戦地コッツウォート⑤
テオグラードは、少しの間眠ってしまっていた。
もふもふした毛を手に感じる。
テオグラードはやっと目を開けた。
「えーーーー!」
狼の群れの中で、テオグラードは目を覚ました。
「なにこれー?」
テオグラードは、黒い狼や銀色の狼を見て考える。
「…まさか~。いや、もしかして…」
テオグラードは、黒い狼に手をかざした。
黒い狼は、小さな黒い竜巻のようなものに包まれると、キリウェルが黒い竜巻から割って出てきた。
「うわっ。本当にキリウェルだ!」
「良かった!戻れた!」
キリウェルは、自分の体を確かめながら、大きく息をはいた。
「あー、たぶん戻れてない。」
「はぁ?」
「ごめん。今の僕じゃ、魔術をとけない。一時的だから、また狼になってしまうと思う。」
「どれぐらい持ちますか?」
「わからないよ。だいたい人間を動物にするなんて禁忌だよ。どうすればいいのか…」
テオグラードは本当に悩んでいた。
銀色の狼が、キリウェルを頭つく。
「とにかく、コッツウォートを出なければ!」キリウェルが、立ち上がる。
「兄上を探さないと。」
テオグラードが頭をあげる。
「いいからお立ちください!また、いつ狼になるかもしれません。いいですか、言われた通り行動してください!!」
あまりの勢いに、分かった。と言っていた。
「でも、これだけはお願い。」
テオグラードのお願いは、キリウェルも断れないものだった。
テオグラードは、手をかざした。
赤い毛色の狼とその側にいた狼数頭、そして、偶然にも地面に降り立った鷹二羽が竜巻状の中から人間の姿を現す。
「人間に戻れたー!」
そこには、女の子二人が混じっていた。
騎士見習いジルと第三所領の教会に住むニーナだった。
「えっ、他にもいるのか?」
テオグラードは、辺りに動物がいないか見た。他に動物になった人間がいるのだろうか。
どうすればいいのか、テオグラードは頭を抱えた。
「テオグラード様。」
キリウェルが急かす。
「そうだ。急がないと。」
テオグラードは、ミッヒの前に立つ。
「コッツウォートを出なければならない。その前にティムを埋めてあげたい。」
ミッヒは頷くと、ティムの頭を優しく抱えた。
「なによ!なんでそんな事になってるのよ!」
事情を知らないジルとニーナが驚愕の声をあげる。
ジルは敵と戦い、ニーナは民の避難誘導でその瞬間を見ていなかった。
二人は、大粒の涙を流していた。
ジルはティムより4歳年上だが、騎士見習いとしては同期だったので、よく一緒に剣の稽古をしていた。
見習いのまま亡くなったティムの頭を見ながら、手をきつく握る。
「絶対、許さない!」
ジルが怒りで震えている。
「敵もフレールも!フレールの奴ら、すぐそこまで軍が来ていたのに、助けに来なかった。異形を見て、怖くなって帰ったのよ!臆病者!私、上から見たんだから!どっちも絶対許さない!」
泣き叫ぶジルの腕を、ミッヒの手が撫でる。
「ありがとう。でも、怒りで戦いに出るな。冷静さを忘れてはダメだと教わったろ。」
ジルがミッヒを見る。
ミッヒは弟と同じように優しい笑みを浮かべていた。
一番悲しいはずのミッヒが耐えていることでジルは自分を抑えることができた。
王都の裏手側にある第三所領に戻ることが出来ないため、ティムを第二所領に埋葬するしかなかった。
「必ず戻ってくるよ。しばらくここで我慢してくれ。」
ミッヒがテオグラードに礼を言い。
テオグラードは、ティム、そして亡くなった兵や民に別れを告げるように辺りを見た。
テオグラード達は、大通りに向かった。
大通りには、いつの間にか、武器や金目のものを探す者達が現れていた。
武装しているので、西からの敵兵の一部が、盗人に変わっているようだった。
ぼーっとしているテオグラードにキリウェルが、早速指示をする。
キリウェルが指示したのは、
急いで大通りを横切って、第一所領側に行くこと。
途中、武器とお金、または金目のものを持っていくこと。
そこで、亡くなった人のものを盗むのかで、キリウェルと一悶着あったが、キリウェルが勝った。
第一所領に入り、第一砦からコッツウォートの外に向かうこと。
まだ敵がいるかもしれないので、十分気を付けること。
狼になってしまうかもしれないが、信用してついてくること。
敵に見つかったら、たとえ狼の姿でも、我々が戦うので、テオグラード様は戦わず逃げること。
ここで、また置いてはいけないと一悶着したが、またキリウェルが勝つ。
キリウェルの顔がテオグラードの顔につかんばかりの距離で圧倒される。
口答えを許さないキリウェルに、口を突き出しながら「分かった。」と子供じみた返事をした。
テオグラードは、不本意だが、キリウェルの急かしに、反対意見を言っている場合ではないのだと行動を起こした。
なだらかな坂を下って、大通りとの合流地点に着く。
その時、馬の嘶きがした。
「こちらへ」
キリウェルが、大通りを抜けるのを一旦諦め、近くの木立に身を隠す。
100ぐらいの兵を従え、指揮官とその後ろに4台の馬車を従え王都へ向かって進んでくる隊列があった。
それは、ナギ達が見たフレールのクラウス王子が率いる隊列だった。
クラウス王子は、冷静さを欠いていた。
自国の兵が、戦地の側に居ながら傍観していたことに怒っていた。
コッツウォートに不用意に入りこみ、自身の隊列には、妹のリリアーナと多くの待女を連れていたにも関わらず、躊躇せず戦地に入ってしまった。
大通りは、雪に覆われていたが、月明かりが兵達の亡骸を照らしていた。
「生存者はいないか、確認しながら進め。」
すでに、リル達が生存者をリメルナに運んだ後の大通りをクラウス達は進んでいた。
第二所領へ入る道を通り越し、王都へと進んでいく。




