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異世界の森で拾われた私は、失われた初恋の代わりに閉じ込められる  作者: 瑠璃くちの


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第五話 それでも、あなたのもとへ帰る


 扉が開いてからも、すぐに何かが変わったわけではなかった。

 私は相変わらず、森の屋敷にいた。

 朝になれば、窓の外には深い森がある。

 食堂へ降りれば、エレンが用意した食事がある。

 暖炉には火が入っていて、湯は温かくて、夜は静かすぎるほど静かだった。

 けれど、ひとつだけ確かに変わったことがある。

 部屋の扉に、鍵はかかっていなかった。

 私は何度も、それを確かめた。

 朝起きて、取っ手を回す。

 昼に部屋へ戻って、取っ手を回す。

 夜、眠る前に、もう一度回す。

 扉は開いた。

 当たり前のことのはずなのに、そのたびに胸の奥でこわばっていたものが少しだけ緩む。

 でも同時に、自分が何度も確かめずにはいられないことが悲しかった。

 私はまだ、エレンを完全には信じられていない。

 それは当然だと思う。

 閉じ込められた。

 怖かった。

 あの日、どれだけ扉を叩いても開かなかった感覚は、まだ手のひらに残っている。取っ手を回しても動かなかった時の冷たさも、忘れられない。

 けれど、エレンはあれ以来、私に触れようとしなくなった。

 階段を降りる時も、以前なら当たり前のように手を差し出した。

 森へ出ようとすると、すぐに外套を持ってついてきた。

 お風呂が長くなると、扉の外から声をかけてきた。

 でも今は、違う。

 階段の下で待ってはいる。

 森へ出ると聞けば、心配そうに立ち上がる。

 浴室の前を通る足音は、いつもより多い。

 それでも、彼は何も言わない。

 私が求めるまで手を出さない。

 私が呼ぶまで扉の外で声をかけない。

 私が「一人で行きます」と言えば、ひどく苦しそうな顔をして、それでも頷く。

 その姿を見るたびに、胸の奥がざわついた。

 閉じ込められたことを、忘れたわけではない。

 でも、エレンが変わろうとしていることも、私は見てしまっている。

 それがずるいと思った。

 怖いままでいさせてくれたらよかったのに。

 怒りだけを抱えていられたら楽だったのに。

 エレンは私を閉じ込めた人だ。

 なのに、彼は毎朝、私の苦手な野菜を小さく刻んでいる。

 私が寒そうにすれば、何も言わずに暖炉へ薪を足す。

 私が無理に笑うと、それ以上踏み込まず、少しだけ距離を取る。

 そして、食事の時には、以前より少しだけ自分も食べるようになった。

 私が言ったからだ。

 私ばかり食べて、エレンが食べないのは落ち着かない、と。

 あんな状況で言った言葉を、彼はちゃんと覚えていた。

 そういうところが、また私を困らせる。

     



