38-2 王子誘拐事件と蘇る前世の記憶
◆◆◆
「ただいま~!」
学校から帰ると玄関でお出迎えしてくれた愛犬を撫で回してから、一目散に自分の部屋のベッドの上に飛び込んだ。
「さてと! 今日も続き頑張るぞーっ!」
スマホのゲームアプリのボタンをタップして、今はまっているゲームを起動した。
そのゲームのタイトルは『どきどき☆ルンルン♪恋せよ同盟♡』というものだ。
この抜群にセンスのいいタイトルのゲームは、運動系の部活のヘルプを三つ掛け持ちする位のスポーツマンだった私を虜にして、見事インドアにしてしまった。
レビューでは『タイトルが異質だが内容は素晴らしい』という評価が多いけど、タイトルに一目惚れしてゲームを始めた私としては理解に苦しむ。
「今日はどこまで進められるかな~」
ウキウキしながらゲームのタイトルへと進む。
このゲームはいわゆる、異世界ファンタジーが舞台の恋愛シュミレーションゲームだった。
エンド分岐が多数存在し、攻略キャラも沢山いるボリューム満点なゲームとして有名。しかし、選択肢を間違えたり、好感度不足だと容赦なく死者がでてしまうという、女性向けゲームにしては厳しい面もある。
こういったゲームの事を乙女ゲームと一般的には呼ばれているけど、ちょっと珍しい所がある。
それは、最初に選択するヒロインが二人いて、どちらのヒロインを選択するかで攻略対象キャラが変わってくるという点だった。
どちらのヒロインを選択したとしても、必ず現れるのが悪役令嬢という存在。ヒロインの行く先々で意地悪や犯罪まがいの嫌がらせをして、ヒロインの恋愛を妨害してくる。
最初に金髪の髪を二つのおさげにしている、ゆるふわ系のヒロインか、ピンク色の長い髪でパッツンヘアーの、才女系ヒロインの二択では、私は後者の最初の固定ネーム『フィローラ』というヒロインを選択した。
こちらのルートに登場してくる悪役令嬢の名前は【ウィズ・ポジェライト】辺境伯の令嬢だった。いつも黒いドレスを着ていて、終始暗く喜怒哀楽が欠如した表情。エランド王子の婚約者であり、闇の魔法を使い、ヒロインの邪魔をしてくるのだ。
こちらのヒロインルートの攻略対象者は、竜騎士のゼノ・ヴォード。王国の第三王子のラキシス・グロー・ヴァンブル。王国の王太子であり第一王子のエランド・グロー・ヴァンブルの、三名がいる。
私がこっちのルートを選んだのには理由が二つあり、一つ目の理由はゲームのタイトル画面にも大きく描かれているにも関わらず、何故か攻略対象に居ない、王国第二王子のメティス・グロー・ヴァンブルがこちらのルートには沢山でるらしいと情報で聞いたからだった。
このキャラは、もう片方のヒロインルートの攻略キャラでもないのだ。
恋愛を楽しみたい! というよりも「なんでタイトル画面にいるのに攻略できないんだろう?」という興味本位からメティスというキャラの事が気になって、こちらのルートを選択したのだった。
実際にゲームをプレイしてみると、その答えは物語の中盤で明らかになるのだけど。
そして、本日の私は、一番攻略が難しいとされる隻眼の王太子エランドルートの攻略を頑張っていた。普段からあまりゲームをしないので、進めるのは遅めなのだが、遅い分物語をしっかりと読んで楽しむスタイルだ。
「えーと、今日は拾ったアイテムをエランドに届けようとしていた所だったんだよね~」
ヒロインが学園を襲った魔物をエランドと倒した時に、エランドが落としたアイテムを彼に届けようとした所からゲームを再開していた。
場所移動の選択画面で、エランドが居る音楽室を選択肢て移動すると、エランドの立ち絵がヒロインを迎えてくれた。すかさず、落とし物のアイテムを使うとイベントが発生した。
『これは俺の……わざわざ届けてくれたのか、ありがとう』
エランドは落とし物の【サファイアの腕時計】を受け取ると、この時計にまつわる過去の話をヒロインに話して聞かせてくれた。
『これは子どもの頃に弟のメティスにあげようと思っていた物なんだ、あげる事が出来なくて今でも未練がましく持っているんだが』
ヒロインがどうしてあげられなかったのかと問うと、エランドは盲目の目を隠すように付けている仮面を指で押さえた。
『俺が王太子に任命される前日、俺は何者かに誘拐されて地下の劇場に連れていかれた。そこでは近隣の村から誘拐された子ども達が捕まっていて、汚れた貴族の娯楽として使われていた』
画面の映像が切り替わる、地下闘技場一枚絵のゲームスチルが現れ、エランドの語りに合わせて地下の牢獄に変わった。
『だが、奴等の本命はその劇場よりも更に地下にある悍ましい召還の儀式の場所だった、上の闘技場で殺された者達の血で魔方陣を描き、とんでもないものを召還する事が目的だった……そして、その召還の材料に選ばれたのが俺とメティスだった』
ヒロインは問う、何を召還しようとしていたのかと。
『知っているか? この世界の厄災と呼ばれた存在の姿を。必ず、赤い瞳と銀の髪を象っていて、膨大な魔力を有しているのさ』
赤い瞳はとても珍しく、エランドが子どもの頃には、彼が知っているだけで赤い瞳を持つ者は自分しかいなかったらしい。
『俺の赤い瞳と、メティスの銀の髪と膨大な魔力、そして捕まえた大勢の人間の子ども達の生け贄。それらを捧げる事で俺を捕まえた奴は【魔王復活の儀式】を企んだ』
エランドの目を奪い、子ども達を殺し、メティスを魔方陣の中で拘束して残酷な儀式を行ったのだという。
『だが、その召還の儀式は奴にとって成功であり失敗でもあった』
エランドは悲しげに項垂れた。
『そんな残虐な事をしなくとも、魔王は遅かれ早かれ復活していた、奴はそれを早めてしまっただけだ』
それはどういう意味かと聞けば、エランドは答えた。
『魔王復活には、魔王本人の人間に対する怒りと憎悪を高めればいいだけの事だったんだ』
それをしてしまったんだ、魔王の兄の瞳を奪い、同じ人間同士なのにこんなにも残酷に命の灯火を消し、そして魔王を誘拐してその心をズタズタに傷付けた。
『一度魔王に目覚めてしまえばもう人間には戻れない……魔王の生まれ変わりであるメティスは、今学園で人間のふりをしてこの国を滅ぼす為に暗躍しているんだ』
私がこのルートを選んだ理由の一つが明らかになった。
メティス王子は攻略対象でもないのに何故タイトル画面に大きく描かれていたのか?
