2年前 テオグラート
***2年前 ***
「母上!王宮に行って参ります。」
テオグラートが、母キアラに挨拶をしに来た。
「王宮へ!なぜ!」
キアラ妃は驚いたように、テオグラートに駆け寄る。
「母上?定例の報告会議ですよ。」
テオグラートは、優しく話す。
「あぁ、ごめんなさい。そうだったわね。」
最近、母上が上の空で色々なことを忘れているようだ。
「母上、どこか体調が優れないのですか?お医者様を呼びましょうか?」
「いいえ、大丈夫よ。心配させてしまったわね。」
キアラは、優しくテオグラートの頬にキスをする。
「そういえば、キリウェル、お花をありがとう。貴方にも心配をさせていたのね。」
「いえ。我が家の花ですので、気分転換にと。」
キリウェルは、頭をたれる。
テオグラートは、母の頬に優しくキスする。
「行って参ります。」
「キリウェル、テオグラートを頼みます。」
テオグラートは、キリウェルと一緒に部屋を出た。
「最近、母上はなんだか落ち着かないな。心配ごとでもあるのかな。」
「私も心配です。私には、ベリンガーが何か吹き込んでいるのではないかと。」
「先生が?」
テオグラートは、先生に限ってそんなことは無いだろと思ったが、別の噂が耳に入っていたので、いつかは聞かなければならない事があった。
ありえない噂で、子供としてはとても聞きづらいが、万が一王宮にまで噂が上れば、父上が動きだしかねない。
そうなれば、母上も先生も庇いきれない。
「はぁ~。」
テオグラートは、ため息をついた。
「テオグラート様?」
「ううん、何でもない。王宮へ急ごう。」
キリウェルは、噂を知っているのかな?こういった話しはアディやサミーのほうが話しやすいな。大将の他にアディかサミーが来ていると良いけど。
「いない。」
「誰がですか?」
外で待っていた大将が、不思議そうに見る。
「色恋沙汰に詳しそうな人。」
テオグラートは、小声で呟く。
「アディやサミーなら、警護で、エメラルに行くよう 殿下 がご命令されましたよ。」
「そうだった。」
大将が楽しそうに、かが見込んでテオグラートを覗き混む。
「殿下、どこぞの娘ですかな?」
「僕じゃないよ!」
大将がまったく見当違いなことを言ってくる。
とにかくテオグラートは、王宮に向かうことにした。
王宮での会議や家族の軽いお茶会もつつがなく終わり、テオグラートは、自分の所領に戻ろうとしていた。
「テオグラート。おいで。」
第一王子のエドモントに、声をかけられる。
キリウェル達を待たせて、兄について行くと、兄は客を待たせる控えの間に入り、ソファに腰かけ足を組むと、ソファを軽く叩き、ここへ座るようそくされる。
「11才のお前にこんな話しはどうかと思うが、お前の母親の話しだから単刀直入に話すぞ。」
14才年上の兄に、母親のことと言われテオグラートは緊張した。
「お前の母親が、誰かと浮気をしていると噂を聞いた。まぁ、町の女、あ~、いや、町の庶民の下世話な噂話だ。」
兄はあたふたとしながら、話しを進める。
エドモントは、貴族の女だけでは飽き足らず、庶民にまで手を出し始めていた。
「いいか、例え嘘の噂だとしても、王室の権威がある。父上に知れたら例え真実で無くとも相手の男は、何らかの罪を被せられ死刑にされ、お前の母親もただではすまん。早いうちに手を打て。いいな。」
エドモントは、話しを終えると足早に部屋を出ていった。
噂は、第三所領を出てしまっていた。
テオグラートが部屋を出ると、リルがヴァルを従え歩いてくる。
テオグラートは、リルの腕を掴むと控えの間に連れて行く。
リルは、ヴァルにそこで待つよう手で制した。
テオグラートは、ソファに座り、ソファを軽く叩く。
「なんだ。」
リルは、不機嫌そうに立ったままだ。
「兄上、あの、あ~、…その、う~ん。」
テオグラートは、どう話したらよいか悩んでいた。
「時間がない。早く言え。」
リルは、腕組みをして睨んでいる。
「あ~、とても重要で、込み入った話しをしたいけど、どちらと話すべきか悩んでいて…。」
「誰と誰だ。」