 扉が開いてから三日目の朝、私は食堂でエレンに言った。

「リーベルへ行きたいです」

 エレンの手が止まった。

 スープ皿を持つ指先が、ほんの少しだけ強張る。

 けれど彼は、すぐに駄目だとは言わなかった。

 以前なら、きっと即答だった。

 危険だ。

 行くな。

 ここにいろ。

 そう言われると思っていた私は、逆に息を詰めてしまった。

 エレンはゆっくりと皿を置いた。

「今日か」

「はい」

「……何をしに」

「町を見に行きたいです。働ける場所があるかも知りたい。あと、異界落ちのことも、自分の耳で聞きたいです」

 エレンの表情が曇る。

 けれど、それでも彼は黙って聞いていた。

 私は膝の上で手を握りしめた。

「一人では無理だと思っています。道もわからないし、まだ文字も全部読めないし、お金もありません。だから……」

 そこで少し迷った。

 頼るのは違うのではないかと思った。

 エレンに閉じ込められたのに。

 自由になりたいと言っているのに。

 町へ行くためにエレンに頼むのは、おかしいのではないか。

 でも、それでも。

 この世界で今、私が頼れる人はエレンだけだった。

 そのことが悔しくて、少し情けなくて、でも否定しても仕方なかった。

「一緒に来てくれませんか」

 そう言うと、エレンは顔を上げた。

 驚いたような顔だった。

「俺が?」

「はい」

「……俺でいいのか」

 その声は、とても小さかった。

 私は少しだけ息を吸う。

「エレンがいいです」

 言ってから、自分の言葉に胸が鳴った。

 エレンも動かなかった。

 私は慌てて続けた。

「道を知っているし、この世界のこともわかっているからです。変な意味じゃなくて」

「……そうか」

 エレンは目を伏せた。

 その横顔に、ほんの少しだけ寂しそうな影が落ちる。

 私は胸の奥がちくりと痛むのを感じた。

 変な意味じゃない。

 そう言ったのは本当だ。

 でも本当に、それだけだったのだろうか。

 道を知っているから。

 この世界に詳しいから。

 危険から守ってくれるから。

 それもある。

 でも、たぶんそれだけではない。

 私はエレンと一緒にリーベルへ行きたいと思った。

 町を見たいだけなら、一人で行く方法をもっと強く探してもよかった。

 けれど私は、エレンに一緒に来てほしいと言った。

 その理由を、まだ言葉にはできなかった。

「わかった」

 エレンが静かに言った。

「馬を用意する」

「ありがとうございます」

「ただし」

 私は少し身構えた。

 けれど、エレンはすぐに言葉を続けなかった。

 以前のように、危険だから駄目だと言われるのかと思った。

 私の行動を細かく決められるのかと思った。

 でもエレンは、苦しそうに息を吐いてから言った。

「嫌なら、いつでも言え」

「え?」

「俺が近くにいることが嫌なら、離れる。話しかけられたくなければ黙る。触れられたくなければ、触れない」

 その言葉に、私は何も言えなくなった。

 エレンは私を見ないまま続けた。

「お前の行きたい場所へ行けばいい。俺は、道案内をする」

 胸の奥が、じわりと熱くなった。

 不器用だと思った。

 とても不器用で、でも本気なのだと思った。

「……ありがとうございます」

 私がそう言うと、エレンは少しだけ頷いた。



     

 リーベルへ向かう道は、思っていたよりも長かった。

 屋敷の前から森の中へ続く細い道を進む。馬に乗るのは初めてではない。初めてこの屋敷へ連れてこられた日も、私はエレンの馬に乗せられた。

 でもあの日は、怖くて、何もかもわからなくて、ただ身を固くしているだけだった。

 今日は違う。

 私は自分の意思で馬に乗っている。

 前に私。後ろにエレン。初めての日と同じ位置なのに、まるで意味が違った。

 エレンの腕は、私を囲むように手綱を握っている。

 けれど、以前よりも距離があった。

 落ちないように必要な範囲だけ。

 必要以上には触れない。

 そのことに気づいて、また胸が少し痛んだ。

 馬の背が揺れるたびに、少しだけ身体が後ろへ傾く。エレンの胸に触れそうになって、私は慌てて姿勢を戻した。

 すると背後から、小さな声がした。

「無理に離れなくていい」

 私は息を止めた。

「落ちる方が危ない」

「……はい」

 どう返せばいいかわからなくて、私は小さく頷いた。

 少しだけ力を抜く。

 背中に、エレンの体温を感じた。

 知らない男の人の近さは怖いはずだった。

 けれど今は、怖さだけではなかった。

 落ち着く、とまでは言えない。

 でも、ひとりで森を歩いていた時の心細さはなかった。

 この人は、私を閉じ込めた。

 それでも、この森の中で私を守ってくれる人でもある。

 その二つが同時に存在していることを、私はまだうまく受け止めきれずにいた。

 道の途中で、馬を降りて少し歩く場所があった。

 木の根が張り出し、道が細くなっている。エレンは先に降り、私に手を差し出しかけて、途中で止めた。

 その手が、宙で迷う。

 私はそれを見ていた。

 以前なら、彼は迷わなかった。

 私の意思を聞く前に手を取って、危ないからと言った。

 今は、違う。

 怖がらせないように、必死に堪えている。

 私はしばらく、その手を見つめた。

 そして、自分から言った。

「手を貸してください」

 エレンが顔を上げる。

 その目に、驚きと、痛いくらいの安堵が浮かんだ。

「ああ」

 彼は短く答えた。

 差し出された手に、自分の手を重ねる。

 エレンの手は、やっぱり温かかった。

 強く握られることはなかった。

 私が降りる間だけ、支えるように添えられている。

 たったそれだけのことなのに、胸が苦しくなった。

 閉じ込めた人。

 私の意思を奪った人。

 でも今、私の「手を貸して」に応えてくれる人。

 私はこの人をどう思えばいいのだろう。

 答えはまだ出なかった。



     

