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13『暴力系ヒロインって二千年代に流行ったよね』

塞がれた口の中でくぐもった絶叫が響く。彼女はそのままぐるりと手首を返し、力任せに指を引き抜く。学園長の両目から血の涙があふれ出した。彼女の指先には血まみれの肉の塊が二つ付いていた。手を振ってそれを飛ばすと、ルツは血まみれの手でショートソードを抜き、まるで雑草でも狩るかのような無造作な動作で、学園長の首を深く切り裂いた。

「油断させて近づき、目と口を潰す。対魔術師戦の基本さ」

ルツの目は、さっきまでの涙が嘘のように冷徹な光を帯びていた。彼女はかしいでいく学園長の上半身を起こし、まぶたを閉じさせて椅子にもたれさせると、目をつぶって静かに呟いた。

「悪しき魂に、女神の救済を……」

学園長は喉からひゅーひゅーと数回音を立てたが、ごぽり、と血を吐くと息を引き取った。奴が手にしていた書類を拾い上げると、彼女はそれにざっと目を通し、頷いて革袋にしまった。

「ねーお兄ちゃん、何が起こってるの?変な音したけど……」

「お、お前には超早い……」

ルツはローブを脱ぐと、それを学園長の頭に被せた。俺に向き直り、近づいてくる。こわい。

「もういい。手を離せ」

「ああ、離れちゃった。でも、お兄ちゃんの手汗が蒸発してひんやりする……幸せ……。あれ、学園長が寝てる……?」

「ルツ……あんた、なんてことヲ“ッ」

言い終わらないうちに腹に強烈な一発をもらい、意識が遠のく。ルツは俺を軽々と脇に抱えると、ぽかんと口を開けたモモに言い放った。

「妹魔導士殿!兄魔導士殿は私が頂いた!返してほしくば、イソルデの村まで追って来い!」

ルツが窓に向かって走り出す。嘘だろ?ここ、五階なんだが。もがきながら、必死にモモへ向かって手を伸ばす。モモもそうした。

「モモ-ッ!」

「お兄ちゃんッ!」

だが俺たちの指は、後ほんの少しの所で重ならなかった。

「ハーッはッはァ!空飛ぶ気分だぜーーッ!!」

ルツが何のためらいもなくガラス窓をぶち破ると、俺たちの体は宙に放り出された。

「いい眺めだなァ、ポンコツ魔導士殿!」

俺はもう怖くてぎゅっとまぶたを閉じていた。

やがて、重い衝撃があって、頬に薄くて柔らかいものがぺちぺちと当たった。目を開くと、俺たちは学園の前庭に生えた茂みに着地していた。下校中の生徒たちが何事かと騒いでいる。悲鳴を上げて逃げ出している奴もいた。

「一体どういうつもりだ……」

「お前とモモを気に入った。助けてやるよ」

俺を小脇に抱えたまま、ルツは軽快な足取りで走り出した。

「……ぃちゃあぁぁぁあぁぁんッ!」

おかしな叫び声が後ろから聞こえた。首を思い切り捻って後ろを見た俺は、ショックで気絶しそうになった。

「お兄ちゃあぁぁぁぁぁあん!」

モモが落ちてくる。

「クククッ……期待を裏切らないな」

「笑いごとじゃない!このままじゃモモが……」

「落ち着けよ。まさか妹殿も無策ではないだろう」

『主持たぬ放埓の暴風よ! 今ひと時我が元へ集い、猛り狂うと翠嵐と化せ!』

これは、風魔法の詠唱か?そうか、モモは……。

「ぶっ飛べクソ女!ハヴォックガストォ!!」

モモはルツを風魔法で攻撃して、同時にその反動で落下の衝撃を打ち消そうとしているのだ。さすがモモだな……一石二鳥の天才的な作戦だ。だが……。

吠え猛る風の塊が空から降ってくる。生徒たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。……なあ、モモ。お前は俺のことになると、ちょっと視野が狭くなりすぎだな。みんなの方をちらりと見たルツは舌打ちをすると、彼らとは逆の方向に走り出す。俺たちを追う大嵐は、進路を変えた。俺は必死になって生徒の中に上位の魔術師を探す。アデプトクラスの生徒を一人見付けた俺は、大声で叫んだ。

