琥珀に産まれし生命
シュウとクナンは目の前で繰り広げられている戦いに思わず息をのむ。魔法を教えてくれた師匠は黒く染まった剣。相手は見たことがない形状をした武器。どちらも魔力が込められた特別な武器
金属同士がぶつかったような高い音が闘技場内に響きわたる。師匠に向かって飛んでいく視覚不能の攻撃。けれどその正体はすぐに見破ることができた。魔力だ。筒状の奥から放出された魔力の塊。それが金属のような硬さで飛んでいる。
「なぁクナン。俺達もあんなふうに防げると思うか...」
「......難しいだろうね」
クナンは表情を暗くしながら答えた。質問したシュウもつい俯いてしまう。「無理」と言わなかったのは心の何処かで認めたくない気持ちがあったからだろうか。端から見ればちっぽけな足掻き。それでも抗いたい気持ちはよく分かる。
「何をそんな暗い顔をしているのですか」
表情を曇らせている二人の背中から声がかかる。振り返るとそこにはアイリスの姿があった。二人からするとタクマは魔法の師匠と例えるならアイリスは近接戦闘の師匠である。タクマ程修行に打ち込んだ時間は少ないが、アイリスの実力は体で実感させられた
二人の様子を見て何を思ったのかすぐに理解したアイリスは戦闘中のタクマに視線を移し言葉を紡ぐ
「強いですよねタクマさん。私もあれを見ると少し自信をなくしてしまいます。技術ではなく、身体能力のみであそこまで戦えるのですから」
はっとしたように顔をあげタクマの動きをみる二人。足や腕の動きなどの体全体の動きに、攻撃の読み合いなど気にした様子がない。相手の攻撃を認識してから、その場の姿勢で剣を用いて対処しているのだ。
それでも、一つの攻撃さえあたる様子がない。
「魔法の才も身体の才も私とは比較になりません。しかし、それが諦める要因にはなりません」
「強くなる努力をでしょうか...」
「何事もですよ。いくら他人と自分自身に才能の差があっても諦めず心を強くもてば一矢報いることができると思いますよ」
「そこは勝つではないんですね...」
「師匠らしいです。」
それからは無言で二人の戦いを観戦した。少しずつでも自分が強くなるための糧とするために。
飛んでくる魔力の弾丸を剣で弾いていく。一体、どれ程はじき飛ばしたのかは知らんが弾が尽きる様子はない。【魔力感知】からウェイドの魔力量があまり減っていないのが分かる。
あの銃は使用者の消費魔力を軽減させ強力な魔力弾を放つといったところか。俺がもつ魔剣と同類なら他に特別な能力があるのは間違いない。
鑑定を使用してもジャミングがかかったように見ることができなかった。あのババ・・・フレアさんが身につけていたペルシー作の首飾りみたいに鑑定を阻害するアイテムはない。ということはウェイドのスキルだろうか
名前 ウェイド・ジャガール 36歳
レベル 32
種族 人族(男)
HP 1000/1100
MP 1900/2100
筋力 130
防御力 800
素早さ 150
魔力 1500
魔法防御 2000
〈ユニークスキル〉
〈スキル〉
・銃術level7・剣術level5・気配探知level4・気配遮断level4・魔力遮断level4・魔力感知level4・火魔法level3
〈称号〉
・琥珀に眠りし者
いや、違う。これはあいつのスキルなんかじゃない。銃のステータスが見れなくてあいつのステータスが見れるなんて可笑しい...
「ってことはあの銃そのものの力ってわけか」
「ふ、ふーん。ここでまで抗う者は君が初めてだよ」
あ、いまの「ふーん」いつもと違ったぞ。なんか焦っている感じだった。
きっと今まで見えない弾丸を打ちまくって勝ってきたのだろうな。A級冒険者になれたのもあの銃のお陰なのだろう...まぁ全て憶測だけど
俺が攻めずに防御に徹しているには理由がある。子供達のためだ。子供達にこの戦いを長く見せてやりたい
特にシュウとクナンはアイリスから剣術を習っているようだし。でも俺、剣術スキルなんかもってないから参考にはならないだろうけど、お前らの師匠がどんだけ強いか見せてやる!!