 森を抜けると、少しずつ景色が変わった。

 木々の間隔が広がり、踏み固められた道が現れる。遠くに畑が見えた。低い石垣と、赤茶色の屋根。煙突から上がる白い煙。

 そして、町が見えた。

「あれがリーベル?」

「ああ」

 リーベルの町は、私が想像していたよりも小さかった。

 けれど、ちゃんと人がいた。

 荷車を引く男性。井戸端で話している女性たち。店先に布を広げる商人。走り回る子ども。パンを焼く匂い。馬の鳴き声。どこかで鳴る鐘の音。

 人の暮らしの音がした。

 それを聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

 私はずっと、人のいる場所に来たかった。

 屋敷は静かだった。

 森も静かだった。

 エレンも静かだった。

 リーベルは、騒がしい。

 その騒がしさに、少しだけ泣きそうになった。

「大丈夫か」

 エレンが低く聞いた。

 私は頷いた。

「大丈夫です。ただ……人がいるなと思って」

 そう言うと、エレンは何も言わなかった。

 町の入口で、何人かがこちらを見た。

 エレンに気づいたらしい。軽く頭を下げる人もいた。

「グランフェルト様」

 通りがかった中年の男性が、エレンに声をかけた。

 私は思わずエレンを見た。

 様。

 やっぱり、エレンはこのあたりでは身分のある人なのだ。

 エレンは短く頷いただけだった。

 男性の視線が私へ移る。

「そちらのお嬢さんは?」

 私は身体を固くした。

 どう答えればいいのかわからない。

 異界落ちです、なんて言えるはずがない。

 エレンが一歩、私の前に出かけた。

 けれど、すぐに止まった。

 私を隠すように立つのを、途中でやめたのだとわかった。

 その代わり、彼は静かに言った。

「遠縁の娘だ。しばらく預かっている」

 男性は納得したように頷いた。

「そうでしたか。森の屋敷も賑やかになりますな」

 悪気のない言葉だったのだと思う。

 でも、エレンの肩が一瞬だけ強張った。

「……ああ」

 それだけ答えて、彼は歩き出した。

 私は隣を歩きながら、そっと聞いた。

「遠縁の娘って、大丈夫なんですか」

「しばらくは」

「嘘をつかせてしまって、すみません」

 エレンは私を見た。

「俺が決めたことだ」

「でも」

「お前が謝ることじゃない」

 短い言葉だった。

 けれど、以前とは違って聞こえた。

 私に責任を負わせないようにしている。

 そう感じた。

 リーベルの市場は、思っていたよりも賑やかだった。

 野菜や果物が並び、香辛料の匂いがする。布地を売る店、革製品の店、焼き菓子の店。見たことのない魚の干物や、色鮮やかな瓶詰めもあった。

 エレンは必要以上に私を止めなかった。

 私が店先を覗くと、少し離れて待っている。

 私が足を止めると、歩幅を合わせる。

 人混みで肩がぶつかりそうになると、一瞬だけ手を伸ばしかけて、また引っ込める。

 そのたびに、私は少しずつ胸が痛くなった。

 私を閉じ込めた彼は怖いと思っていた。

 でも、今は私を怖がらせないようにしている。

「ミユウ」

 名前を呼ばれて振り返ると、エレンが小さな焼き菓子を持っていた。

「食べるか」

「え?」

「さっき、見ていた」

 私は思わず瞬きをした。

 確かに、店先の焼き菓子を見ていた。丸くて、砂糖のようなものがまぶされていて、少しだけドーナツに似ていたから。

「見てただけです」

「食べたいのかと思った」

「……少しだけ」

 正直に言うと、エレンは店主に硬貨を渡した。

 焼き菓子が紙に包まれて、私の手に乗る。

 温かかった。

「あの、お金……」

「気にするな」

「気にします」

「なら、いつか返せ」

 私は顔を上げた。

 エレンは私を見ていた。

「お前が働くなら、その時に」

 その言葉に、胸が詰まった。

 エレンが、私が働く未来を口にした。

 ここにいろ、と言い続けた人が。

「……はい」

 私は小さく頷いた。

「返します」

 焼き菓子は、外側が少し固くて、中は柔らかかった。甘さは控えめで、香草のような香りがする。

「美味しい」

 思わず言うと、エレンの表情が少しだけ緩んだ。

 その顔を見た瞬間、私は目を逸らしてしまった。

 どうしてだろう。

 エレンが少し笑うと、私は困る。

 怖い人のままでいてくれた方が、ずっと簡単なのに。



     

