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第三話 出ていくと言った日


 エレンは、長い間黙っていた。

 窓の外では森が揺れている。風が枝葉を擦る音だけが、部屋の中にまで忍び込んできていた。

 私はカップを両手で包み込んだまま、エレンを見上げていた。

 教えてくれないなら、自分で調べに行く。

 そう言った途端、エレンの空気が変わった。

 怖い、と思った。

 でも、ここで引いてはいけないとも思った。

 だって私は、本当に何も知らない。

 ここがどこなのかも。

 私はどうしてここに来たのかも。

 帰れるのかも。

 帰れないのなら、この世界でどう生きていけばいいのかも。

 何も知らないまま、ただ食べて、眠って、エレンに守られているだけではいられなかった。

「……ここは」

 やがて、エレンが口を開いた。

 私は息を詰める。

「アルフェリア王国の北部だ」

「アルフェリア……王国」

 聞いたことのない名前だった。

 当然だ。私の知っている地図には、そんな国は存在しない。

 けれどその名前を聞いた瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちた。

 やっぱり、ここは日本ではない。

 それどころか、私の知っている世界ですらないのかもしれない。

「この森は、グランフェルトの森と呼ばれている」

「グランフェルト……エレンの名字と同じ」

「ああ、グランフェルト伯爵家。俺の生家が、代々管理している森だ」

 エレンは静かに言った。

「近くに町はある。リーベルという小さな町だ。王都はずっと遠い。名はルーヴェルディア」

 リーベル。

 ルーヴェルディア。

 私は必死に頭の中で繰り返した。

 知らない地名。知らない国。知らない森。

 それでも、名前があるだけで、ほんの少しだけ世界に輪郭ができた気がした。

「じゃあ、私みたいに突然ここへ来る人は……」

 エレンの目がわずかに伏せられる。

「稀にいる」

「いるんですか?」

「異界落ち、と呼ばれている」

「異界、落ち……」

 その言葉は、奇妙に重かった。

 異なる世界から、落ちる。

 まるで私のことをそのまま表しているようだった。

「古い森や、魔力の歪みがある場所で起こると言われている。原因ははっきりしていない。何十年も起きないこともあれば、数年のうちに続けて起きることもある」

「魔力……」

 思わず呟く。

 魔力。

 それは、私の世界では物語の中の言葉だった。

 けれどエレンは当たり前のように言った。

 私はカップを握る手に力を込めた。

「異界落ちした人は、どうなるんですか」

 その質問をした瞬間、エレンの表情がさらに硬くなった。

「発見した者は、王都へ報告する決まりになっている」

「王都……ルーヴェルディアに?」

「ああ」

「報告されたら?」

「王立異界研究院へ送られる」

「研究院……」

 私はその言葉に、反射的に身を固くした。

 研究。

 その二文字が、ひどく嫌な響きを持って胸に残る。

「何を、されるんですか」

「保護だ」

 エレンは答えた。

 でも、その声には少しも安心できる響きがなかった。

「表向きは」

 思わず、私は聞き返していた。

「表向き?」

 エレンは黙った。

 私はその沈黙だけで、十分だった。

 王都に連れていかれる。

 研究院に送られる。

 保護される。

 けれど、自由に暮らせるとは限らない。

 そういうことなのだと、わかってしまった。

「私は、そこへ行かないといけないんですか」

 声が震えた。

 エレンは私を見た。

 その目が、ひどく暗かった。

「本来なら」

 本来なら。

 その言葉の意味を、私はゆっくりと理解した。

 エレンは私を王都へ報告していない。

 グランフェルトの森を管理する家の人間なのに。

 発見者には報告する義務があるのに。

 それを、していない。

「どうして……?」

 問いかけると、エレンは唇を引き結んだ。

「お前を、渡したくなかった」

 低い声だった。

 あまりにもまっすぐな言葉で、私は一瞬返事ができなかった。

 渡したくなかった。

 その言葉に含まれているものが、親切なのか、優しさなのか、それとももっと別のものなのか、私にはまだわからなかった。

「研究院に行けば、帰れる方法がわかるかもしれないんじゃないですか」

「わからない」

「でも、可能性は」

「帰れた者の記録は少ない」

 エレンは私の言葉を遮った。

 私は息を呑む。

「少ないって……ゼロではないんですか」

「古い記録に、曖昧なものがあるだけだ」

「そんな」

「研究院へ行けば、帰れるとは限らない」

 エレンの声は淡々としていた。

 けれど、どこか必死でもあった。

「だが行けば、しばらく自由はない。調査される。言葉、持ち物、身体、魔力の有無。お前の世界の知識も聞き出される」

 私は無意識にバッグの方を見た。

