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第四十八話:断罪

王城の地下最下層。

最強の敵を打ち倒し、第一王子を無力化したフェリシアとアルフレッドは、痙攣する王子を引きずりながら上の階層へと足を進めていた。


「アルフレッド様、お父様とセラを結界で守っています。まだ、本調子では無いとは思いますが治療していただけますか?」


「ええ、もちろんです。これが奪われなくて良かった……」


アルフレッドは歩きながら、血塗れたベストのポケットから小さな包みを取り出した。


中に入っていたのは、出立前に仕込んでおいた携帯食――『赫竜の極上ジャーキー』だ。

アルフレッドはそれを数枚口に放り込み、力強く咀嚼する。


桜のチップの燻香と共に、赫竜の暴力的なまでのアミノ酸とカロリーが胃の腑へと落ちる。ネクタルで拡張された魂の器に、莫大な魔力と体力が急速に充填されていくのを感じた。


「……よし。これなら、二人を治せます」


二人がまず到着したのは、地下牢の浅い階層。フェリシアが『バックヤード指定』の結界で守り抜いた、父・ロズウェル男爵の待つ牢屋だった。


フェリシアが結界を解除すると、アルフレッドは即座に倒れている男爵の元へ膝をつく。


「アイリス。俺の魔力を回復に全振りしろ。対象の細胞を強制結合させる」


【……ん。承認。『暴飲暴食の聖域メディカル・カクテル』を展開します】


アルフレッドの手から放たれた温かい魔力の光が、男爵の身体を包み込む。衰弱しきっていた細胞が急速に活力を取り戻し、男爵は深い息を吐いて立ち上がった。


娘とアルフレッドの無事、そして二人が放つ常軌を逸した覇気に驚愕しながらも、男爵は力強く頷いた。


「次はセラですね。……ですがその前に、玉座に向かうための『お土産』を回収しましょう」


フェリシアが、足元で白目を剥いている王子を見下ろして冷たく微笑んだ。


一行が向かったのは、地下牢を抜けた先にある第一王子のプライベートルーム(執務室)だった。


部屋には厳重な魔法の鍵と物理鍵が幾重にも掛けられた隠し金庫があったが、フェリシアがそっと手を触れて「【戸締まりの管理アンロック】」と呟くだけで、給仕長に傅くようにあっさりと開け放たれた。


「……ありましたわ。国庫からの着服を示す裏帳簿。そして……」


フェリシアが分厚い革表紙の『日記』を手に取る。中をパラパラと捲り、彼女の瞳にドス黒い怒りがよぎった。


「妾部屋に集めた女性たちを、どのような陵辱と拷問にかけて殺したか。その克明な記録と、病死と偽って隠蔽した証拠。……悪逆非道の数々、しかと受け取りましたわ」


証拠を確保した一行は、そのまま離宮の妾部屋へと向かった。


結界を解かれ、冷たい石の床に横たわるセラ。アルフレッドは再びメディカル・カクテルを展開し、バキバキに砕けていた彼女の肋骨と内臓の損傷を完璧に修復した。


「……ん……アル、様……? フェリシア、様……?」


セラがゆっくりと薄藍色の瞳を開いた。

目の前で優しく微笑むフェリシアと、無事に生還したアルフレッドの顔を見て、感情の乏しいはずの瞳から、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。


「身体の調子はいかがですか、セラさん」


「私など……どうでも……アル様が、ご無事で……! フェリシア様、王子やあの二人は……?」


「もう片付けましたわ。ごらんの通りです。さあ、立てますか?ゴミ掃除に参りますわよ」


フェリシアが手を差し伸べ、セラを抱き起こす。

フェリシアが視線を向けた先には、神経をショートさせられ、痙攣している第一王子が転がっている。


セラは涙を拭い、いつもの無表情に戻ると、ツカツカと王子に歩み寄った。そして、その豪奢な服の首根っこを、まるで生ゴミの袋でも持つかのように片手でガシッと掴み上げた。


「……出立します」


かくして、誇り高き令嬢、奇跡のバーテンダー、復活した男爵。そして痙攣する第一王子を片手で引きずるメイドという、異様極まりない一行が、玉座の間へと続く王城の大階段を登り始めたのだった。


◇◇◇


玉座の間。


「な、何事だ!? 地下からのあの激震は! 誰ぞ、報告せよ!ディミトリは!?ヨハネスはどうした!?」


玉座に座る国王ルウ・ファリーヌ・ドゥ・ブールは、突如として城全体を揺るがした地震と、王国最高戦力二名の魔力反応が消失したことに酷く狼狽していた。


近衛兵たちが慌ただしく動き回る中――。

バーンッ!! と、玉座の間の重厚な扉が蹴り開けられた。


「な、なんだ貴様らは! 控えよ!!」


近衛兵たちが一斉に槍を構えるが、彼らは次の一瞬で言葉を失った。


堂々と入場してきたのは、牢に捕らえたはずのロズウェル男爵と、異常なまでの気高さと威圧感を放つ令嬢・フェリシア。


そして、その後ろでメイドの少女に首根っこを掴まれ、情けなく引きずられているのは……他でもない、第一王子だったからだ。


「で、殿下ァッ!?」


「ちちうえ……っ! この、ばけものどもを、ころしてくだひぁい……っ!」


神経麻痺で舌が回らない王子が、涙と涎を流しながら命乞いと嘘を並べ立てようとする。


「――お黙りなさい」


フェリシアの凛とした、しかし絶対的な重圧を伴う一言が、玉座の間を凍りつかせた。


彼女は国王に向けて優雅なカーテシー(淑女の礼)を行うと、通る声で言い放った。


「国王陛下。本日は、我が男爵領公認店舗の従業員が受けた不当な扱い、並びに第一王子の数々の悪逆非道につきまして、ご報告に上がりました」


「ロ、ロズウェルの娘よ……! 一体何が起きている! 王子が何をしたと言うのだ!」


「先日、王子殿下が進言された通り、隣領のパンデミックを『黄金の雨』で救ったのは、ここにいる奇跡の料理人、アルフレッド様です。私たちは、その規格外の力が王都の権力闘争に巻き込まれることを危惧し、あえて事実を伏せておりました。報告が遅れた事につきまして、深く謝罪致しますわ」