 市場を抜けたところに、小さな宿屋兼食堂があった。

 エレンはそこを知っているらしく、店の女性に短く挨拶した。

「まあ、グランフェルト様。珍しいですね」

 恰幅のいい女性が、明るく笑った。

「森から出てこられるなんて。今日はお連れ様も?」

 女性の視線が私に向く。

 私は緊張しながら頭を下げた。

「ミユウです」

「まあ、可愛らしいお嬢さん。東の方の方かしら? 少し珍しい響きのお名前ね」

「あ、えっと……」

 どう答えればいいかわからず詰まる。

 エレンが口を開きかけた。

 でも私は、その前に言った。

「遠いところから来ました。今は、エレンにお世話になっています」

 自分で言えた。

 嘘ではない。全部は言っていないけれど、嘘ではない。

 女性はにこにこと頷いた。

「そうなの。大変だったわねえ。ここの食事は温かいから、ゆっくりしていくといいわ」

 その普通の優しさに、私は少しだけほっとした。

 席に着くと、エレンは向かいに座った。

 食堂の中には他にも数人の客がいた。商人らしい人、農夫らしい人、旅装の男性。誰も私をじろじろ見ることはなかった。

 それでも、私は落ち着かなかった。

 ここでは私は異物だ。

 服はエレンが用意してくれたこの世界のものを着ている。髪も簡単に結んでいる。けれど、話し方も、立ち居振る舞いも、きっとどこか違う。

 食事を運んできてくれた女性に、私は思い切って聞いてみた。

「あの、このあたりで働ける場所ってありますか」

 エレンがわずかに顔を上げた。

 でも何も言わない。

 女性は少し驚いたようにしたあと、私を見た。

「働き口?」

「はい。まだこの国の文字を勉強している途中なんですけど、掃除とか、洗濯とか、食堂のお手伝いとかなら……」

「そうねえ。紹介状があれば、住み込みの口もあるけど」

「紹介状」

「身元を保証してくれる人が必要なのよ。特に若い娘さんならね。親戚とか、雇い主とか、教会とか」

 私は黙った。

 身元を保証してくれる人。

 この世界に、私にはそれがない。

 戸籍もない。家族もいない。知り合いもいない。

 私の身元を説明できるのは、今のところエレンだけだ。

 女性は悪気なく続けた。

「グランフェルト様のご紹介なら、どこでも安心でしょうけどね」

 私はエレンを見た。

 エレンは静かに言った。

「必要なら、書く」

 私は驚いた。

「いいんですか」

「ああ」

「でも、私が働くってことは、外に出るってことですよ」

 わざと確認するように言った。

 エレンの顔が少しだけ苦しげになる。

 けれど彼は、頷いた。

「お前が望むなら」

 その言葉に、胸の奥が苦しくなった。

 お前が望むなら。

 その言葉を聞きたかったはずなのに、聞いたら聞いたで、どうしてこんなに泣きそうになるのだろう。

 食事のあと、私は女性にもうひとつ聞いた。

「異界落ちって、知っていますか」

 エレンの空気が変わった。

 でも止められなかった。

 女性は少しだけ声を落とした。

「知っているわよ。この国では、たまに噂になるもの」

「本当に、いるんですか」

「さあねえ。私は見たことはないけど、王都にはそういう人を保護する場所があるんでしょう? 王立異界研究院だったかしら」

 保護。

 その言葉は、やっぱりどこか薄く聞こえた。

「そこへ行った人は、帰れるんですか」

 女性は困ったように笑った。

「異界へ? それはわからないわ。少なくとも、私の周りで帰ったって話は聞いたことがないねえ」

「そうですか……」

「でも、王都なら悪いようにはしないでしょう。たぶんね」

 たぶん。

 その曖昧さが、怖かった。

 女性が去ったあと、私はしばらく黙っていた。

 エレンも何も言わなかった。

 責めない。

 止めない。

 ただ、私が聞いた答えを一緒に受け止めている。

 それが不思議だった。

 以前なら、きっと聞かせないようにしたはずだ。

 でも今は、私に聞かせてくれた。

「エレンの言っていたこと、嘘じゃなかったんですね」

 私が言うと、エレンは目を伏せた。

「嘘は、ついていない」

「でも、全部も言ってくれなかった」

「ああ」

「それは、私を守るためでもあったんですか」

「そう思っていた」

 私はその答えに、少しだけ笑ってしまった。

 悲しくて、困って、どうしようもなくて。

「今は?」

 聞くと、エレンは私を見た。

「お前を、俺のそばに留めるためだったとも思う」

 正直な答えだった。

 胸が痛かった。

 でも、嘘をつかれるよりずっとよかった。

「そうですか」

「ああ」

 私は窓の外を見た。

 リーベルの通りを、人が行き交っている。

 この町で働くことはできるかもしれない。

 エレンが紹介状を書けば、きっと可能性はある。

 王都へ行くこともできるかもしれない。

 研究院へ行けば、何かわかるかもしれない。

 でも、どの道も簡単ではなかった。

 私は自由だ。

 少なくとも今、エレンは私を止めていない。

 けれど自由になった途端、私は自分が何も持っていないことを思い知った。

 この世界での家も、身分も、仕事も、知識も、味方も。

 そして、帰り道も。



     