「(影纏い!)」
魔剣に影を纏わせて加速する。向かってくる弾丸は剣に纏わせた影を薄く伸ばし、暗い底へと誘う。
一気に距離をつめても焦るだけで能力を発動させようとはしない。ただ弾丸を放ち続けるだけ
剣の間合いに入るとそのまま首筋に刃をたてた。
「お前なめてるのか。そいつの力はそんなもんじゃないはずだ」
返事はかえってこない。けれど、目は「こいつは何を言っているんだ」と語っている。
「意志の疎通はどうした。扱い片は教えてくれるはずだぞ」
「き、きみは一体何をいっているんだ...」
まさか知らないのか。こいつらには意思が存在することを。それでよく魔銃をつかっているものだ
「この試合。俺のか・・・!?」
勝ちを宣言しようとした瞬間、魔剣から「危険」をしらせる意思が伝わっきた。すぐさまその場から離れると魔銃の宿す魔力量が増大しているに気付いた
所有者であるウェイドから魔力を奪っているようだ。本人もそれに気付いたようで手を離そうとするが、思い通りにいにいかない
ウェイドの魔力量が減少していくにつれ銃が輝きを増していく。さっきまで危険を伝えてくれた魔剣からは笑いの感情が伝わってくる。なにがそんなに可笑しいのか
そんなことよりいまはみんなの安全だ
「みんなここから離れるんだ!!」
子供達はすでに仲間達が出口まで誘導していた。よくみるとシュウやクナンなど孤児院の子供の中でも年長者も手をひいている姿があった
立会人であるフィリスは周囲の状況を確認すると急ぎ出口へと向かった。きっとギルドで腕の立つ者を連れてくるのだろう。周囲の状況を把握し慌てず冷静に対処する。それに出口には子供達が集まっているのに器用にその間を抜けていく
さすが冒険者ギルドの受付嬢といったところか。なら代わりにこいつを止めて欲しい。まぁそれが出来ないと判断して任されたんだろうけど...
フィリスからウェイドに視線を戻すと、輝きの中から無数の光の粒が放出されていた。【魔力探知】によりそれは全て魔力の塊だとわかる。
光の粒が形態を変化していく。小さな体に見合わない大きな羽。先端には小さな2つの触覚。その姿は蝶そのもの。
無数の琥珀に輝く蝶が舞っている姿はまさに幻想的...なのだが蝶がこちらに向ける視線は殺気のみ。琥珀から産まれたばかりの蝶は楽しそうに飛び回りながらも害なすものを排除すべく行動を開始した
予測できない不規則な動きをしながら衝突してくる蝶たちを魔剣で切り裂いていく。しかし真っ二つに裂かれた蝶は新たに形を形成し数を増やしていく
再び影纏いを発動し今度は影の底へと飲み込む。こうすれば分裂されることなく処理することが可能だ。飲み込まれていく仲間をみても構わず攻撃していく蝶達。剣の軌道からのがれたものは体に接触すると強い輝きを発しながら爆散する
それは魔力の弾丸をくらっても無傷だった俺の体に僅かな傷を残していった。ヒールを使えば癒やせる程度の傷だがもしこれが俺ではなく他の者だった場合、果たして軽傷で済むのだろうか...いや考えるまでもないだろう。そんな蝶が俺の前に無数に存在している。
もし一匹でも街に放ってしまった場合、被害は絶大なものになるだろう。
「これは逃がす訳にはいかねーな」
蝶を消滅させながらヒールで回復する。分裂は防いでいるもののウェイドの魔力を奪い新たな蝶が産まれていく。このまま長期戦にもちこむのもいいが魔力を全て奪われたウェイドがどうなるのか分からないため、はやく決着をつけたい
周囲にはもう俺達以外の人の姿はみえない。今なら魔剣の力以外を使っても問題はないだろう...よし、ここからが本番だ!!




