A級冒険者
不定期です
俺達に絡んできた冒険者の男3人組。殺してしまうのは容易く手っ取り早いが、その後に問題が生じる可能性が高い。手配書の件もある訳だし下手な行動は避けるべきだろう
「(さて、どう攻略しますかね)」
「あ?なんだその口の利き方は!」
「まずはその口の利き方から教えてやらねーとな」
「それより俺達を怒らせたらどうなるか分からせるのが先だ」
真ん中の男が俺の襟首を掴み片手で持ち上げた。片手で男を持ちあげるなんてどんな筋力をしてるんだか。まぁ人のこと言えねーけど
「タクマさん!」
「心配するな大丈夫」
テイラの心配の声が聞こえる。だから大丈夫と返答し、ついでとばかりにニコリと笑顔をすることも忘れない。その表情を見て男達の頭に血がのぼったようだ。まったく、お前達に送った訳じゃねーっての
「さてと、そろそろ離してもらおうか。というか...離せ」
襟首を掴んでいる腕を握り力を込めていく。痛みで顔を顰めるが俺を離す気はないようだ。だから仕方なく本当に仕方なく腕の骨を砕いた
「ぐぅああっ!!」
叫び声とともにようやく解放してくれた。ギルド内が静かになる。席を立とうとした受付嬢達が男の声で動かなくなった。別に恐怖している訳じゃなく警戒する対象を変えたようだ
「俺はギルドに入ったばかりで分からないんだがこういう時の対処法ってのを誰か教えてくれないか?」
男達には気にせず受付嬢に視線を向ける。冒険者登録をする際に担当してくれた人だ
「そ、それは」
「ふーん。そんなもん1つしかないね」
コツンコツンと聞き心地のいい足音を鳴らしながら階段から降りてくる髭面の男。腰に丸く束ねた縄をぶら下げ皮鎧を身につけている。何より特徴的なのは頭に被った大きな帽子。これはまるで
「(カウボーイだな...ってなんで冒険者の男は髭面の奴ばかりなんだよ)」
受付のカウンターに腕をのせ体を支えるともう片方の手で俺を指さした。先程まで静かだった場が騒がしくなる
「あいつはA級冒険者の...ウェイド・ジャガール」
「ジャガールってあの...」
「大物じゃねーか」
「なんであいつが」
なにやら周りの冒険者が言っているが目の前の男はウェイドというらしい。それもA級冒険者の有名人で名字があるってことは貴族かなにか。ともかくただの平民ではないのは確かだ
「チッ...引っ込んでなこれは俺達の問題だ」
「待てよ。俺としてはこの状況をどうにか出来るならして欲しいんだが」
「ふーん。君は俺の力を借りずとも問題ないのでは?」
「どうしてそう思う?」
「ふーん。勘...いや目だ。君の目はそこらの奴とは違って力強い目をしているからかな」
力強い目。残念ながらそんな目は持ち合わせてはいない。あるとすれば敵対者に向ける冷酷な目だけだ
「それは勘違いだ。俺がもっている目はお前と同じものだ」
「ふーん。やっぱり良い目をしている」
「テメェら...やっちまえ!!」
おっさんの仲間が獲物に手をかける。その瞬間、静かだった周囲の空気が一気に凍りついた。事の成り行きを見守っていた冒険者達が剣幕な顔つきになった
「ふーん。ここで獲物を抜くことの意味分かっているのかい?」
「ここでの武器の使用は冒険者ギルドへの敵対を意味します!」
動きを止めていた受付嬢も忠告する。それ程までにギルド内での武器の使用は重罪なのだろう
「武器の使用を指摘する前に俺を掴み上げたことを指摘してくれよ」
「それなら腕のことも指摘しなくてはいけませんよ」
空気を和まそうと茶化してみるが受付嬢の茶目っ気な笑顔で無駄になってしまった。いや、その笑顔で空気が和んだのなら、それを引き起こした俺の手柄といえるのではないだろうか
「ふーん。今君達がとるべき行動は腕を痛めたお仲間さんを医者にみせに行くことだと思うのだが...どうだろうか」
ジャガールの言葉を合図に三人におっさんが「覚えてろよ」といかにも小悪党が言いそうな捨て台詞をはいて去って行った
「ありがとう。あんたのお陰で助かったよ」
「ふーん。大したことじゃない」
伸ばしていた腕を帽子に添え顔を隠すように深く被りなおすジャガール。その動作に少しの苛立ちを覚えながらも話しを続ける
