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3人は永遠のプリンセスらしいが、えっ、1人はプリンスで、こちらは3人の騒動に巻き込まれて大変  作者: キジ猫大魔神


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第一部「プリンセスたちの劇場」・第4章 ふたりのプリンセス

森岡は、ガラス越しに二人の「プリンセス」を見ていた。


役員フロアの廊下の先、ハレム会議室の前。

会長の娘が、真新しいワンピースの裾をいじりながら、政界プリンセスに話しかけている。


「この前の海外の会議、どうだった?」


会長の娘の声は、少し上ずっていた。


政界プリンセスは、いつもの調子で笑った。


「うん、飛行機が寒かった。あと、通訳さんが優秀で、わたしあんまり仕事してないかも」


それだけで、廊下の空気が少し和らぐ。


森岡から見れば、二人は最初から別の物語に属している人間だった。


会長の娘は、「会長の娘」という役名つきで生まれた人だ。

顔立ちは平均的で、本人が思うほど目立たない。

海外経験もなく、語学もほどほど。

それでも社内では、誰もが彼女に一歩引いて接する。


一方、政界プリンセスは、何もしなくても目を引いた。

すっとした横顔も、立っているだけで人を呼び寄せるような雰囲気も、舞台の真ん中向きだ。

そこに「長老の義理の妹」「アイビー卒」「官僚の妻」というラベルが後から貼られた。


会長の娘は、ときどきそのラベルを指先でなぞるような目をする。

自分にはないものを数えている目だ。


政界プリンセスは、その視線に気づいていないふりをする。

実際、どこまで自覚しているのか、森岡にも読めない。


「今度、おみやげ持ってくるね。空港で変なクッキー買ったから」


政界プリンセスがそう言うと、会長の娘はほっとしたように笑った。


たぶん彼女は、本物の「プリンセス」と同じテーブルに座りたかっただけなのだろう。

しかし、同じ椅子に座ろうとして、足を滑らせているようにも見えた。


政界プリンセスは、いつも少し場違いだった。

政界プリンセスは、野心という言葉とは、いちばん遠いところにいる。


「わたし、そんなに出世したかったのかな」


ぽつりと、彼女が言う。


「義理の兄が、副社長さんに何か言ったって聞いたときも、正直、ちょっと困ったんだよね。

ここ、けっこう居心地いいし。上に行ったら、面倒な会食とか増えそうで」


森岡は、小さく笑った。


「君らしいですね」


彼女も、つられて笑う。

しかし、その笑いはすぐに消えた。


森岡は、ガラスに映る自分の顔を一瞬だけ見た。


普通のサラリーマン家庭に生まれ、営業で階段を上ってきた女。

どの物語にも「プリンセス」という役名は用意されていなかった。


だからこそ、少し離れたところから、この二人を冷静に眺めていられるのかもしれない、と思った。


「で、森岡くんは、どっち側なの?」


質問は、まっすぐだった。


「事実の側です」

と、森岡は答えた。

「君が何をして、何をしていないか。

それだけを、ちゃんと見ていたいと思っています」


彼女は、少しだけ肩の力を抜いた。


「ありがとう。

でも、たぶん、わたしより先に、義理の兄と夫のほうが、本気で怒ると思う」


その予感は、このときすでに、現実に変わり始めていた。


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