フェリシアの言葉に、玉座の間にどよめきが走る。


「しかし王子殿下は、その情報を嗅ぎつけ、我が父を背反の罪とでっち上げて打ち首にしようとしました。さらにアルフレッド様を地下へ拉致し、手足を切り落として生きた『霊薬製造機』として永遠に拷問し金儲けのタネにしようと企てたのです」


「なっ……なんだと……!?」


国王の顔色が変わる。


「それだけではございません。王子は自らの妾部屋に集めた女性たちを異常な性癖をもって凌辱の末に殺害し、病死と偽って隠蔽しておりました。さらには国庫からの莫大な着服……全て、この『日記』と『裏帳簿』に記されております」


フェリシアが、王子の部屋から回収した証拠の品を、玉座の階段の下へと放り投げた。


「で、でたらめだ! ちちうえ、こいつらは、くるって……!」


王子が必死に否定しようとするが、アルフレッドが静かに一歩前に出た。


「……アイリス。対象の神経系パルスに『強制興奮(自白)』の波長を追加」


アルフレッドが指をパチンと鳴らした瞬間、王子の脳神経にメディカル・カクテルの残滓が作用した。


「あああああっ! そうだ俺がやった! 女を壊すのは最高だった! 国の金で他国の麻薬も買い漁った! あの化け物料理人の薬を売れば国庫の金なんて簡単に補填できると思ったんだぁぁぁっ!!」


神経を刺激された王子は、自らの口で、隠していた残虐な非道と野望の全てを、玉座の間の全員に向かって泣き叫びながらペラペラと自白してしまったのだ。


「…………ッ!! 貴様という奴はぁぁぁぁっ!!」


決定的な物証と自白。全てを理解した国王ルウは、玉座から立ち上がり、顔を真っ赤にして怒号を上げた。


王は決して暴君ではなく、彼なりに国を想う良識ある為政者だった。だからこそ、実の息子の外道すぎる行いが許せなかった。


「近衛!! その愚か者から王家の紋章を剥ぎ取り、地下牢の最下層へ繋げ! 二度と日の光を見せるな!!」


「は、ははっ!!」


近衛兵たちに引きずられていく王子の絶叫が遠ざかる。


玉座の間には、重い沈黙だけが残された。

やがて。


国王ルウはゆっくりと階段を降りると、男爵、フェリシア、そしてアルフレッドの前で、深く、深く頭を下げた。


「……すまなかった。全ては、余の不徳の致すところ。この国の王として、心から詫びよう。ロズウェル男爵、そなたの疑いは完全に晴れた。この詫びとして、後日、子爵への陞爵と見合うだけの領地を約束しよう」


「ははっ……! 勿体無きお言葉……!」


男爵が涙を流して平伏する。


「そして……奇跡の料理人、アルフレッド殿」


王が、アルフレッドを見つめた。


「そなたが受けた理不尽な苦痛、いかにして報いればよいか。……望むなら、貴族の位を授けよう。王都の一等地に広大な屋敷を与え、一生使い切れないほどの莫大な金も用意する。……どうか、この国の非礼を許してはくれまいか」


最高の栄誉。

田舎のしがないバーテンダーが、一国を揺るがす権力と財産を手にする瞬間だった。


だが。


アルフレッドはいつもの『穏やかなバーテンダースマイル』を浮かべると、きっぱりと首を横に振った。


「お心遣い、感謝いたします。ですが……お断りします」


「な、何故だ! 不服か!?」


「俺は、辺境の酒場のしがないバーテンダーですから。権力も地位も、俺の料理には不要なスパイスです。……バッカス亭という俺の帰るべき場所と、フェリシアやセラ達が笑顔でいてくれれば、それで十分なんです」


アルフレッドの言葉に、フェリシアの頬がほんのりと朱に染まり、セラが誇らしげに胸を張る。


「……ですが、一つだけ。陛下に要求があります」


「な、なんだ。言ってみよ」


アルフレッドは、国王を真っ直ぐに見据えた。

この国の食文化は、あまりにも遅れ、停滞しすぎている。魔法に頼りきり、素材の味を殺すだけの退屈な料理。それを、根底から覆すための最高の舞台が、今ここにある。


「陛下。……この国の食事は、あまりにも退屈すぎます。権力も金も結構です。代わりに……俺に、陛下へ『本物の料理』を振る舞う機会をいただけませんか?」


「なっ……! 余に、料理をだと……?」


「ええ。俺の料理を食べて、もし『美味い』と感じていただけたなら……今後一切、俺たちバッカス亭の営業に、王都の人間が干渉しないという『不可侵の権利』をお約束いただきたい」


王都の常識を蹂躙し、己の居場所を男爵、伯爵だけでは飽き足らずより完全なものにするための、奇跡の料理人からの逆提案。


国王ルウ・ファリーヌ・ドゥ・ブールは、その不敵な笑みに呑まれるように、ゆっくりと頷いたのだった。


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