リルは呆れながら聞く。
「あ~、…男と女。」
リルはため息をついた。
「話しにくいと言うならば、同性を選ぶだろうな。男に聞いて、女にも聞く。」
「さすが兄上!」
なんだか吹っ切れたテオグラートは、礼を言うと急ぎ部屋を出てキリウェルを連れて歩き出した。
リルも部屋を出る。
ヴァルが後ろに控える。
「どちらでしたか?」
「あの様子からすれば、ベリンガーだな。まぁ、キリウェルでは、誓いを立てた主の母親には手を出さないだろうな。」
「義理堅いですな。」
リルは、ヴァルをじっと見る。
「何でしょう?」
「何でもない。行くぞ。」
リルも、キアラ妃の噂をヴァルから聞いていた。
ヴァルは、相手がどちらかと思っていたが、ベリンガーなら利用できる。
ヴァルは、リルの後ろ姿を見ながら考えを巡らせた。
テオグラートは、第三所領に戻るとベリンガーを呼ぶよう申し付ける。
急がなければならない。
噂を消すためにも、一時、先生にエメラルにでも行ってもらうとか、フレールでも良いかな。
なんとか二人をしばらく離せば、つまらない噂など消えるに決まっている。
テオグラートは、つまらない噂程度に考えていた。
ほどなくして、ベリンガーが現れた。
「先生、ここに座って!」
自分の横に座るよう、ソファをポンポンと叩く。
「殿下。どうされました。課題は終わりましたか?」
テオグラートは、魔術の取得に関する課題を言われていた。
「あ~、それはまだだよ!定例会議の報告とか仕事が忙しいって言ったでしょう。それに二人だけのときは、堅苦しい呼び方もいらないよ。」
「分かりました。テオ。」
ベリンガーは、人懐っこいテオグラートに、思わず笑みがこぼれる。
ベリンガーは、テオグラートの横に座る。
「先生、すごく馬鹿みたいな話しをするね。」
テオグラートは、この話しをベリンガーに笑い飛ばして欲しかった。
「先生と母上がね、…浮気してるんじゃないかって噂がでてるの。」
何も返答がないので、ベリンガーを見る。
「先生、違うよね?」
テオグラートは、恐る恐る聞く。
「テオ、お前は、まだ幼いから私達のことは理解できないかも知れない。ただ、私はキアラもテオもとても愛してる。」
ベリンガーの手が、テオグラートの頭を撫でようとしている。
テオグラートは、身を引いた。
「もう、聞きたくない。」
テオグラートは、下を向いて呟く。
「テオ、色々事情がある。私達の故郷、西の噂は知っているよな。」
キアラとベリンガーは、西の出身だ。
同国ではないが、同じ西側の情勢が大きく変わろうとしていることに、懸念を抱いていた。
「そんなこと僕が聞いたことと違う。」
テオグラートは、声を荒げはじめた。
ベリンガーは、テオグラートの肩をつかみ、理解を求めようと揺さぶる。
「西へ向かおうと思っている。キアラとテオも一緒に!」
テオグラートは、驚愕の表情を浮かべる。
テオグラートは、母から祖父母に会わせたいから、故郷であるサンゼベリア国に行こうと最近何度か言われていた。
だが、ベリンガーの言う、西に向かうは、どう考えてもコッツウォートを捨てることだ。
「何を言っているの。僕はコッツウォートを出たくない!」
「西の果てキッセンベリからの使者が来たはずだ!西側から来た魔術師をすべて返すよう。キアラも含めて。」
「知らない。父上はそんなことは言っていなかった!」
「隠しているだけだ。キッセンベリは、返さなければ軍を出すと言っている。我々は、囚われる前にコッツウォートを出たい。」
テオグラートは、ベリンガーが怖かった。
「離して!」
テオグラートは、一刻も早く部屋から出たかった。
「テオグラート様!」
キリウェルが、勢いよく扉を開けて入って来た。
すぐさま剣を抜き、構える。
「何もしてない。話しをしていただけだ。」
ベリンガーは、テオグラートを離した。
テオグラートは、一目散に部屋を出ていった。
「テオグラート様!ベリンガー、お前には後から話しを聞く、そこで待っていろ!」
キリウェルは、ベリンガーを睨んだが、テオグラートが心配で後を追いかけることにした。




