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第二十二話:触れる者

本日複数話投稿二話目

宿の最上階、ロイヤル・スイートの巨大なベッドの上。


明日からの激務を前に、俺の理性と体力は別の意味で限界を迎えようとしていた。


「え? ちょ、ちょっと待って。二人とも、なんでそんなに息がピッタリ……って、うわっ!?」


逃げる間もなく、二人の柔らかく温かい手が俺の背中と肩に触れる。俺は抗う間もなく、ふかふかのベッドにうつ伏せに押し倒された。


「アルフレッド様、お力をお抜きくださいませ。……まずは、この煩わしいお洋服を脱いでいただきましょう」


フェリシア様の、全てを包み込むような圧倒的な母性を感じさせる甘い声。だが、その声とは裏腹に、彼女の手は一切の迷いなく俺の上衣へと伸び、有無を言わさぬ力でそれを引き裂くように剥ぎ取った。


「なっ……!? フェリシア様、いくらなんでも強引すぎ……うわっ、セラまで!?」


抵抗しようとした俺の腕を、セラが真顔のまま、限界まで尽くそうとする献身を込めて押さえつける。彼女の細い指先によって、俺のズボンもあっという間に足元へと滑り落ちた。


「……アル様。治療の基本は、患部を露出させることです。……我慢してください」


(いや、これ治療じゃなくてマッサージだろ! 露出しすぎだろ!)


現代日本で独身バーテンダーをこじらせていた俺にとって、この状況は劇毒に等しい。


俺の背中に、セラがマッサージオイルを垂らした。トロリとした液体の感触が肌に広がる。フェリシア様が俺の腰から脚にかけてを、セラが肩から背中にかけてを担当するらしい。二人の手が、オイルを馴染ませながら俺の筋肉をゆっくりと揉みほぐし始めた。


「くっ……」


思わず変な声が漏れそうになるのを、必死で奥歯を噛んで耐える。


二人のマッサージは、素人とは思えないほど極上だった。


「アル様。肩甲骨の周りが、ひどく張っています。……ここですね」


セラの指先は、厨房で食材のミリ単位の繊維を見極める時と同じく、俺の筋肉のコリを正確に捉え、絶妙な力加減で解きほぐしていく。普段は真顔な彼女だが、今は俺の背中に触れるその所作一つ一つに、隠しきれない熱と献身がこもっていた。


しかも、だ。俺の背中に身を乗り出してマッサージをするたび、セラの豊かな双丘——細いウエストからは想像もつかない、柔らかくも確かな重みが、俺の肩や背中に柔らかな圧をかけてくるのだ。


「うふふ……アルフレッド様、脚の具合はいかがですか?」


一方で、フェリシア様の手つきはセラのような精密さとは違い、ただひたすらに優しく、全身を大きな揺り籠で包み込むような安心感があった。だが、その『安心感』の正体もまた、俺の理性をゴリゴリと削り取っていた。

彼女の溌剌とした長身が支える、規格外の豊満さが、俺の足に、腰に、容赦なくその柔らかな重みを押し付けてくる。絹のドレス越しに伝わる、母性という名の暴力。貴族の令嬢らしい上品な花の香りが、マッサージオイルの香りと混ざり合って脳髄を直接揺さぶってくる。


(アイリス! 助けてくれ! このままじゃ俺の理性が『決壊』する!)


俺はたまらず、脳内の頼れる相棒にSOSを出した。


【警告:マスターのバイタルデータの異常上昇を検知。交感神経が過度に優位な状態です。……原因特定中:『物理的・官能的刺激による過度な興奮』】


(原因なんか分かっとるわい! だから何とかしてくれ!)


【承認。これより、マスターの生命を保護するため、物理的介入による『強制遮断パージ』を実行します】


(…は?何を実行するって??)

アイリスの無機質な音声が、いつもとは違う警告音を鳴らした直後だった。


『――ピィン』


部屋の空気が、一瞬だけピタリと止まった。俺の背中の上で、青白く、そして燐光を放つ透き通った『光の粒子』が急速に収束し始めたのだ。


「え……?」


「アルフレッド様、背中が光って……っ!?」


フェリシア様とセラが驚いて手を離した瞬間。


俺と二人の間に、膨大な魔力の塊が実体を持った『存在』として顕現した。


そこに立っていたのは、一人の小さな、幼い少女だった。


雪のように白い髪に、磁器のように白い肌。そしてどこか無機質な、薄紅色の瞳。見た目の年齢は7、8歳といったところか。身長は120センチほどで、俺の胸元にも届かない。

