今を生きるために
ベリンガーは、ここまで話すと大きく息を吐き、テオグラートを見た。
「国王との謁見の後、キアラの両親に会えたよ。
キアラの死を伝えた時は、二人とも悲しみで動けない状態だったが、テオの話しをしたらようやくサンゼベリアを出ることを承諾してくれた。今、私の妹と一緒に、リメルナにいるよ。孫に、とても会いたがっていた。」
ベリンガーは、テオグラートに優しく微笑んだ。
ベリンガーは、話しを続けた。
「ここからは、人伝えが多いが、だいたいのところはこうだ。」
ベリンガーは、急ぎサンゼベリアを出て、エメラルでジャイルに会った。
ミムとジャイルは、今は、エメラルに住むミム達の母親、アイーシャに西の近況を伝え、西から逃げて来る人びとの保護を訴えた。
その後、ミムは、他国を回り同様のお願いをしてまわった。
それぞれ厳しい状況のなか、受け入れを承諾してくれた。皆、西の不穏な状況を知っていたのだ。
半年は、サンゼベリアの王子達も我慢出来ていた。
この均衡を保っている間に、ミムは、もう一度、キッセンベリへ和平を結ぶため、向かった。
ミムは、リメルナから送った和平交渉の文を携えた使者が戻らないことで、キッセンベリに向かうことになった。
だが、ミムが向かうことに、当然反対意見が出た。
だが、キッセンベリから、和平交渉なら国王、または王子を寄越すべきではないかと、文が届いていた。
書には、グレアムが名指しされていたが、ミムが頑なに、自分が向かうと言い張り、グレアムが根負けした。
ミムは、止められる前にと、また単独で出発してしまった。
キッセンベリに向かう途中、ミムは、小さな村で孤児の少年を拾った。
村の外れの林に、1人で暮らしていた。
少年は、ひどく痩せていて満足に生活が出来ていないようで、村でも援助してくれる者もいない状況だった。
少年は、久しぶりに人と話すのが嬉しいのか、ミムに慣ついてしまった。
キッセンベリに向かうことを考えたら、連れて行くのを躊躇ったが、結局、従者とした。
これが、ミムにとっては大きな分岐点となった。
ミムは、途中、キッセンベリの刺客に襲われ死にかけたが、少年が居たことで魔術師である医師の元に運ばれ、命拾いした。
ミムは、重症を負ったがそれでもキッセンベリに向かい、若き国王に会った。
グレアムが解せない奴だと言っていたが、この旅で、ミムにとって、キッセンベリの若き国王は、もっとも赦せない者となった。
若き国王は、和平交渉と言いながら、すでに和平など考えていなかった。
キッセンベリの城で働く者、町の者も、気候すらも、不穏な様相で、酷く不気味だった。
ミムは、キッセンベリの民たちに話しかけ、会話を試みようとしたが、まるで人が人では無いようだった。
怯えた状態になったかと思うと、無気力な状態になり、遠くを見るようにその場を去ってしまう。とても話せる状況ではなかった。
リメルナの使者は、すでに殺されていた。
ミムは、寸でのところで、キッセンベリを脱出出来た。
この時も、従者に助けられた。
この時以降、ミムは、単独行動をしなくなった。必ず、従者であるこの少年を伴った。
ミムにとって、この従者が自分にとって幸運をもたらすと考えたようだった。
ミムは、キッセンベリから立ち寄れるすべての国へ行き、
「最早、和平は叶わない」
と伝えて回った。
ミム達は、西側の諸国の民が、生きるために、リメルナを含めた近隣の各国を回った。
この後、キッセンベリとサンゼベリアは、戦いとなった。
サンゼベリアは、一度キッセンベリを下したが、若き国王と魔術師を殺し損ね、籠城させてしまった。
これが、最悪な状況を生み出した。
「この時、若き国王は、人間ではなくなったのかも知れない。
ただの破壊者となり、隣には、残念ながら最悪な魔術師しかいなかった。だれか、彼を支える者がいれば良かっただろうに。」
ベリンガーは、深く息を吐いた。
「俺は、奴に同情しないね。」
アディがマットレスに仰向けになりながら、呟く。
「苦しい状況でだって、真っ当に頑張っている奴を俺はいっぱい知ってる!」
アディは、悔しそうに天井を見ている。
「知っての通り、サンゼベリアと西の諸国は、籠城していたキッセンベリを攻めたが、戦いに敗れた。魔術と異形によって壊滅状態だ。どうやって異形を呼び出したのか、どうすれば異形を壊滅出来るのか。私はリメルナに行き、もう一度情報と対策を考えなければならないと考えている。今、戦いの指揮は、リメルナが中心になるしかない。幸いにもリメルナには、魔術師が多くいる。何としても、キッセンベリの若き国王と魔術師を止めなければ、人びとは、異形に殺されるしかない。」
ベリンガーは、すぐにでもリメルナに向かおうとしていた。




