高まる剣
あれから5日が経ち、ウェイドとの対戦の日がやってきた。その間は特に特別なことなどやっていない。孤児院に出向いたりヒュオラの様子をみたり。こんな毎日おなじ行動ばかりしていると学生時代を思い出す。
朝起きて母が作った飯を食って欠伸をしながら学校まで歩いて授業を受ける。学校が終われば家に帰って飯食って風呂に入ってゲームをして寝る。次の日になったらまたその繰り返し
そんな平凡な生活が今では少し懐かしく感じる。またあんな生活を送りたいと思うときもあれば今の生活も悪くないとも思う。それでも今の仲間と一緒に地球にもどって学校生活を送りたいというのが理想だったりする
「タクマどうかした?もしかして緊張してるの?」
側にいたリコの声でハッとして辺りを見渡すと俺の戦いを見にきた孤児院の子供達と職員のマミルナさんにいつもの仲間達。リコに視線を向けてみるとクスクスと笑っていたのでデコピンをくらわせてやった。痛がるリコの様子をみて子供達が笑い、その笑顔をみた屋台のじいさんや偶然そばにいたお婆さんなども笑顔になり周囲の空気が和む。今から戦いに行くっていうのに緊張感もなしに俺もつい笑顔になってしまった
そんな空気に包まれながら冒険者ギルドを訪れ闘技場へと案内される。闘技場は決闘の他にも冒険者の修行場として使われたりギルド主催の新人冒険者の育成を行う場など用途は様々・・・という説名を以前冒険者登録をする際に担当した職員から聞いた
円形の闘技場の上は観戦席となっている。舞台に上がると既に対戦者が待ち構えていた。いや、高価そうな椅子に腰を降ろし、後ろに控えているメイドらしき2人の内の1人が淹れてくれた紅茶を飲んでいることから待ち構えているという表現は可笑しいか。というか、一体あの椅子は何処から持ってきたのやら
「待っていたよ。テイラちゃんに...挑戦者くん」
上階の扉が開き賑やかな声が聞こえてくる。ウェイドの視線がテイラから上の子供達に向けられる。子供達がくることはギルドを通して伝えている
「ふーん。随分と賑やかだね。子供は元気でいいものだな」
「まさかお前...そっち系か」
テイラは意味がわからず首を傾げているがリコは理解したのか露骨に嫌そうな顔をし自分の肩を抱いていた。うんうん、分かるぞその気持ち
「みんなは子供達のところへ。というか最初からあいつらと一緒に行けばよかったのに」
「だ、だって少しでもタクマの側にいたかったんだもん...」
「それは誰の真似だリコ」
「いやーこういえばタクマの照れ顔がみられると思って」
茶目っ気あふれる表情をしているリコをみてつい頬が緩みそうになるが、それを必死に抑え反撃を試みる
「そうか。ならいっそのことずっと俺の側にいるか?俺もその方が嬉しいしな」
リコの顔が真っ赤に染まる。顔を覗き込むように近づいてみると俯き何か呟いているが声が小さくて上手く聞き取れない。珍しいものを見たと満足し、そろそろ待っている相手をしようと一歩前にでると、誰かに服の裾を掴まれた。振り向くと、そこにはテイラがいた
「わ、わたしは何時までもタクマさんと一緒にいますから!」
唐突に言われたテイラの言葉。恥ずかしそうに放たれたその言葉は俺の心を貫く一矢となった。自分でも顔が熱くなるのが分かる。互いの目が合うと互いに目をそらす。気まずい空気になるとテイラが上に繋がる階段に向かって走りだした
「まったく。すごい伏兵がいたもんだ...」
みんなが上にあがるとメイド達が椅子を隅まで寄せその場に控える。背筋を伸ばし直立姿勢を保つ姿はまさに一流と言える...のかは知らないがA級冒険者が雇っているメイドなのだからさぞ優秀なのだろう。俺的にはあの姿勢を維持してて疲れないのかの方が気になるところではある
「ふーん。君たちはとても仲良しなのだな」
「冷やかしのつもりか?」
「なに。ちょっとした会話にすぎんよ。怒ったかい?」
くすりと笑いながら聞いてくる所に腹が立つ。この気持ちは決闘で晴らすこととしよう。このまま無意味な会話はしたくないので本題にはいることにする
「いや別に。それでいつ始めるんだ。俺は何時でも構わないぞ」
「僕も構わないよ」
職員が互いの同意を確認すると、2人の間に立ち決まっていたであろう台詞を口にする。若干緊張している様子が窺える。立会人になった経験が少ないのだろうか。まぁ決闘が頻繁に起こってたら問題だとは思うが...