 その夜、私はリーベルの宿に泊まることになった。

 私が、一人で考えたいと言ったからだ。

 エレンは最初、何か言いかけた。

 でも結局、頷いた。

「俺は下の部屋にいる」

「隣じゃないんですか」

「嫌だろう」

 そう言われて、私は返事に詰まった。

 嫌、ではなかった。

 でも、隣にいたら、きっと私は安心してしまう。

 安心して、自分で考えることをやめてしまうかもしれない。

「下なら、何かあれば呼べるから」

 エレンはそう言った。

「呼ばれなければ、行かない」

「……はい」

 私は鍵を受け取り、二階の部屋へ入った。

 小さな部屋だった。

 寝台と机と椅子。窓からはリーベルの通りが見える。森の屋敷の部屋よりずっと狭い。布団も少し硬い。

 でも、ここにはエレンの気配がなかった。

 扉の鍵は、私が内側からかけた。

 自分で。

 そのことが、ひどく大きな意味を持っているように思えた。

 私は椅子に座り、窓の外を見た。

 通りにはまだ少し人がいる。灯りが揺れて、誰かの笑い声が聞こえた。遠くで犬の鳴き声もする。

 自由だ。

 私は今、森の屋敷にいない。

 エレンの部屋の近くにもいない。

 私を閉じ込める扉もない。

 そう思ったのに、胸の奥は少しも晴れなかった。

 私はバッグからスマホを取り出した。

 電源を入れる。

 電池は二十四パーセント。

 圏外。

 暗い画面に映る自分の顔が、知らない人みたいに見えた。

「どうしよう……」

 小さく呟く。

 リーベルで働く。

 王都へ行く。

 研究院へ行く。

 森の屋敷へ戻る。

 選択肢は、いくつもあるように見えた。

 でも、どれを選べばいいのかわからない。

 私は元の世界へ帰りたい。

 その気持ちは、今もある。

 お母さんに会いたい。友達に連絡したい。大学へ戻りたい。就活セミナーが嫌だなんて言っていた自分に戻りたい。

 けれど、帰れるかどうかはわからない。

 研究院へ行っても、帰れる保証はない。

 そして、森の屋敷へ戻れば、エレンがいる。

 そのことを考えた瞬間、胸が静かに揺れた。

 エレン。

 あの人は、時として怖い。

 間違えた。

 私を閉じ込めた。

 でも、私が町へ行きたいと言えば連れてきてくれた。

 焼き菓子を買ってくれた。

 働くなら紹介状を書くと言った。

 宿に泊まりたいと言ったら、嫌だと言わず、下の部屋で待つと言った。

 待つ。

 その言葉に、私はふと気づいた。

 エレンは、また待っている。

 かつて、サリュさんが帰ってくるのを待っていた人。

 帰ってこなかった人を、ずっと待ち続けて壊れてしまった人。

 その人が今、私のために下の部屋で待っている。

 私が呼ばない限り来ないと決めて。

 私が明日、どこへ行くと言うのかもわからないまま。

 私は胸を押さえた。

 かわいそうだから戻るのは違う。

 そう思った。

 エレンの傷を埋めるために、私がそばにいるのは違う。

 サリュさんの代わりになるのも違う。

 彼の後悔をやり直すために、私の人生を差し出すのも違う。

 それは何度考えても、違う。

 でも。

 私はエレンを置いていきたいのだろうか。

 あの森の屋敷に、ひとり残したいのだろうか。

 朝、食堂で向かい合って座ること。

 森を歩く時、危ないと言われること。

 文字をひとつ覚えるたびに、静かに頷いてくれること。

 苦手な野菜を刻まれること。

 湯上がりに、冷えるから早く髪を拭けと言われること。

 思い出すのは、閉じ込められた部屋だけではなかった。

 優しかった時間も、一緒に出てくる。

 それが悔しかった。

 私はエレンの優しさを、嫌いになりきれない。

 それどころか。

 下の部屋に彼がいると思うだけで、少しだけ安心している自分がいる。

 泣きたくなった。

「好き、なのかな」

 言葉にして、すぐに違うと思った。

 まだ、そんなふうには言えない。

 怖さがある。

 怒りもある。

 許せない気持ちも残っている。

 でも、嫌いではない。

 それだけは、もう誤魔化せなかった。

 エレンのことをもっと知りたいと思っている。

 サリュさんを失う前のエレンも。

 失ってから森に閉じこもったエレンも。

 私を見つけて壊れてしまったエレンも。

 鍵を開けて、手を離そうとしているエレンも。

 全部を知った上で、それでもそばにいたいのかどうか。

 それを、私自身が確かめたい。

 私は寝台に横になった。

 宿の布団は少し硬くて、森の屋敷のものより冷たかった。

 眠れると思っていたのに、なかなか眠れなかった。

 扉の外から、エレンの足音はしない。

 暖炉の薪が爆ぜる音もない。

 私の部屋に合わせて用意された温かいお茶もない。

 自由な夜は、思ったよりも寂しかった。

 その寂しさに、私は少しだけ笑ってしまった。

 私はたぶん、もう森の屋敷をただの檻だとは思えなくなっている。

 あそこは怖い場所だった。

 でも同時に、私がこの世界で初めて眠った場所だった。

 初めて食事をもらった場所だった。

 初めて名前を呼ばれた場所だった。

 そして、エレンがいる場所だった。



     