それは、彼がこのゲームの物語のラスボスである魔王だったからだ。当然攻略なんて出来る筈もなく、この時点で既に魔王として目覚めていて、人間達の殺戮を目論むメティス王子をヒロインと兄であるエランドは倒さなくてはならない。
『フィローラ、お前の光魔法は迷いが無く見事なものだった。だから俺も……覚悟を決める』
ヒロインと手を取り合いエランドは決意を新たにする。
『俺が父上に次いで次代の勇者になる、そして俺が魔王のメティスを倒す……もうメティスを助ける方法は、これしかないんだ』
悲しいけれど貴方の決意の為に私も力を貸すわとヒロインは頷いた。
「なんで倒す事に賛同しちゃったの?」
この時、ゲーム画面には選択肢は現れなかった。私というプレイヤーとヒロインの感情が重なりあわず、とても不愉快だった。
「メティス王子だって……被害者じゃない、魔王の生まれ変わりだったから殺すの? 魔王として覚醒したらもう敵だと諦めてしまうの?」
ヒロインは攻略対象の「こうしたい」という希望に寄り添い、その手助けをする。
けれど私は思う、何故抗わないのか?
弟の事をこんなに大切に想うエランド王子が、本心からメティス王子を倒したいと考える筈がない。
私なら、私だったら……。
『させないわ……』
エランド王子とヒロインの会話の直後、そんな二人を影から見つめていたのは悪役令嬢ウィズだった。
ウィズはヒロインを睨み付けながら静かに怒りながら呟いた。
『絶対に、魔王は殺させないわ』
このゲームでは悪役令嬢の心の内は語られない。この文面だけを読めば、ウィズは悪役令嬢の手下として、ヒロインと衝突すると読めるだろう。
けれど、この時の私はヒロインよりも悪役令嬢に共感した。
お兄ちゃんに弟を殺させないで、魔王を救う方法をどうか見つけてと。
選択肢しか選べないゲームシステムが憎かった。もしも私がこの世界に行けたとしたら、こんな悲しい物語にはさせないのに。
奇跡のような、魔王も世界も救う選択肢を探し出してみせるのに。
「おかあさあああああああああん!! 私もうやってられないよ!! ちょっと憂さ晴らしにクルーズに乗ってくるね!!」
「また行くの?! アンタ昨日も乗ったばかりじゃない!?」
「市民割引あるからいいんだもんーーっ!!」
家から飛び出して、坂を走って走ってクルーズ船を目指す。
感情移入のしすぎだと言われるだろうけどもうやりきれないんだよ!! 何故どんなお話でも、ヒロインと勇者はすぐに魔王を殺そうとするのかなぁ?! いや悪い事をしている前提なら分かるけど、このお話の魔王は少なくとも生まれ変わりだし?! 覚醒してるし悪い事も……してるけど! まず魔王ってなんなの!!
自分の心の声にハッとして、信号前で足をピタリと止めた。
そうだよ……魔王って、なんなんだろう? 魔の王様? 魔族の王様って事だよね? じゃあ魔族ってなんだろう? なんで人間と仲が悪いんだろう?
根本的な事への不思議が沸き上がり、赤信号の前を通り過ぎていく車達をボンヤリと眺めていた。
もしここで車に轢かれちゃったりしたら、漫画でよくある異世界転生とかしちゃうのかなぁ……なんてね!
「お嬢さん」
背後から突然声をかけられて、驚いて飛び跳ねた。
その勢いで体がぐらりと傾き、私はそのまま車が行き交う車道に倒れていく。
(ひっ、轢かれちゃう!!)
倒れる! と思った瞬間、私は思い切り誰かに腕を引かれて歩道へと引っ張り戻された。
「あ、危なかったっ」
「驚かしてごめんな」
「へ?」
それはさっき私に声を掛けてきた男の人だった、太陽の光が強すぎて影になり顔はよく見えないのだが。
「えっと、貴方は誰ですか?」
彼はにっこりと笑った。
「俺の名前は時輝だ、よろしく」
◇◇◇◇◇
作品を読んでくださりありがとうございます!
もし「面白い!」と感じましたら、下の【☆☆☆☆☆】の評価や、いいね、ブクマ登録でポチっと応援をどうぞよろしくお願いします!




