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閑話:男爵と伯爵

ロズウェル男爵領に隣接する、自然豊かなフォンテーヌ伯爵領。


その領主の居城にある見晴らしの良いテラスで、二人の貴族が上質なワインのグラスを傾けていた。眼下には、男爵領へと続く豊かで美しい清流が太陽の光を反射してきらきらと輝いている。


「ははは、いやあ、ロズウェル殿。今日の君はいつにも増して顔色がいいね。一時期は心労で倒れるんじゃないかと心配していたんだが……フェリシア嬢が快方に向かったという噂は、本当だったんだね」


優しげな目元が印象的な、中肉中背の穏やかな男――フォンテーヌ伯爵が、心からの安堵を込めて笑う。


彼の治める領地はこの清流の水源であり、極上の水と豊かな土壌、そしてそこから生み出される素晴らしい食材に恵まれた土地だ。領民想いで温厚な名君である伯爵と男爵は、領地を接する長年の良き友でもあった。


「快方どころではありませんぞ、フォンテーヌ伯爵。我が愛娘は今や、病に伏せる前よりも美しく、生命力に満ち溢れております。先日も娘と共に食事に出かけたのですが、出されたコース料理をペロリと平らげて見せましてな!」


男爵の親馬鹿全開の惚気を聞いて、伯爵は目を丸くした。


「ほう! あの固形物すら喉を通らなかったフェリシア嬢が、コース料理を? 一体、王都のどの高位神官を呼んだんだい? いや、よほど腕の立つ魔法医かな……」


「それが……神官でも魔法医でもありません。ある一人の、天才的な『料理人』の功績なのです」


「……料理人、かい?」


美食の街とも言える豊かな領地を治める伯爵にとって、それは俄かには信じがたい言葉だった。


だが、男爵の目は真剣そのものであり、思い出すだけで涎が出そうだとでも言うように熱を帯びていた。


「ええ。彼の料理はただ美味いだけではない。生命そのものを直接叩き起こすような、まさに奇跡の味! 先日いただいたフルコースも……思い出すだけで胸が高鳴る。我が領地で採れた平凡な食材が、彼の魔法のような手腕で、王宮の晩餐すら霞む至高の一皿に化けるのです。私は彼の店を公認とし、商会の立ち上げまで支援したほどですよ」


男爵の熱烈な語り口に、自身も美食家である伯爵の目が次第に強い興味の光を帯びていく。


「……そこまで言われると、私も一度味わってみたくなるね。水と食材の質なら私の領地も決して負けてはいないつもりだが、それをそこまで昇華させる腕を持つ者がいるとは驚きだよ」


伯爵は少し身を乗り出し、あごひげを撫でた。


「実は近々、愛娘のサラの七歳の生誕祭を城で開く予定なんだ。ロズウェル殿も知っての通り、あの子は我が領地の豊かな食材に囲まれて育ったせいか、食べるのも料理を見るのも大好きでね。幼いながらに、いつも厨房に入り浸っては料理人たちの真似事をして笑っている、本当に可愛い子でね」


今度は伯爵の顔が、とろけるような親馬鹿のそれに変わる。


「その生誕祭に、最高の料理人を呼んでやりたいと考えていたところなんだよ。サラもきっと喜ぶだろうからね」


「おお、それは素晴らしい! 彼の腕ならば、間違いなくサラ嬢を、いや、生誕祭に集まるすべての貴族たちを満足させられると保証しますぞ!」


「うむ、決めたよ。今度お忍びで、その『バッカス亭』とやらに行ってみようじゃないか。私の舌で直接、その奇跡の味とやらを確かめさせてもらうとしよう」


親友の太鼓判と、愛娘の笑顔を思い浮かべながら、フォンテーヌ伯爵は愉快そうにワインを飲み干した。


さて物語が動き始めそうです。


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