 翌朝、私は宿の階段を下りた。

 食堂には、エレンがいた。

 窓際の席に座って、手をつけていないカップを前に置いている。

 私に気づくと、彼はすぐに立ち上がった。

 けれど、近づいてはこなかった。

 ただ、その場に立って私を見ている。

 何かを待つように。

 私は階段の最後の一段を下りて、彼の前へ行った。

「おはようございます」

 そう言うと、エレンはわずかに目を見開いた。

「……おはよう」

 いつもと同じ短い挨拶。

 でも、その声は少しだけ掠れていた。

「眠れましたか」

 私が聞くと、エレンは答えなかった。

 答えないことが答えだった。

「エレン、ちゃんと寝てくださいって言いましたよね」

「……お前も、あまり眠れていない顔をしている」

「私は考え事をしていたので」

「俺もだ」

 少しだけ、いつもの調子に戻った気がした。

 私は息を吸った。

 エレンはそれを見て、身体を強張らせる。

 私が何を言うのか、怖いのだとわかった。

 森には戻らない。

 リーベルに残る。

 王都へ行く。

 研究院へ行く。

 どれを言われても受け止めるつもりで、でも受け止めきれない顔をしている。

 私は静かに言った。

「森の屋敷へ帰りたいです」

 エレンは動かなかった。

 本当に、息まで止めたように見えた。

「……帰る?」

「はい」

「屋敷へ?」

「はい」

「なぜ」

 その声は、信じられないものを聞いたようだった。

 私は少しだけ笑った。

「帰りたいと思ったからです」

 エレンの目が揺れる。

「逃げられただろう」

「逃げようと思えば、たぶん」

「リーベルに残ることもできる。紹介状を書くと言った。王都へ行くことも」

「はい」

「なら、なぜ」

 私はエレンを見上げた。

 この言葉を言うのは、少し怖かった。

 誤解されたくなかった。

 可哀想だから戻ると思われたくなかった。

 私が折れたのだと思われたくなかった。

 でも、言わなければ伝わらない。

「怖かったからだけじゃありません」

 エレンが黙る。

「リーベルで、外の世界が簡単じゃないことはわかりました。研究院も怖いです。身元がないと働くのも難しい。そういう意味では、エレンの屋敷は安全です」

「……」

「でも、それだけなら、私はたぶん帰りたいとは言いません」

 私は胸の前で手を握った。

「エレンに、会いたいと思いました」

 言ってしまった。

 顔が熱くなる。

 でも、目は逸らさなかった。

「昨日の夜、部屋で一人になって、自由だと思いました。自分で鍵をかけて、自分で眠れる。誰にも閉じ込められていない。そう思ったのに、なぜか落ち着かなくて」

 エレンは動かなかった。

「エレンが下にいると思うと安心しました。でも、エレンが部屋に来ないことも安心しました。変ですよね」

「変ではない」

 エレンの声は、とても低かった。

「私、まだエレンのことを全部許せたわけじゃないです」

「ああ」

「閉じ込められたことは、怖かったです。思い出すと今でも嫌です」

「ああ」

「でも、エレンのことを嫌いになりたくないと思いました」

 エレンの目が苦しそうに細められる。

「それで、考えました。嫌いになりたくないだけなのか、怖いから頼っているだけなのか、それとも……」

 そこから先は、少しだけ言葉に詰まった。

 好き。

 その二文字は、まだ重かった。

 けれど、それに近いところまで来ているのは、もうわかっていた。

「エレンと一緒にいたいのか」

 私がそう言うと、エレンの顔が痛みを堪えるように歪んだ。

「ミユウ」

「私は、エレンと一緒にいたいです」

 はっきりと言った。

 胸がどきどきしている。

 でも、不思議と後悔はなかった。

「ただし」

 私はすぐに続けた。

「閉じ込められるのは嫌です」

 エレンは頷いた。

「わかっている」

「町へはまた来ます。働けるかどうかも考えます。文字ももっと勉強します。王都のことも、研究院のことも、ちゃんと知りたいです」

「ああ」

「私は外を知ります。自分で選びたいから」

「ああ」

「その上で、帰る場所をエレンの屋敷にしたいです」

 言った瞬間、エレンの目が大きく揺れた。

 彼は何かを言おうとして、でも言葉にならないようだった。

 私は少しだけ近づいた。

「逃げません」

 エレンが息を呑む。

「でも、鍵はかけないでください」

「かけない」

「絶対に」

「かけない」

「不安になっても?」

「……かけない」

 少し間があった。

 正直だと思った。

 不安にならないとは言わない。

 怖くならないとも言わない。

 それでも、かけないと言った。

 私は小さく頷いた。

「なら、帰ります」

 エレンはしばらく私を見ていた。

