生きてた日
ナギとアーチは、朝食を食べにテントに入った。
交代制とはいえ、大人数が朝食を食べていた。
細長いテーブルの端に、ガビとゴビがエプロンを着け待っていた。
「なぁ、本当に俺もいいのか?」
アーチは、昨日から何度目かの質問をした。
「あいつらもいいって言ってんだから、気にするなよ。」
ナギが辟易しながら椅子に座る。
「向こうでみんなと同じもん食ったほうが旨いかもしれねぇし、お前の坊っちゃん舌が心配だよ、俺は。」
ナギは、スプーンを振りながらアーチに座るよう則す。
「坊っちゃん、坊っちゃんって、俺は、いつもみんなと同じもん食ってるよ!」
「可哀想に。バカ舌になっちまったか。」
ナギは、昨日とうって変わって楽しそうに見えた。
アーチは、とりあえず自分の杞憂なのかもしれないと思った。
「すまない。遅くなった。」
アーチは、急いで立ち上がった。
「構わん。座れ。」
ヴァルの言葉で、今度は慌てて座った。
アーチは、まさかヴァルが来るとは思ってなかったので、不思議そうにヴァルを見ていた。
「何驚いてんだよ。旦那だって飯ぐらい食うぜ!」
ナギがゲラゲラと笑う。
「そんなの分かってるさ。」
アーチは、赤くなりながら、またヴァルを盗み見た。
常に国王陛下の側にいるヴァルしか見たことがなかったので、なんとも不思議な感じがした。
「さぁ、さぁ、ゴビのスペシャルスープでさぁ。」
ゴビが、給仕を始めた。
野菜スープのようだ。
「何がスペシャルだよ。いつもと同じ野菜たっぷりスープだろ。」
ナギが横やりを入れる。
「うん。旨いよ。」
ヴァルの一言で、ゴビが嬉しそうに笑った。
ガビも、では自分もと肉の乗った皿を出していく。
「うん。旨い。」
肉を食べたアーチが思わず呟いた。
「ガビは、料理が得意だぜ。」
ナギの一言で、ガビも嬉しそうに笑った。
「スープも美味しいよ。」
アーチは、素直にゴビに伝えた。
「ゴビは、このスープしか作れねぇけどな。」
また、ナギが一言余計なことを加える。
「一つでも、凄いよ。俺は作れないから。」
「坊っちゃんだからな。」
「うるさい。」
アーチは、家柄もあってか、料理をしたことがなかった。
夜営も、もっぱら携帯食ばかりで、常にナギが温かい物を作った。
ナギも料理が得意だった。
アーチは、生きてた日の意味をナギに聞いたがはぐらかされた。
「そのまんま、生きてた日をお祝いしてるだけさ。ガビとゴビが。」
あくまで、ガビとゴビが勝手にやっていることらしい。
しかし、軍師殿も来るならもっと意味があるんじゃないかと思えたが、どうにも、気安く軍師殿に聞けなかった。
ガビとゴビは、まるで一流シェフのように、食材や料理の仕方を語り、ナギが横やりを入れる。
軍師殿は、食事をしながらちゃんと聞いているようだった。
アーチはまた様子を盗み見ていた。
軍師殿は、リメルナの傭兵上がりと聞いていたが、もしかしたら良い家柄の人なのかもとなんとなく思った。
なんとなくだが。
「旨かった。今日は、招待ありがとう。」
ヴァルが、ガビとゴビに握手を求めて立ち上がった。
「これから会議に出る。時間が無くて悪かった。」
ガビとゴビは、それでも嬉しそうにヴァルに、また来年と伝えていた。
ガビとゴビは、いつも穏やかだ。
今は、戦いの最中なのに、緊張感が感じられない。
楽観過ぎだ。
二人には、これからの戦いの行方が見えているのだろうか。
また、来年か。
アーチは、ゆっくりとスープを口にした。
会議のため、中央のテントに人が集まり始めた。
「皆も、すでに推測しているだろうが、キッセンベリ前まで行けば、戦う相手は数人の魔術師とほぼ異形だろう。布陣を変えるつもりは無いが、数人の配置を変える。」
グレアムは、無表情に淡々と話す。
異論が出たのは一点だけだったが、本人の強い意志で臣下を抑えた。
キャスは、初めてリメルナの面々をじっくり見た。
凄いな、お尋ね者だらけだ。
さぞ、東に引き渡せば金になるな。
キャスは、つまらない金勘定をした。
キャスは仕事上、こっそり東を回り探りを入れたことがある。
お尋ね者として、キャスのもとに手配書が届いていたが、実際東側を巡ると、犯罪者などではなく、やってもいない罪状をつけて追っている。要は、どうしても殺しておきたいので、探しているのだ。
しかし、驚いたのはもう一人、古い手配書だから気がつかなかったが、さっきちらっと見えた右手の火傷、手配書の年齢を考えると間違いない。
子供の手配書なんて珍しかったので、すぐに調べた覚えがある。
国王につく者と弟を国王にしようとする者達で国が荒れ、激しい内乱となったランファート国。
国王は、弟とその家族、臣下、一族郎党を皆殺しにした。
その中で、弟の子供、一人息子のシャールを見つけることが出来なかった。
手配書の子供は、8才でありながら、睨むような面構えで描かれていた。
ランファート国は、いまだに国が安定せず、国王への反発が強い。
シャールが生きていれば、また、国王派との内乱が始まるだろう。
今は、大人になり国王を支えている。
どんな気持ちだろうか。
自分も国王になったかもしれないのに。
キャスは、男をじっと見た。
コッツウォートの若き国王の後ろに立つ男。
生きてた子供は、軍師となって国王の後ろに立っていた。