彼女が纏っているのは、白を基調とした、未来的で洗練されたデザインのワンピース。しかし、その白は、清廉なアイリスの花弁そのものだった。

ワンピースの裾回りには、鮮やかな紫と、中心に向かって広がる黄色のグラデーションが、まるで本物のアイリスの花が咲き誇っているかのように、精緻な刺繍とホログラム的な光沢をもって描かれている。未来的でありながら、同時に可憐な花の妖精のようでもあった。


「アイリス……なのか…?」


俺が呆然と呟くと、白髪の幼女――アイリスは、感情を宿さない瞳でじっと俺を見つめ、コクンと小さく頷いた。


「……ん。同期完了。」


その声は無機質なものだったが、見た目どおりの幼い声でギャップが凄まじい。


「あ、アル様……このお子様は……?」


セラが困惑したように手を下ろす。フェリシア様も目を丸くして俺とアイリスを交互に見ている。


「えっと、二人とも落ち着いて聞いてくれ。彼女はアイリス。……俺の、その、固有魔法みたいなものが実体を持った姿なんだ。怪しい奴じゃない」


「魔法の実体化……? アルフレッド様の?」


フェリシア様が瞬きを繰り返す。


「はい。私はマスターの生命と健康を管理・サポートする存在です。……お二人とも、マスターへの過度な『接触』は控えていただきますよう要請します」


アイリスが脳内に語りかけるのと同じ口調で淡々と、しかし絶対の拒絶を持って二人に告げる。


「えっ……でも、私たちはアルフレッド様の疲れを癒やそうと……」


「……理性崩壊リスクが許容値をオーバー。直ちに睡眠をとることを推奨します」


有無を言わさぬアイリスの言葉に、俺は心底ホッとしていた。


(ありがとうアイリス。お前がいなかったら、俺は今頃どうにかなっていた……)


だが、安堵したのも束の間だった。


アイリスは無表情のまま、トコトコとベッドの上に乗り込み、俺の隣へコロンと潜り込んできたのだ。


「……マスター。バイタル同調を実行。」


「……はい?」「……え?」「……は?」


俺、セラ、フェリシア様の三人の声が見事に重なる。


(アイリス!? お前、接触制限って言ったばかりだろ!?)


「医療行為および、システム管理の一環。」


アイリスは無表情のまま、俺の腕にスリスリと頬を擦り寄せ、俺の身体にぴったりと密着してきた。人肌の温かさまで完璧に再現されている。


さらに、アイリスはそのまま、俺の心臓の上に、まるでお気に入りの寝床を見つけた猫のように、体を丸めて収まったのだ。小さな、アルビノの幼女が、俺の胸でスヤスヤと寝息を立てる。その無垢な愛らしさに、俺の心拍数は、別のベクトルで、限界を突破した。


(アイリス……お前、システム的な口調は冷徹なのに、行動が猫なのは反則だろ!)


俺が胸元の幼女にタジタジになっていると、ベッドの脇で静かに固まっていた二人から、ゴゴゴ……と得体の知れないオーラが立ち上り始めた。


「……アルフレッド様? そちらの……アイリスさんは、医療行為だから添い寝が必要、とおっしゃいましたのね?」


フェリシア様が、今まで見たことのないほどの「満面の、しかし目が全く笑っていない笑顔」を浮かべている。彼女の溌剌とした母性が、嫉妬の炎を燃料に、より強く燃え上がっている。


「……アル様。私では、アル様のサポートが不足していたということでしょうか。……悔しいです」


セラが、クールな仮面の下で明らかに嫉妬の炎を燃やしている。彼女の献身が、小さなライバルの出現に揺らいでいた。


「違う! 二人とも誤解だ! こいつはただの固有魔法で、俺の健康を守るためだけで……!」


俺の必死の弁明も虚しく、

「アイリスさんが添い寝されるなら、私も反対側から温めさせていただきますわ! 案内役として、彼を甘やかすのは私の特権ですもの!」


「……私も、足元からアル様の体温管理を実行します。右腕として、彼を支え続けるために」


「うわああぁぁっ!?」


結局その夜、俺はフェリシア様とセラの極上の匂いと柔らかさ、そして実体化したシステム幼女アイリスという、三方向からの極悪な、しかし最高に幸せな「包囲網」に挟み込まれることになった。


……極上の匂いと柔らかさと愛らしさに包まれながら、俺は一睡もできないまま、フォンテーヌ伯爵領の初めての夜を明かすのだった。


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