 そして、とても静かに言った。

「触れてもいいか」

 その一言に、胸が詰まった。

 以前のエレンなら、きっと聞かなかった。

 森で拾った時も、階段を降りる時も、外を歩く時も。彼は私を守るために触れた。私の意思を確認する前に。

 今は、聞いてくれる。

 私はゆっくりと頷いた。

「はい」

 次の瞬間、エレンが私を抱きしめた。

 強かった。

 でも、痛くはなかった。

 以前なら、逃がさないための腕だったかもしれない。

 今は違う。

 震えている。

 エレンの腕が、かすかに震えていた。

 私は少し迷ってから、彼の背に手を回した。

 エレンの身体が、さらに強張る。

「ミユウ」

 耳元で呼ばれた名前が、ひどく苦しそうで、ひどく大切そうだった。

「帰ってくるのか」

「はい」

「俺のところへ」

「はい」

「……本当に?」

 その声を聞いた時、私は思った。

 この人は、まだ信じられないのだ。

 帰ってくると言われても、信じたいのに信じられない。

 もう二度と失いたくないと思いながら、手を離すことを覚えようとしている。

 私は腕の中で、小さく息を吐いた。

「本当です」

 そう言ってから、少しだけ意地悪をしたくなった。

「でも、帰りが遅いだけで閉じ込めようとしたら怒ります」

「……しない」

「迎えに来るのは?」

「それは」

 エレンが詰まった。

 私は少し笑った。

「迎えに来るくらいなら、相談してください」

「相談」

「勝手に決めないでください」

「……わかった」

 たぶん、完全にはわかっていない。

 でも、わかろうとしている。

 それで今は十分だと思った。



     

 森の屋敷へ戻る道は、昨日とは違って見えた。

 リーベルの賑わいから離れ、畑を抜け、森の道へ入る。木々が深くなるにつれて、空気がひんやりしていく。

 私は馬の前に座り、手綱を持つエレンの腕の中にいた。

 昨日よりも、少しだけ身体の力を抜いていた。

 エレンは相変わらず必要以上には触れない。けれど、馬が揺れた時、私が少し後ろへ寄りかかっても何も言わなかった。

 むしろ、落ちないようにほんの少しだけ腕の位置を変えた。

 その気遣いに、胸が温かくなる。

「エレン」

「何だ」

「サリュさんのこと、いつかもっと聞かせてください」

 背後の空気が、一瞬止まった。

「嫌なら、無理には聞きません。でも、エレンがどんなふうにその人を大切に思っていたのか、知りたいです」

「……なぜ」

「エレンを知りたいからです」

 そう言うと、しばらく返事はなかった。

 やがて、低い声が落ちてくる。

「お前は、嫌ではないのか」

「何がですか」

「俺が、サリュを忘れないこと」

 私は少し考えた。

 嫌ではない、と簡単には言えなかった。

 胸が少し痛むのは本当だ。

 自分とよく似た亡くなった初恋。

 エレンが今も忘れられない人。

 その存在に、何も感じないほど私は強くない。

 でも。

「忘れたら、きっとエレンじゃなくなる気がします」

 私はゆっくりと言った。

「エレンがサリュさんを大切に思っていたことも、失って傷ついたことも、今のエレンを作っているものだと思うから」

「……」

「ただ、私をその人の代わりにするのは嫌です」

「ああ」

「それだけです」

 エレンはしばらく黙っていた。

 そして、静かに言った。

「サリュは、穏やかな女だった」

「はい」

「だが、意外と頑固だった」

「少し聞いた気がします」

「お前とは違う」

「はい」

「本当に、違う」

 その言い方が、どこか優しかった。

 私は少しだけ振り返る。

「それ、褒めてますか?」

 エレンは私を見下ろした。

「褒めている」

「本当に?」

「ああ」

「私、結構怒りますよ」

「知っている」

「納得できないとしつこいですよ」

「知っている」

「遠慮なく言う時もあります」

「知っている」

 エレンの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。

「だから、お前なんだろう」

 胸が鳴った。

 私は慌てて前を向いた。

 顔が熱い。

 ずるい。

 そんな言い方をされたら、困る。

 私はまだ、好きだと言うには早いと思っているのに。

 それでも、今、確かに思ってしまった。

 この人のそばにいたい。

 怖さも、過ちも、傷も、全部なかったことにはできない。

 でも、エレンが私を私として見ようとしてくれるなら、私もエレンを見たい。

 失われた初恋に囚われた可哀想な人としてではなく。

 私を閉じ込めた怖い人としてだけでもなく。

 エレン・グランフェルトという、一人の人として。



     