「で、ではこれからお二方の決闘の立会人を務めさせていただきますフィリスと申します。注意事項として相手を死に至らしめる攻撃は禁止です。また、癒えない外傷を与えることも禁止とします。これを守るのであれば武器や魔法の使用は可能です。勝利条件は相手に負けを認めさせるか行動不能にすることとします。ここまでで何か質問はありますか?」
「制限時間は?」
「基本的にはありませんが状況によってはこちらの判断で勝者を決める場合があります」
「ふーん。そんなに時間はかからないと思うけどね」
「前から気になってたんだが、そのふーんっての止めてくれないか?聞いててイライラする」
「ふーん。君に従う理由はないな。それにこれは私が生まれた故郷のならわしでね」
どんな故郷だよ!っとツッコミそうになるのをグッと堪える。しかしつい想像してしまう。何人もの人がウェイドのように会話している様子を......やべーちょっと笑えてくる。フィリスも想像したのか笑いを堪えている様子だった。幸い、本人は気づいていないようだが...
ある程度距離をとり構える。特に決まった構えなどない俺は自然体だがウェイドは右腕を腰にあてている。自然体のようにみえてしっかりと己の構えをしていることが窺える
フィリスが手を上げると周囲の音が消え、張り詰めた空気が漂いはじめる。2人を再確認し準備ができていると判断したフィリスは「始め!」の一言と同時に上げた手を一気に振り下ろした
その刹那。額に衝撃がはしる。体は後方へと吹き飛ばされ壁に勢いよくぶつかった。観戦席から悲鳴のような声があがる
「ふーん。やはり時間はかからなか...」
「いやービックリした」
そんななか、壁の中から間抜けな声が一つ。平然とした態度で姿をあらわす。ウェイドの目が見開いたのが分かった。服についた粉をはらいながら歩き出す
「ど、どうやってあの攻撃を...」
「躱してなんかいないさ。というか油断してて躱せなかっただけなんだが」
痛みがないことからダメージを受けた感じはない。それにしても額にうけた衝撃は凄まじかった。大抵の奴はさっきの攻撃で意識を失っていただろう
「いい武器をもっているな。それ...魔剣の類か?」
琥珀色をし、蝶のような模様が刻まれているそれはゲームで見慣れた片手銃そのものだった。銃そのものに凄い魔力を感じる。だからこそ、それが普通の武器ではなく俺が持つ魔剣と同じ類のものだと分かる
「フロス・ハーファレス。この武器の名だ」
試したい。心の内から湧きあがる感情。同じ武器をもつもの同士の戦い。この機会を逃せばいつ巡ってくるか分からない。それに見に来てくれた子供達のために派手な戦いにしたい
アイテムボックスから魔剣を取り出す。漆黒の剣が現れると周囲から驚きの声があがる。柄を握ると流れてくるやる気に満ちた感情。あっちが名乗ったのだ。こちらも名乗るのが礼儀だろう
「魔剣エクスレイド」
切っ先を向けると銃口を突きつけられる。ウェイドが微かに笑った気がした。むこうからも似たような感情が流れてきたのだろうか
さて、始めるとしますか......




