テオグラートとリリアーナ
第2グループの禁術の解除を終えると、少し疲れたように、ベリンガーはソファに腰掛けた。
「先生、疲れているところ悪いけど、お願いがあるんだ。」
ベリンガーの横に、テオグラートは腰掛けた。
すでに、アディ達は、自室で休んでおり、今度は、キリウェル達がマットレスの上で苦しんでいた。
キリウェルは、苦しみながらも、剣を掴んでいた。魔術師のベリンガーが相手では、分が悪いのは分かっていたが、万が一でも、テオグラートに何かあれば、刺し違えても向かうつもりだった。
テオグラートは、ベリンガーと話しを終えて、キリウェルの元に座り込む。
「キリウェル、力を抜いて。僕は、大丈夫だよ。苦しいだろうけど、少しだけでもゆっくり休んで。また、倒れたら困るよ。僕を守ってくれるんだよね。」
テオグラートは、キリウェルの腕を擦った。
「…はい。申し訳ございません。」
キリウェルは、渋々従った。
テオグラートは、ベリンガーと大将にこの場を頼んだ。
テオグラートは、リリアーナと会うため、王宮を訪れた。
テーブルには、クッキーと紅茶が置かれた。
「ありがとう。」
テオグラートは、侍女に声をかけた。
位の高い人に、話しかけられることのない、侍女は少し驚いたが、微笑むと一礼した。
「こちらは、コッツウォートのテオグラート王子よ。」
リリアーナが、侍女に紹介する。
侍女は、リリアーナが、戻ってきてから大きく変わったことを驚き、喜んでいた。
今までは、お人形のように、喜怒哀楽がなかったし、侍女に話しかけるなどしたことがなかったのに、今は、挨拶やねぎらいの言葉まで侍女にできる成長を見せていた。
「はい。存じております。お久しぶりでございます。前にお会いしたときより、随分とご成長され、ご立派におなりです。」
侍女にもう一度一礼された。
「ありがとう。」
6才の時に来た話しだろうと思い、テオグラートは、少し照れくさそうに礼を述べた。
「私は会えなかったのね。」
リリアーナは、残念そうに呟いた。
「エリーなど、リリアーナ様の将来の旦那さまが来たと大はしゃぎで、お顔を見に行かれまして、侍女の間では、当時は大変な騒ぎでした。」
当時は、まだリリアーナの嫁ぎ先は決まっていなかったので、侍女達が勝手に騒いでいた。
侍女は、懐かしむように微笑んだ。
エリーという侍女は、コッツウォートで最後までリリアーナを守った娘だった。
リリアーナは、フレールに帰り着いてすぐに、エリーの名前を教えてもらった。
テオグラートもエリーの説明を受けた。
「それであの時、僕のことを知っているようだったんですね。」
テオグラートも、侍女のことを思い出した。
「リリアーナを頼みますと言われました。無事に約束を果たすことが出来て良かった。」
テオグラートは、悲しげに微笑んだ。
「はい。エリーも喜んでいると思います。…あら、失礼しました。せっかくのお二人の時間をお邪魔しました。」
侍女は、一礼して部屋を出た。
「このクッキーは、違うけれど、今、クッキーを作る練習をしているのよ。ニーナに教えてもらったレシピで。それと料理も教えてもらっているの。みんな、私が、調理場に入ることを大反対なの。別に大したことではないのにね。」
リリアーナは、微笑んだ。
「今度、リリアーナのクッキーを食べたいな。」
テオグラートも微笑んだ。
「あら、すべてテオに食べてもらうために練習しているのよ。二人で暮らす時に困らないようにね。」
リリアーナは、今度は、寂しげに微笑んだ。
「ありがとう。楽しみだよ。」
テオグラートは、リリアーナが言っている意図を組んで答えた。
二人とも、今の状況を考えて、二人の色々な未来を想像していた。悲しいことは考えずに。
リリアーナは、このまま二人で逃げたかった。
リリアーナの頬を涙が流れていく。
テオグラートは、立ち上がり、リリアーナの頬に手を添えて、親指で涙を拭うと両手でリリアーナの顔を優しく包んでキスをした。
「絶対私のところに戻ってね。絶対よ!」
テオグラートは、悲しげに微笑えみ。
もう一度、リリアーナにキスをした。
王宮を出る時、テオグラートは王宮を振り返った。
握りしめていた手のひらを広げると、リリアーナからもらったお守りがあった。
エメラルで、見せてくれた小さな赤い石が嵌め込まれた指輪だ。
「私の大切な人に渡すの。」
あの時のリリアーナの言葉が思い出された。
人に渡すお守り。
今なら、理解出来た。
テオグラートは、指輪につながれた鎖に千切れないように魔術をかけた。
戦場で無くしたくなかった。
リリアーナとの別れは終わった。
テオグラートには、もうひとつ難関があった。
クラウス王子とキャスには、説明して説得した。
大きく息を吐く。
「さあ、戻るか。」
テオグラートは、キャスの家に戻った。




