覚悟
不定期です
魔力を一気に放出すると纏っている雷が膨れ上がり、周囲の者を威嚇するかのようにバチバチと大きな音を鳴らす。審判を務めるスレハを含む、この場の全員が息を呑む。これは止めるべきなのか悩んでいるスレハをよそにタクマは攻撃を仕掛けるのだった
アイリスを中心に驚異的な速さで駆け回る。目で追うことが出来ず、後方にいるリコ、イリナはアイリスを気にして魔法を打てない状況に陥っていた。ここは戦闘経験の不足が原因だろうか。なかなか打開策を打てずにいる
「・・・」
アイリスは目、耳、鼻に魔力を集めている。スキル「魔力感知」を使用しているから分かるが、3つの部位に均一に魔力が分配されている。魔力コントロールだけならアイリスに分がある。俺の場合、それを補える底なしの魔力を利用して魔法発動時の魔力効率など一切考えてはいなかった
アイリスの後ろにまわり背中を狙って接近する。下手に頭、首元に触れると命に係わると判断し狙いは正確に定める必要がある。触れるのは人差し指一本のみ。魔力コントロールが不得手な分、攻撃にも工夫が必要だ
「なに!?」
まずは一人と思っていたが、アイリスが俺の攻撃に反応し、姿勢を低くすることで攻撃を躱しつつ、身体を回転させ反撃までしてきた。予想外の事態ではあるが、慌てることはない。横なぎに振るわれた短剣は腹部を狙っているのが分かる。それを体を少し捻ることで回避する。再び反撃に出ようとすると後方から洗浄が飛んでくる
大岩をも砕くリコの魔法を受けるわけにもいかずすぐにその場を離れる。仮に当たったとしても傷を負うことはないかもしれないが、ダメージがないからといって回避できる攻撃を受けるのはこの戦いの意味がなくなる気がする
「精霊さん!!」
アイリスから離れるとイリナの掛け声とともに火の玉がとんでくる。風といい火といい魔法を覚えずとも多種の属性攻撃が可能とは、なんて羨ましい称号なのだろう
アイリスがすぐに距離を詰めてくる。接近戦に特化しているのもあるが、後方の三人が標的にされないようにするためか。ゲームでいうところのヘイト管理みたいなものだろうか。ボッチだった俺には縁のないものだったな...はぁ。しかし接近戦をすれば後ろの三人が標的にされないという考えは甘すぎる
「ファイアボール」
アイリスの猛攻を対処しつつ後方にファイアボールを発動する。一度に3つの火の玉が出現したからか、電光石火とファイアボールの魔法同時展開を行ったからなのかスレハは驚いていた。勿論威力は最小限に抑えてあるが、直撃すれば無傷とはいかない。なんとか躱してくれと願いながらも覚悟を決めて放つ
「任せてください!!」
テイラがリコ、イリナの前に立ちバリアを展開する。バリアは元々、雨風を防ぐために用いられるものだが、強度を強めれば魔法も防ぐことができる。展開されたバリアとファイアボールが衝突する。爆風とともに砂埃が舞う。不安になりながら視線を向けると、そこには軽傷をおいながらも立っている三人の姿があった。展開されたバリアには所々亀裂が入っていた
「ヒール!」
テイラが魔法を発動する。新しく覚えた回復魔法である。テイラにとってこの魔法は一番思い入れのある魔法だ。テイラに習得したい魔法を聞いたとき迷いなく答えていた。それもそうか。こうしてみんなと同じ世界を見れるのも、手をつなぎ同じ地を踏めるようになったのもこの魔法のお陰なのだから
「テイラちゃん大丈夫!?」
「私は大丈夫です!リコさん、イリナちゃんは援護を続けてください!」
テイラの力強い瞳が俺に向けられた。その瞳を見て、俺の心の中にあった枷のようなものが外れた気がした
「ハァアアア!!」
三人に視線を向けたことでアイリスに背を向ける形となり、アイリスはすかさず短剣を振るう。纏っている雷を貫くために聴覚、嗅覚に集めていた魔力を短剣に集中させている。闘系は維持するだけでも魔力を消費する。長期戦の場合、必要なタイミングにのみ闘系を使用するがタクマ相手に1秒でも解く訳にはいかなかった。「決まった」とアイリスの張り詰めていた気持ちが緩んだ
「油断は禁物だよ」
突然、身体に衝撃がはしった。気付くと訓練場の端まで吹き飛ばされていた。肺から空気が押し出され呼吸をするのも困難になり意識が遠のいていく。雷の影響で身体に力も入らず、何も抵抗ができずに地に伏した。戦闘不能になったアイリス。その姿を見て焦るテイラ、リコ、アイリス
「攻撃の手が止まっているぞ...爆炎弾」
大量に込められた火の玉が弾丸の速度で飛んでいく。直撃させるのではなく三人の目の前に着弾させる。瞬間、強烈な熱風が吹き荒れる
「洗浄!!」
「精霊さん!!」
リコとイリナが魔法を発動させるが相殺することができなかった。すぐにテイラがバリアを展開させるが抵抗むなしく三人とも吹き飛ばされた
「よく頑張ったな」
すぐに回復魔法を使用しみんなの傷を癒すが、魔力と体力の消費が激しく立ち上がることができずにいた。堪えてはいるが、みんなの目に涙があふれ必死に声を殺していた。俺は何も言わず、みんなの心が落ち着くまで、ただ見守ることしかできなかった