「……カレル!カレルッ、マジックシェル!マジックシェル!!」

呆然と空を見上げていた彼は、俺の声を聞くとすぐ両手を空に掲げ、大きなドーム状の魔法障壁でみんなを包んだ。

次の瞬間、凄まじい大気の爆発に襲われ、俺たちは吹き飛ばされた。ルツが俺を抱きしめ、庇うように体を折り曲げる。俺たちはまるでボールのように何度もバウンドしてから、長い距離を地面にスライドして止まった。

急いでカレルのいた方を向き、生徒たちの様子を見る。魔法障壁には大きなヒビが入っていたが、壊れてはいなかった。みんな、無事のようだ。肩の力が抜け、思わずため息が漏れる。

「キキキッ……いいなぁ、なかなか派手にやってくれるじゃないか。大丈夫か、兄殿」

「俺よりも、あんたが……!」

彼女は傷だらけだった。額はぱっくりと割れ、勢いを殺すために地面に擦り付けていた彼女の脚は、そこだけズボンが擦り切れて、薄桃色の肉が見えていた。

「かすり傷だ、こんなもの。『もどれ』」

彼女がショートソードの柄を握りながら言うと、剣から青白い光が現れ、彼女に伝わっていく。その光が触れたところからうねうねと皮膚が盛り上がり、傷が塞がっていった。

「うわ、気持ちわる……」

「よし決めた。お前の怪我は治さない」

「ああ、嘘です嘘」

「冗談だ。どのみち私は、自分の傷しか癒せない。だからわざわざ庇ってやった」

「そんなシスター聞いたことないぞ……」

彼女は微かに表情を曇らせると、自嘲するかのような笑みを浮かべた。

「ローディーのお前と同じさ。落ちこぼれなんだよ、私も……」

「待て――――ッ!!待ちなさいよ!!捕まえてズタボロにしてやる―――ッ!!」

元気な声が聞こえてくる。モモが追って来るが、片足を引きずっているみたいだ。どうやら魔法の威力が強すぎて、逆に舞い上がってしまったらしい。大丈夫だろうか……。

「待てと言われて待つ馬鹿がいるか」

ルツが立ち上がり、俺を抱えてまた走り出す。しばらく後ろから騒々しい声が聞こえていたが、学園を出て大路を抜け、裏路地に入ると聞こえなくなった。

「誰か死んでたか?」

「いや……みんな無事だった、と思う」

「そうか、ご苦労。お前は魔法の才能はなくても、指導者には向いてるのかもな」

「褒めるなよ、照れるぞ……っていうか、まだ離してくれないのか?ちょっと恥ずかしいんだが」

「ソフィアとイソルデの間の街道沿いに安宿がある。そこに着くまで辛抱しろ。……色々あって疲れただろ?目を閉じて休んでおけ」

そう言うとルツは左手で俺の髪を撫でた。優しい手つきだった。急に眠気に襲われ、まぶたが落ちる。眠ってしまう前に、伝えなければ。

「ルツ……」

「事情は宿で説明する。文句なら聞いてやらない」

「ありがとう……庇ってくれて……」

「私は他人を治せないって言っただろ。合理的な選択をしたまでだ」

「俺を見捨てるって選択肢は、浮かばなかったのか……?」

「…………」

「やっぱりあんた、本当は優しいんだな……」

「…………。寝ろ、馬鹿ッ」

首をひねって見上げると、ルツの頬は少し赤くなっていた。目が合って睨まれる。

後頭部にいい感じの一撃を入れられて、意識が落ちていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

目が覚めると、固いベッドの上に寝かされていた。全然暖かくないし、背中がちくちくする……藁が詰めてあるのか?

「起きたか」

小さなテーブルのそばの椅子に座り、ルツは学園長が持っていた書類を読んでいた。

「その書類、結局なんなんだ?どうしてあんたは学園長を殺したんだ。俺をさらったのは……」

「まあ待て。もう少しで読み終わるから、そうしたら全部答えてやる」

俺はため息をついて、しばらく待つことにする。俺たちがいるのは、ベッドとテーブルしかない小部屋だった。窓の外を見ると、月に照らされて白く光る小麦畑が、風に吹かれて静かになびいていた。

