 正攻法でも変化球でもダメだったのだから、もう邪道に頼るしかない!


「貴女は」


 そう。

 私は――。


「ニンゲンで人質で子どもです。だから外に出ちゃダメなんです」


 非情にも、目の前で扉がバタンと閉まった。


 せ、正論っ!

 だけど、これもダメってなっちゃったら……!


「とりあえず、今打てる手はなくなっちゃった。でも、諦めない!」


 私は一人そう言いながら、胸の前で両手のこぶしを握り自身に力を入れる。



 前々世でも、私は諦めが悪かった。


 チャランポランで気難しい、限りなく面倒くさい社長の秘書として、いかに社長に気持ちよく仕事をさせるかは、試行錯誤の連続だった。

 でも、秘書で居続けて、試行錯誤を止めなかった。


 経験上「失敗は成功の素」とは言わないけど、「諦めなければいつかは成功する可能性が残る」とは言える。


 可能性を残し続ける事。

 それが、決定的に前任の秘書と私の差であり、結果的に成功した。


 それが、前任の社長の秘書と私との明確な差だったんだと今は思う。

 名ばかりではなく、名実共に、社長の秘書になる事ができたのだ。


「今日はダメでもまた明日、もしかしたらいい考えが思いつくかもしれないし!」


 実際に、そのメンタリティで二度目の人生はうまくいった。

 これは、二度の人生で共通する、私の成功体験の一つで――。


「ん?」


 私の目の前には、先程持ち込まれた私より大きな氷の塊が置いてあった。

 透明な氷に、やる気が漲っている私が映っている……んだけど、その背景で何かがモゾリと動いた。



 振り向くと、何もいない。

 そこにあるのは、黒い床の上に置かれた毛足の短い灰色のラウンドカーペットと、丸とか四角とか色んな形の、赤とか紫とか茶色とか白とかの、クッションが沢山――モゾリ。


 動いた。

 動いたよ今!

 クッションの一つが!!


 ……いやいや、気のせいかもしれないし。

 そう思って、クッションを凝視する。



 私が見ているのは、白い丸クッションだ。

 そう、クッションなのだ。

 クッションが、動く筈ないのだ。


 ……え、動く筈ないよね。

 だってクッションだよ?

 もしかして、魔王城のクッションは動くのが常識なんていう事……ある?



 考えていたら、思考のドツボに嵌り始めた。


 もう何だよ、そもそも常識って!

 何が常識で何が非常識なのか、分からないよ!


「モフー」

「……なんて?」


 今、何か聞こえた。

 なんて言った?


「モフー」


 「モフー」って言った。

 って言うか鳴いた?


 目の前の白い丸クッションが、鳴き声と共にちょっと縦に伸びる。

 鳴き終わると元の丸型に戻るんだけど、動いている瞬間を見ちゃったんだから、もう動いた事は間違いない。



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