「俺はタクマという。隣にいるのがテイラ」
「テイラです。助けて頂きありがとうございます!」
「ウェイド・ジャガール。ウェイドで構わない」
挨拶を交わしたテイラとウェイドが握手をする。テイラは首を傾げながらも握手をした後、俺とウェイドの顔を交互に見ていった
「あの...タクマさんとは握手しないんですか?」
「ふーん。男とは俺が認めた奴しかしないと決めている」
何が認めた奴だけだ。お前もテイラ目当てに近づいてきただけじゃねーか。そんな事を思いながらも心に押しとどめる。何故なら隣にいる顔を真っ赤にしたテイラを落ち着かせなければいけないからだ
「落ち着けテイラ。俺は別に気にしてない」
「で、でも...」
「なに...俺もこのまま黙っちゃいないさ」
テイラの頭にポンと手を置いたあとウェイドの目を真っ直ぐ見据えた
「俺も認めた奴としか握手する気はない...残念だったな」
「ふーん。それはつまり俺は君が認める程の男ではないと」
互いに相手を睨みつける。ピリピリと空気がはりつめる。そんな中でゴクリと唾を飲み込んだ音が聞こえる
「ふーん。何時にする?」
暫しの間が空いた後、突然ウェイドがそんなことを口にした
「何がだ」
「君が俺を認める記念すべき日さ」
遠回しではあるが言っている意味を理解した。これは決闘だ。周囲では口をあんぐり開ける者やざわざわ騒ぎだす者と反応は様々だがこの場にいる全員が理解したようだった
「俺は何時でも」
「ふーん。では今から...といいたいがそうもいかなくてね。5日後ではどうだろう」
「構わない」
「ふーん。では君。闘技場の手続きを行ってくれるかな」
「は、はいすぐに!!」
指名された受付嬢が慌てて何かの紙にペンをはしらせる。慌てすぎたせいか何枚も書き直している彼女をよそにウェイドがギルドを後にした。俺らも居心地が悪くなりすぐにギルドを後にした
「それでA級冒険者の人と戦うことになったと...はぁなんでタクマはいつもいつも問題ばかり起こすのよ!」
夜にギルドでの出来事をみんなに話すとリコが口を開いた。俺だって起こしたくてしている訳ではないと反論しようとするがプンプンしているリコをみてやめた。もし反論したならば今よりも顔を真っ赤にして怒鳴ることが目に見えていたからだ
「その男とは戦場で会ったことがあります」
アイリスがウェイドに戦場で出会ったと言った。そして、貴族屋敷の牢にいたことから勝敗は判断できた。俺はただ黙ってアイリスの次の言葉を待った
「完敗でした。自分の身に何が起こったのか...剣を交える頃には私は地に伏せていました」
時間をかけてアイリスからウェイドの情報を得ていく。些細なことでもそれが有るか無いかでは戦闘時における行動・選択肢が変わってくる。アイリスが話し終わる頃には幾つか気づいたことがあった
「私が知っている事はこのくらいです」
「ありがとうアイリス。助かったよ」
アイリスは自分の話に一体何の意味があったのか本当に分からないといった様子だった。けどこれでいい。今はただ「助かった」と伝えてあげれば。俺が本当に助かったと分からせるのは奴と戦う5日後でいいだろう
「あのタクマさん。ウェイドさんと戦う時に孤児院の子達を連れてきていいですか?」
「子供達をか?」
俺の問いにテイラがコクリと頷く。理由は何となく想像できるが大勢の子供達を連れていくとなると俺一人で判断できるようなことではない。これは一度ギルドの方に話しを通しておく必要があるだろう
「そうだな。一度ギルドの方に聞いてみるとしよう」
もし子供達が見に来ることになったらすぐに終わらせるのではなくたっぷり俺の戦いっぷりを見せてやろう。テイラ達にもいい刺激になるかもいれないし。あいつらも秘密の特訓っとやらをして強くなったようだし、そろそろ俺の本当の実力を見せてもいいかもしれないな
怖がられても仕方ない。でもその時は一人旅をすることになるだろう。でも不思議とそんな不安は一切感じることはなく逆に自分の秘密を知ってどんな反応をするのか楽しみであった。そんな感情からか今夜の眠りはいつもより遅くおとずれた