「これは、オブシディアがラコニアに魔法の技術と触媒を流出させていた証拠だ。

……私はこの三年間、戦争を終わらせるためだけに旅を続けてきた。特に、ラコニアの使う魔道兵器……あれは絶対に止めなければならない」

ぼんやり外を眺めていると、ルツが話し出した。

「もしかして、あんたがラコニア兵に追われていたのも、ソフィアの街へ来たのも……」

彼女が頷く。

「ラコニア軍の基地に潜り込んでは、指揮官を殺したり、魔導兵器を壊して回っていた。見張りの兵士を手にかけたこともある。そんなことを繰り返しているうちに奴らに目を付けられて……逃げ回りながら情報を集めて、どうやら魔道兵器の技術の出所が、オブシディアらしいと知ったんだ」

「信じられないな……でも確かに学園長は、保管庫の試薬が足りないって言ってた。一体誰がそんなことを……」

「お前は本当に馬鹿だな。ゴールドマンに決まってるだろうが。あいつはお前に自分の罪をなすりつけようとしてたんだよ」

「なんだって……」

「ゴールドマンがわざわざあんな話を聞かせたということは、お前のことも、モモも……そして私も、生かして返す気はなかったってことだ。技術流出の共犯に仕立て上げて、みんな『検体』とやらにでもするつもりだったんだろうよ」

「じゃああんたは、俺たちを助けるために学園長を……」

「違う。新しい魔道兵器が生み出されないようにするためだ。お前とモモのことは……まあ、ついでだ。三番目の理由さ」

「三番目……。一番が魔道兵器のことだとしたら、二番目の理由は何なんだ?」

「明朝になったらイソルデの街へ向かうぞ。お前とはそこでお別れだ。心配するな、すぐに妹魔導士殿が追ってくるだろうから、二人でどこへなりと逃げろ」

「そうか、俺をさらったのは、オブシディアから遠ざける為か……」

「あれだけ大規模な密輸だ、ゴールドマンが一人でやっていたってことはないだろう。必ず学内に共犯者がいるはずだ。そいつらに目を付けられる危険性を考えると、一刻も早くお前らをソフィアから出す必要があった。野蛮な方法ですまないね。ただ時間がなかったし、お前はともかく妹魔導士殿が素直に私に抱えられてくれるとも思えなかった。だから、ああ言うしかなかった」

「…………」

俺は猛然と立ち上がって、ルツの両肩を掴んだ。

「感動したぞ!あんた、超いい奴だな。恩返しがしたい。何か手伝えることはないか?」

「なんだ、大げさな奴……。何もする必要はないよ。私たちは互いに命を救いあった。これをイーブンと呼ぼうじゃないか、なあ」

「いや、そういう訳にはいかない。確かに俺はあんたを助けたけど、あんたは俺とモモを助けた。妹の分、受けた恩の方が多い」

「分からん奴だな、私がいいと言っているのに……。自分から損をしようとするとはね。そうだな、そこまで言うのなら、ちょっとしたゲームに付き合ってもらおうか」

「いいぞ、何をする?」

ルツがにやにや笑う。ちょっと不安になる。

「ナニをしよう。服を脱いで横になれ。……フフッ、どうした、早くしろ。いまさら前言撤回はさせないぞ?」

「モモにどやされそうだ……」

二人で服を脱ぐ。どうしてこんなことに……。

「私の裸を見て、アレを勃てなかった男はいない。お前を除いてはな。私は自分の体とテクに誇りを持っている。それをかけて、今夜一晩勝負をしよう。勃ったら私の勝ち、勃たなかったらお前の勝ちだ」

「全く意味が分からないんだが……。俺の性器が大きくなろうがなるまいが、ルツは魅力的な女性だし、その、技術もすごいんだろう、きっと」

「いいか、私は十年不能の男も、ガチな男色家も、一人残らずおっ勃たせてきたんだ。お前だけが例外になることは許されない」

「変なところで頑固なんだな……まるでモモみたいだ」

「お前が勝っても何もなし。これは私への恩返しなんだから、当たり前だよなあ?」

「それはいいけど、じゃああんたが勝ったら……?」

「お前の童貞をもらう」

「……万が一のことがあったら、モモが発狂しそうで怖いな。ていうか、あんたシスターだろ。童貞を奪うって言っても、セックスできないんじゃないのか?」

「知らないのか?女には穴が三つあるんだ」

ルツはよく分からない事を言って、俺をベッドに押し倒した。

「クキキ……。我が力の前に屈服するがよい……」

なんか魔王みたいなこと言ってら。


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