 森の屋敷が見えた時、私は不思議な気持ちになった。

 昨日ここを出た時、私は自由になった気がした。

 そして今、戻ってきたのに、閉じ込められたとは思わなかった。

 屋敷の扉は閉まっている。

 けれど、鍵はかかっていない。

 たぶん、これからもかけないとエレンは言った。

 私は馬から降りる時、エレンの手を借りた。

 地面に足がつく。

 屋敷の前に立つ。

 深い森の中の、静かな屋敷。

 私がこの世界で最初に眠った場所。

 怖くて、優しくて、息苦しくて、温かい場所。

 私は扉の前で振り返った。

 エレンは、少し離れた場所に立っていた。

 私が先に入るのを待っている。

 押し込まない。

 急かさない。

 手を引かない。

 ただ、待っている。

 私はその姿を見て、胸の奥が柔らかく痛んだ。

「エレン」

「何だ」

「ただいま、でいいですか」

 エレンの顔が、今まで見たことがないくらい揺れた。

 泣きそうなのに、泣き方がわからない人みたいな顔だった。

 彼は少しだけ目を伏せて、それから答えた。

「……ああ」

 私は屋敷の扉を開けた。

 中は、昨日までと同じだった。

 古い絨毯。静かな廊下。暖炉の匂い。少しだけ埃っぽい空気。

 でも、昨日までとは違う。

 私は、自分の足でここへ帰ってきた。

「ただいま、エレン」

 そう言うと、背後でエレンが小さく息を呑んだ。

 しばらくして、低い声が返ってくる。

「おかえり、ミユウ」

 その声を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。

 帰る場所。

 そう呼ぶには、まだ少し怖い。

 でも、この場所をそうしたいと思った。

 私は振り返り、エレンを見た。

「約束してください」

「ああ」

「鍵はかけない」

「かけない」

「町へ行く時は、相談する」

「する」

「私が働きたいと言ったら、一緒に考える」

「考える」

「エレンも、ちゃんと食べる」

「……それもか」

「それもです」

 エレンは少しだけ困ったように目を伏せた。

「わかった」

「あと」

 私は少し迷ってから、言った。

「不安になったら、閉じ込めるんじゃなくて、言ってください」

 エレンが私を見る。

「私も、全部うまく答えられるわけじゃないです。でも、言ってくれたら聞きます」

「……俺の不安を?」

「はい」

「重いぞ」

「知ってます」

 即答すると、エレンがわずかに目を見開いた。

 私は少し笑った。

「知ってます。そのうえで、聞きます」

 エレンは何も言わなかった。

 ただ、痛いほどまっすぐに私を見ていた。

 その視線は、もう私の向こう側の誰かを見てはいなかった。

 少なくとも、今は。

 私だけを見ている。

 そう感じた。

 私は一歩、エレンに近づいた。

「触れても、いいですか」

 今度は、私が聞いた。

 エレンの喉が小さく動く。

「ああ」

 私は手を伸ばし、彼の袖を軽く掴んだ。

 抱きしめるほどの勇気は、まだなかった。

 でも、離れたくなかった。

 エレンはその手を見下ろして、しばらく動かなかった。

 そして、私に触れてもいいかと目で尋ねるように見た。

 私は頷いた。

 彼の手が、そっと私の手に重なる。

 強く握らない。

 逃がさないためではなく、確かめるように。

 私はその手を、握り返した。

 エレンの指が震えた。

 その震えごと、私は受け止めたいと思ってしまった。

 好き、とはまだ言わない。

 けれど、きっともう、かなり近いところまで来ている。

 この人と一緒にいたい。

 この人の不安を知りたい。

 この人が変わろうとするところを見ていたい。

 そして、私自身も、この世界でどう生きるのかを、この人の隣で考えたい。

 それは、同情ではなかった。

 怖さに負けたわけでもなかった。

 自分で選んだ気持ちだった。

「エレン」

「何だ」

「私は、逃げません」

 エレンの手に力がこもりかけて、すぐに緩んだ。

 閉じ込めるための力ではない。

 堪えるための力だった。

「でも、外へは行きます」

「ああ」

「帰ってきます」

「……ああ」

「だから、待っていてくれますか」

 エレンは目を閉じた。

 その顔は、泣きそうだった。

 やがて彼は、低く、震える声で言った。

「待つ」

 私は頷いた。

 今度の「待つ」は、きっと過去とは違う。

 帰ってこない人を待つのではなく、帰ってくると約束した私を待つ。

 その違いを、これから何度も、少しずつ積み重ねていくのだと思う。

 私はエレンの手を握ったまま、開いた扉の向こうに広がる森を見た。

 外の世界は怖い。

 この屋敷も、完全に安心できる場所になったわけではない。

 それでも私は、ここへ帰ってきた。

 誰かの代わりとしてではなく。

 閉じ込められるためでもなく。

 私自身の意思で、エレンのもとへ。

 そして、彼の隣で生きる未来を、少しだけ見てみたいと思った。




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