 スマホ。財布。セミナーの資料。手帳。

 私にとってはただの日用品なのに、この世界の人から見れば、きっと奇妙なものばかりだ。

「危険なんですね」

「危険だ」

 エレンは即答した。

「だから、外へ出るな」

 私は顔を上げた。

 そこに戻るのか、と思った。

 確かに怖い。王都に連れていかれるのは怖い。研究院という場所も、聞いただけで不安になる。

 でも。

「だからって、何も知らないままここにいるのは違います」

 エレンの眉がわずかに寄った。

「ミユウ」

「私を守ろうとしてくれているのは、わかります」

 たぶん。

 少なくとも、その一部は本当なのだと思う。

 エレンは私を森に放置しなかった。水をくれた。食事をくれた。怪我に気づいてくれた。何度も何度も、危ないと言って止めた。

 その全部が嘘だとは思いたくなかった。

「でも、私のことなのに、私が何も決められないのは嫌です」

 そう言うと、エレンは苦しそうに目を伏せた。

「今は、ここにいろ」

「今はって、いつまでですか」

 私は聞いた。

 エレンは答えなかった。

 やっぱり、答えてくれなかった。



     

 それからの日々は、静かに過ぎていった。

 私は屋敷で暮らし続けた。

 何日経ったのか、正確にはわからない。スマホの電池を減らしたくなくて、途中から電源を切るようにした。部屋の机に小さく印をつけて数えていたけれど、途中で数えること自体が怖くなってしまった。

 たぶん、ひと月近く経ったのだと思う。

 私はこの世界の生活に、少しずつ慣れていった。

 水は井戸から汲む。火は魔石という小さな石を使って起こす。夜は灯りを絞ると、屋敷はびっくりするほど暗くなる。文字は読めなかったけれど、エレンが少しずつ教えてくれた。

 アルフェリア王国。

 ルーヴェルディア。

 リーベル。

 グランフェルト伯爵家。

 聞き慣れない単語を、私は紙に書いて覚えた。

 エレンは相変わらず言葉が少なかった。

 けれど、世話は怖いくらい丁寧だった。

 私が朝、少し咳をしただけで薬湯が出てきた。

 食事で苦手そうにした野菜は、次の日から小さく刻まれるようになった。

 夜、寒いと言う前に毛布が一枚増えていた。

 森を散歩したいと言えば、必ず一緒に来た。

 私が少しでも道から外れれば、すぐに手を伸ばした。

「そっちはぬかるんでいる」

「大丈夫です。見えてます」

「足を取られる」

「そんなに子供じゃないです」

「子供でなくても転ぶ」

 いつも、そんな調子だった。

 最初はありがたかった。

 知らない世界で、知らない森で、エレンだけが頼れる人だったから。

 でも日が経つにつれ、私は少しずつ息苦しくなっていった。

 エレンは私を大切に扱ってくれる。

 けれど同時に、私を屋敷の外へ出したがらない。

 リーベルの話をすれば、表情が曇る。

 王都のことを尋ねれば、言葉を濁す。

 研究院について聞けば、黙る。

 私が働きたいと言えば、聞かなかったふりをする。

 私は生きている。

 この世界で、確かに息をしている。

 それなのに、私の世界は屋敷と、その周りの森だけだった。

 朝起きて、エレンの用意した食事を食べる。

 屋敷の中を少し掃除する。

 エレンに文字を教わる。

 森のすぐ近くを散歩する。

 夕食を食べる。

 湯に浸かる。

 眠る。

 穏やかだった。

 とても、穏やかだった。

 だからこそ怖かった。

 このまま何もしなければ、私は本当にここで暮らせてしまう。

 帰りたい気持ちも、外へ出たい気持ちも、少しずつ鈍っていく。

 そのことが、怖かった。

 ある日の午後、私は庭先に干していた布を取り込んでいた。

 庭、と言っても、屋敷の前に少し開けた場所があるだけだ。周りはすぐ森で、木々の向こうに道らしい道は見えない。

 エレンは近くで薪を割っていた。

 斧を振る音が、乾いた空気に響く。普段は静かな人なのに、こういう作業をしている時のエレンは妙に現実感があった。ここで生きている人なのだと思う。

 私は布を畳みながら、何度も言葉を飲み込んだ。

 でも、今日こそ言わなければいけない。

「エレン」

 声をかけると、エレンは斧を下ろした。

「どうした」

「話があります」

 エレンは私を見た。

 たぶん、私の声で何かを察したのだと思う。

 彼の表情が、ほんの少しだけ硬くなった。

 私は布を籠に入れ、両手を握りしめた。

「私、リーベルへ行きたいです」

 風が吹いた。

 森の葉がざわりと音を立てる。

 エレンは何も言わなかった。

 私は続けた。

「町で働ける場所を探したいんです」

「必要ない」

 返事はすぐだった。

「必要あります」

「金なら俺が出す」

「そういうことじゃありません」

 私は首を振った。

「助けてもらったことには、本当に感謝しています。食べるものも、着るものも、寝る場所ももらって、何もできない私に文字まで教えてくれて……エレンがいなかったら、私はたぶん森で倒れてました」

