38-3 王子誘拐事件と蘇る前世の記憶
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「うっぐぅっ?!」
部屋の床に倒れ込んだ。
体中から汗が溢れ出し、荒く呼吸を繰り返しながら頭を抱えて震え上がった。
「あ……え、まって、わた、わたしはウィズで? でも日本の高校生で、ちがう、ここは日本じゃなくて、えっと、あの、あれ?」
深く考えて濁流のように流れ込んできた記憶を手繰り寄せようとすると、その膨大な情報量に頭が押しつぶされそうになってしまう。
頭が割れそうな程痛い、このままじゃ気を失ってしまう。でもだめ、今気を失っている暇はないんだよ。
ぎゅうっと目を瞑り、流れてこようとする情報を必死に遮断した。
今は駄目、思いだして気絶している暇は無い、今見えた記憶だけを抱えておかないと……っ。
深呼吸を何度も何度も繰り返すと、段々と落ち着いてくる。考えないようにしているお陰で、新たな情報も流れてはこない。
「私は……ウィズ、だけど前世は別の世界の日本に住んでいた」
床に手を突いて踏ん張って起き上がり、額から落ちる汗の粒がぽたぽたと床に滑り落ちた。
「私は……あのスマホゲームの世界に、悪役令嬢のウィズとして転生した?」
そう考えると、今まで私が断片的に思いだしていた事へも説明がつく。
警部とか、乙女ゲームとかいう言葉はこの世界にはない言葉だから。
生まれ変わったらプレイしていた乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生していました! なんて事本当にあるんだねーーっ?!
でも転生したとしたら、前世の日本にいた私は死んだのかな? どうやって死んだのか覚えてないんだけど? それに前世の名前だって覚えてないし……。
考えようとするとまた頭がズキズキと痛みだす。今は考えちゃ駄目だ、この現実で起きている事をなんとかする為にも。
深い事を考えている暇は無い、私は転生して乙女ゲームの世界に来た! 悪役令嬢ウィズである! でもゲームのウィズとは状況が結構違うけど……ってダメダメ今は考えちゃだめ! メティスを救ってからゆっくり考えよう!
「ってそうだメティス!」
ゲームが現実となっている今、ゲームでエランド兄様が語っていた過去の話は、今正に起きている事件だ。
ゲームとは違い、エランド兄様が誘拐される事はなかったけど、メティスは誘拐されてしまった。
なら、地下劇場というものはやっぱり実在していて、メティスはそこに誘拐されたんだ! ゲームではお城の兵士のみんなはメティスの捜索に間に合わずに、メティスは魔王召喚の儀式で酷い目にあって魔王として目覚めてしまう!
「確か、ゲームのエランド兄様はメティスは魔王の生まれ変わりで、儀式をしなくてもメティスが人間への憎悪を高めたら魔王として目覚めてしまうって言ってたよね?」
つまり悪い人達はメティスが魔王の生まれ変わりだとは知らず、生け贄として攫ったけど、本物の魔王で逆鱗に触れてしまいましたという事なんだろう。
兵士さん達を頼っていたんじゃ間に合わない! メティスが怖い思いをして、人間達への憎悪を高めてしまう前に救い出せば魔王としての覚醒を止められる!
「その為にはえっと、えっと……は! そうだ!」
とてつもなく怪しい人が居た! 時輝という男の人!
前世の私の記憶でも現れていた人で、しかもその人物の名前を私は最近目にした!
魔法の本屋さんで買った本、それには私の今まで歩んできた道がまるでゲームの感想のように書かれていた。もしかしたら、メティス誘拐事件についても何か書かれているかもしれない!
「あれに何か打開策が見える事が書かれているかもっ」
女子高生の頃の記憶が甦ったお陰か、頭がとても冴えている気がする! 六歳の体に十七歳の頭脳! どこぞの探偵もびっくりなハイスペック幼女爆誕だよ!
「魔王メティスを助ける方法をさがっ」
立ち上がった所で、一度首を傾げた。
あれ……そうか、よく考えたらメティスは魔王の生まれ変わりなんだね。
過去に何度もこの世界を滅ぼさんと蘇り、その都度勇者に倒されたという、その魔王がメティス……。
「うーんと、今はどうでもいいかな!」
メティスが魔王の生まれ変わりなんて些細な事実だよね! メティスはメティスだし! 私とメティスが過ごした時間は本物だもん! メティスが魔王でも王子様でもゴリラでも私は構わないよ!
背伸びして扉のドアノブを回して廊下へと出る。幸いにもソフィアはまだ戻って来ていないし、他の使用人のみんなの姿もない。
今だ! とばかりに廊下を走って私専用の書庫に向かう。
書庫の扉を開けて魔石が埋め込まれたランプを点灯して部屋へと入った。
薄暗い部屋の中央にあるテーブルの上に置いておいた例の本を見つけ、急いで駆け寄って本を開いた。
「私がさっき呼んでいたのはここ、じゃあ次のページはっ」
次のページを捲ると……そこから先のページは全て真っ白で何も書かれていなかった。
「そんな……私の今まで起きたことが書かれているんだから、今回のメティスの事件の攻略方法も書かれていると思ったのにっ」
せめてメティスが捕まっている場所だけでも分かればよかったのにっ、このままじゃどうする事も出来ずにメティスが魔王として覚醒しちゃうっ。
本を持ったままへなへなと床にへたり込み、悔しいと唇を噛んだ。
「メティスを救いたいっ」
ぽたぽたと涙が頬を伝い、本に滴り落ちた。
「私だってメティスに会いたいんだよ!」
この日のメティスを救えなければ、心壊れてしまったメティスはもう二度と心から笑ってくれない気がした。
助けなくちゃ、絶対に諦めない、諦めちゃいけない!
ゲームをプレイしている時に感じた何も出来ない悔しさを、今この世界にいる私なら消化出来るのに!!
「え……なんで?」
その時、真っ白だった本のページにスルスルと文字が現れた。まるで今ここで、誰かが本に文字を書いているかのように。
そこには日本語で言葉が記されていた。
【メティスに会いたいなら、午後九時に屋敷の南口の焼却炉に来い、そこに放り投げられた麻袋に入って待て】
驚きで言葉を失っている間にも文字は書き進められていく。
【ただし、命の保証が無くてもいいのなら】
迷っている時間は無かった。
◇◇◇◇◇
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