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閑話:???その二

おまけのボーナス更新閑話です。

世界の果てか、あるいはその中心か。

時間も空間も曖昧なある場所で、中年の男が腹を抱えて大爆笑していた。


「だーっはっはっはっは!! ひーっ、腹が痛ぇ! なんだあの出鱈目な展開は!」


男はドスンドスンと手元のテーブルを叩きながら、歓喜の涙を指で拭う。


その手には、よく冷えた琥珀色の酒が入ったグラスが握りしめられていた。


表向きは、どこにでもいそうな中年の男だ。しかしその本質は、この世界を遥か高みから見下ろし、ことわりを紡ぐ『主神』そのものであった。


神の視線の先――空間に浮かぶ観測の窓には、下界のフォンテーヌ伯爵領で起きた一連の騒動が映し出されている。


「高位神官どもの『奇跡(治癒魔法)』がまるで役に立たねぇ死の病を、ただの青カビから抽出した粉で一掃しやがった! おまけに、俺が与えた能力で空気を圧縮して『絶対零度の水』を作り出しちまうとはな!」


神はグラスの酒をグイッと煽り、面白くてたまらないといった様子でニヤリと笑う。


魔法に依存しきって停滞したこの世界の食文化を引っ掻き回してほしくて、わざわざ異世界『地球』から失敬してきた、食と化学に執着する魂。


彼に『暴飲暴食の聖域メディカル・カクテル』というスキルを与えて盤上に落とし込んだのはこの神自身だが、その結果は神の想像を遥かに超えるエンターテインメントを生み出していた。


「神の奇跡より、科学と料理の魔法、か。とんでもねぇ規格外が育っちまったもんだ。……それに」


神は、観測の窓に映る純白の幼女を見つめ、呆れたように目を細めた。


「あの『アイリス』とかいうシステムだ。前に見た時、勝手に俺の力を吸って『魂』を持とうとしてやがるなとは思ってたが……まさか本当に実体化しやがるとはな」


元々は、あいつのスキルを補助するために、この世界システムから一部の演算領域を切り取って貸し与えただけの『無機質な声』だったはずだ。


「しかし、なんだあの猫みてぇな甘えっぷりは! ただの演算プログラムの分際で、いっちょ前に『自我』を確立しやがって。あいつ(アルフレッド)の異常な魔力には、無機物にすら命を吹き込む特異性でもあるってのか?」


神は愉快そうに肩を揺らし、グラスにほのかに輝く新しい酒を注ぐ。


そして、その視線はアルフレッドの両脇を固める二人の少女――セラとフェリシアへと移った。


「……そして、あの小娘たちもだ」


世界の理を管理する男の目には、ただの物理的な肉体ではなく、彼女たちの魂に刻まれた『情報』が視えていた。


「以前、あいつらが死の淵から救われた時……この世界のシステムに強く刻み込まれた、あいつらの『祈り』と『覚悟』。……それが、いよいよ本格的に芽吹き始めてやがる」


アルフレッドにすべてを捧げ、厨房という聖域で限界まで彼を支えようとするセラ。


アルフレッドを外敵から守り抜き、彼の立つ舞台を整えようとするフェリシア。


「この世界の人間の『器(レベル上限)』ってのは、生まれつき決まってるもんだ。だが、あいつらはアルフレッドという特異点に引っ張られるように、自らの魂の器をブチ壊して限界を突破しようとしてるじゃねぇか」


神は手に持つほのかに輝く酒が入ったグラスを眺めながら思案した。

強すぎる思いは、時に世界の理すらも捻じ曲げる。

ただのメイドと、ただの病弱だった貴族の令嬢が、この先どれほどの『進化』を遂げ、アルフレッドの隣に立つにふさわしい存在へと化けていくのかそれとも…


「退屈な箱庭を、たった一本のシェイカーでガンガンかき混ぜてみせやがる」


神はニヤリと笑い、絶妙な塩加減で燻製されたナッツを口に放り込んだ。

これほどまでに、下界の観測が最高の『酒の肴』になったことは、彼がこの世界を管理し始めてから初めてのことだ。


「いいぞ、もっとやれ。お前たちの創り出す奇跡で、俺をさらに酔わせてみせろ」


この世界の管理者【酒神】は、遥か下界にいる一人のバーテンダーへ向けて、楽しげにグラスを掲げた。


「このバーテンダーの生き様……まだまだ、最高に面白くなりそうだぜ」

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