 それは本心だった。

 エレンがいなければ、私は今ここにいないかもしれない。

 だからこそ、ちゃんと言いたかった。

「でも、いつまでもこのままではいられません」

「いられる」

 エレンの声が低くなる。

「ここにいればいい」

 また、その言葉だった。

 胸が苦しくなる。

「私は、エレンに飼われているわけじゃありません」

 言った瞬間、エレンの目が大きく揺れた。

 きつい言い方だったかもしれない。

 でも、撤回はできなかった。

「自分で働いて、自分のことは自分で決めたいんです。この世界で生きていくしかないなら、なおさら」

「リーベルへ行けば、誰かに見られる」

「それは、気をつけます」

「気をつけて済むことじゃない」

「でも、ずっと隠れているわけにはいきません」

「隠れていろ」

 あまりに当然のように言われて、私は言葉を失った。

 エレンは斧を地面に置き、私の方へ歩いてくる。

 私は一歩も動けなかった。

「ここなら安全だ」

「安全でも、自由じゃありません」

「自由など、外へ出て奪われるくらいなら要らない」

「それを決めるのはエレンじゃないです」

 自分の声が震えているのがわかった。

 怖かった。

 エレンは怒鳴っているわけではない。手を上げるわけでもない。けれど、静かな声の奥にある強さが怖かった。

 私は唇を噛んで、もう一度言った。

「私は、ここを出ます」

 エレンが止まった。

 空気が、凍った気がした。

「もちろん、すぐに全部一人でできるとは思ってません。リーベルまでの道もわからないし、文字だってまだ少ししか読めないし、お金もないです。でも、働ける場所を探します。何かできることを見つけます」

 必死に続けた。

「助けてもらったお礼は必ずします。エレンにも、また会いに来ます。ここが嫌いなわけじゃないんです。ただ、私は――」

「また」

 エレンが呟いた。

 それは、とても小さな声だった。

 私は言葉を止めた。

「え?」

「また、来る」

 エレンはゆっくりと繰り返した。

 その顔から、血の気が引いていくのがわかった。

「エレン?」

「また来ると言って、帰ってこなかった」

 低い声だった。

 私に向けられているのに、私ではない誰かに向けられているような声。

 胸の奥がざわついた。

「誰のことですか」

 エレンは答えなかった。

 ただ、私を見ていた。

 その目は、初めて会った日の目に似ていた。

 驚きと、痛みと、何かを失った人の目。

「エレン」

「行くな」

 彼が言った。

「リーベルにも、王都にも、森の外にも行くな」

「そんなの無理です」

「無理じゃない」

「無理です。私は外を知らなきゃいけないし、自分で生きていかなきゃいけない」

「俺が守る」

「守るって、ずっとここに閉じ込めることですか」

 言ってから、息を呑んだ。

 閉じ込める。

 その言葉を、私は初めてはっきり口にした。

 エレンの表情が消える。

 何も映さないような、静かな顔になった。

「……そうしなければ、失う」

「私はいなくなりません。だから、また来るって」

「またはいらない」

 エレンの声が、ひどく硬くなった。

「ここにいろ」

「嫌です」

「ミユウ」

「嫌です。私は行きます」

 私はそう言って、屋敷へ向かって歩き出した。

 荷物をまとめようと思った。

 バッグとスマホと、元の服。それから借りたものは置いていくべきか、でも靴だけは返したら歩けない。そんな現実的なことが頭の中をぐるぐる回った。

 けれど、玄関の扉に手をかける前に、背後から腕を掴まれた。

「痛っ」

 強い力だった。

 振り返ると、エレンがすぐ近くにいた。

「離してください」

「行かせない」

「エレン」

「行かせない」

 同じ言葉を、彼は繰り返した。

 その目が怖かった。

 私を見ているのに、私の向こう側に何かを見ている気がした。

 私は腕を引いた。

「離して!」

 初めて大きな声を出した。

 エレンの手が一瞬だけ緩む。

 私はその隙に腕を抜き、屋敷の中へ駆け込んだ。階段を上がる。借りている部屋へ向かう。扉を開けて、バッグを掴む。

 何を持っていけばいいのかわからなかった。

 でも、とにかく出なければと思った。

 エレンが怖い。

 この屋敷が、急に怖くなった。

 バッグを肩にかけた瞬間、部屋の入口にエレンが立った。

 息ひとつ乱していない。

 私は後ずさった。

「そこを、どいてください」

「駄目だ」

「どいて」

「ミユウ」

「どいて!」

 声が震えた。

 エレンは動かなかった。

「外は危険だ」

「それは私が決めます」

「決めさせない」

 その言葉に、背筋が冷えた。

 エレンは一歩、部屋の中へ入ってくる。

 私はさらに下がった。背中が窓枠に当たる。

「エレン、お願いです。怖いです」

 そう言うと、エレンの顔が苦しげに歪んだ。

 けれど、彼は引かなかった。

「怖がらせたいわけじゃない」

「でも怖いです」

「傷つけたいわけでもない」

「だったら通してください」

「それはできない」

 私の喉が詰まった。

 どうして。

 どうして、こんなことになるのだろう。

 昨日まで、いや、ついさっきまで、エレンは優しかった。過保護で、口数は少なくて、何も教えてくれなくて、でもそれでも、私を守ろうとしてくれているのだと思っていた。

 なのに今は、その優しさの形が、すべて怖い。

「……私に、誰かを重ねているのですか」

 気づいたら、そう聞いていた。

 エレンの動きが止まる。

 心臓が嫌な音を立てた。

 当たっている。

 そう思った。

 初めて会った時の目。

 私を見て、泣きそうになった顔。

 浴室から出た時の、懐かしさに似た痛み。

 何度か、私ではない名前を呼びかけたように見えた唇。

「私は、その誰かに似ているのですか」

 エレンは答えなかった。

「だから助けたんですか」

「違う」

 初めて、強く否定された。

 私はエレンを見つめた。

「じゃあ、誰ですか」

 長い沈黙が落ちた。

 エレンは、今にも壊れそうな顔をしていた。

 やがて、彼は低く言った。

「サリュ」

 知らない名前だった。

「サリュ・オルレイン」

 エレンの声が震える。

「俺の……初恋だった」

 胸の奥が、冷たくなった。

 初恋、だった。

 その言葉の意味を、私は理解したくなかった。

「亡くなった人、ですか」

 エレンは答えなかった。

 けれど、答えないことが答えだった。

 私はバッグの紐を握りしめた。

「私が、その人に似ているから……連れてきたんですか」

 エレンの顔が歪む。

「最初は」

 たった三文字が、胸に刺さった。

 最初は。

 私は息がうまく吸えなかった。

 助けてもらったのだと思っていた。

 もちろん、それも嘘ではないのかもしれない。

 でも私は、見知らぬ森で偶然見つけられた迷子ではなかった。

 エレンにとって私は、失った誰かに似た女だった。

「ひどい」

 声が漏れた。

 エレンの目が揺れる。

「ミユウ」

「私は、その人じゃありません」

 言った瞬間、涙がこぼれた。

 悔しかった。

 怖かった。

 少しだけ信じかけていた分だけ、胸が痛かった。

「私はサリュさんじゃない。エレンの初恋でもない。代わりでもない」

「わかってる」

「わかってるなら、どうして閉じ込めようとするんですか」

 エレンは何も言わなかった。

 私は震える声で続けた。

「優しくしてくれたのは、私をここに置いておくためだったんですか」

「違う」

「何が違うんですか」

「お前を、失いたくない」

 その言葉は、あまりにも静かだった。

 静かなのに、重かった。

「もう二度と、失いたくない」

 エレンはそう言った。

 私は、何も返せなかった。

 その時、エレンがゆっくりと部屋の外へ出た。

 一瞬、通してくれるのかと思った。

 けれど違った。

 扉が閉まる。

 外側で、金属の触れ合う音がした。

 鍵。

 私は弾かれたように扉へ駆け寄り、取っ手を回した。

 開かない。

「エレン!」

 扉を叩いた。

「開けてください! エレン!」

 返事はなかった。

 廊下の向こうで、彼の足音が遠ざかっていく。

「エレン!」

 叫んでも、扉は開かなかった。

 私は取っ手を握ったまま、その場に崩れ落ちた。

 昨日まで、この扉に鍵はかかっていなかった。

 私は何度もそれを確かめて、安心していた。

 でも今は違う。

 開かない。

 どれだけ回しても、押しても、引いても。

 扉は開かなかった。

 私は額を扉に押しつけ、震える息を吐いた。

 この屋敷は、私を守っているのだと思っていた。

 でも違った。

 守られているのと、閉じ込められているのは、こんなにも似ていて、こんなにも違う。

 そして私はようやく、本当に理解した。

 エレン・グランフェルトは、私を助けた。

 水をくれた。食事をくれた。名前を呼んでくれた。怪我を気にして、寒さを気にして、森の危険から守ってくれた。

 けれど彼は、私を自由にはしてくれない。

 私は、彼の失われた初恋に似ていた。

 ただ、それだけの理由で。

 いや。

 きっと、それだけではないのだろう。

 でも今の私には、そんなことはどうでもよかった。

 扉の向こうには、エレンがいる。

 森の外には、知らない世界がある。

 そして私は、そのどちらにも手が届かない部屋の中で、ひとり泣くことしかできなかった。



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