魔導学園
ヒュオラを抱えたまま連れてこられた場所はとある一室だった
周囲には大きな窓が四カ所にそれぞれの壁に設けられており、木製の大きな机と色々な物が収納されている棚が4つ。見てみると試験管やフラスコにビーカーなど地球で見たことのある実験道具があった。他にも向こうで見たことのない道具もあった。俺が見たことがないだけで地球にもあったかもしれないが...
これらがあるとなるとここは間違いなく何処かの実験室で間違いないだろう
そんな実験室に場違いなベッドがひとつ。そこには誰かが横になっていた。顔には見覚えがある。俺らをここに連れてきた半透明の獣人だ。魔族領で見たときとは違い体は透けてはおらず実態がある。今なら俺の攻撃が通るだろうが、寝込みの女性を襲うのは男として抵抗があるからやめた
しかし、何時までもヒュオラを抱えて経っている訳にもいかず仕方なくペルシーを起こそうとベッドに近づいた
「寝込みの女性を襲うのは最低ニャ」
近づいても起きなかったので頬を人差し指でつんつんしようした時、ペルシーの目が開いた
「なんだ起きてたのか。ならとっとと起きてこの状況を説明しろ」
どうやら目は覚めていたようだ。ペルシーは大きな欠伸をしたあと立ち上がった
「初めましてニャ。ニャーの名前はペルシーニャ」
「タクマだ」
短い挨拶を交わした後は口を閉じ相手の様子を窺う
「そんなに警戒しなくていいニャ。取り敢えずその娘をここに寝かすのニャ」
と言ってヒュオラを先程まで自分が寝ていたベットを指さした。特に仕掛けはなさそうだしずっとヒュオラを抱えている訳にもいかないので、ここは言われた通りベッドで寝かせることにする
「それで、ここは何処なのか説名して欲しいんだが」
【気配探知】【魔力探知】で周囲の状況を把握しようとしているのだが、何故か発動ができない。正確には発動しても魔力が霧散してしまい無効化されてしまう。魔法も同様な様で、どうやらここでは魔力を使ったスキルは使えないらしい
魔法使いにとってここは最悪な空間だろうが、生憎俺は魔力が使えなくてもバグったステータスがあるので近接戦闘でも全く問題はない。それに、魔力が使えないのは向こうさんも同じ事だろう
「ここは魔法学園にあるニャーの実験室ニャ。窓の外を見てみるといいニャ」
ペルシーに背を向けずに窓の外を確認すると、同じ服を着た多くの人々が歩いていた。性別によって少しデザインが異なっているようだが、どちらも白を基調とした服で市民が着ている服と比べて高級感がある
恐らく...というか間違いなくあれがこの学園の制服で、それを着ている人が生徒だろう。獣人の姿は見当たらない...あ、目の前にいるわ
「ニャーの様な獣人はここ開発都市テクノギス魔導学園にはいないのニャ。ここに通っている生徒はほとんどが貴族なのニャ」
へーここ開発都市テクノギスっていうのか。確か魔導学園はここ以外にもあるんだっけか。気が向いた時にでも調べてみるかな...ってそんなことより今はヒュオラだ
先程ベッドに寝かせたヒュオラに視線を向けると、既にペルシーが顔を覗かせていた
「...これほどの魔力欠乏症は初めてみるニャ」
「魔力欠乏症ってなんだ?」
「魔力欠乏症は無理に魔力を使った際に起こる症状ニャ。しかしこれは枯渇しても過剰に魔力を使いすぎて生命力にも影響を与えているニャ」
無理に魔力を使った際っていうのはMPが0になっても魔力を消費するスキルなんかを使った時だろう。ヒュオラの場合はあの膨大な魔力で作られた巨大なクリスタルに魔力を吸い続けられていたのだろう
それにしても俺にも魔力が尽きる事があるのだろうか。魔族やクリスタルを破壊する時に体に影響がでるほど膨大な魔力を使ったんだが気絶はしなかったんだよな...試そうにもこんな街中でやったら街が消し飛びそうだし、魔族領だと新たな問題が起きそうだし...いっそレシウスと会った空間で試してみるか...次会った時にでも聞いてみよう
「生命力に影響を与えているってことは回復魔法を使えば問題ないのか?」
「その必要はないニャ。こうしてここで体を休めていれば回復するニャ」
「この部屋は他とは違うのか?」
「この部屋では魔力を使ったスキルは使えないのニャ。それは魔法を使おうとして分かったはずニャ」
「気づいていたのか」
恐らく魔法を発動した際の魔力の流れを感知したのだろう。しかし、魔法を使えないことと体を休めていれば生命力...つまりHPが回復することに何か関係があるのだろうか。生命力は特殊な場所ではなくても体を休めていればHPは回復するはずだ。一体この部屋はどんな部屋なんだろう...実験室か...ってそうじゃなくて!
「安心するニャ。別に危害を加えるつもりはないニャ」
「分かってるよ。もし危害を加えるつもりだったらここはもう戦場になっているだろうしな」
攻撃する機会なら幾らでもあったし、ヒュオラを助けようとはしないだろうからな。むしろヒュオラを利用して俺を脅してくる可能性もあった訳だしな
「話しを戻すニャ。この娘はここで休ませておけば大丈夫ニャ」
「いつ目を覚ましてくれる」
「それはこの娘次第ニャ」
俺はそのままヒュオラを残して学園を後にした。日は既に沈んでおり街はいつもの夜の賑わいを見せていた。予定よりも大分遅くなってしまったようだ。創造した火焔の狼達は消えていた。あの部屋に転移させられた時に繋がりが断ってしまったからだろう
「はぁ...レシウスに報告するのは明日にするか」
今日はとてもそんな気分にはなれない。俺はそのまま自分の部屋へと帰っていった
「あ!やっと帰ってきた!今日は遅かったわね!」
「お帰りなさいませタクマさん」
部屋に入ると全員が集まっていた。部屋を間違えたのかと思い確認するが間違ってはいなかった。イリナは既にベッドで寝ており、リコはその隣で魔力制御の練習をしていたが俺が入ってくるなり止めて元気よく声を掛けてきた。アイリスも立ちながらいつもの感じで声を掛けてくれた。テイラは俺の姿を見るなり立ったまま固まっていた
「ただいま。それで何でテイラは固まっているんだ?」
「ああ、それはね――――――」
「どこに行っていたのですか」
何故かテイラが怒っているみたいだ。珍しいなテイラが怒るなんて。というか出会ってから初めてかもしれないな
「何かテイラ怒ってないか。別に帰るのが少し遅くなっただけだろ?」
俺の帰りがいつもより遅くなったからテイラが怒っていると思いそう言ったのだが、テイラの表情は変わらない。どうやら違った様だ。でも他にテイラを怒らせるような事など考えつかないのだが...
声を掛けて少し経ってからテイラが口を開いた
「...服」
「服?」
「孤児院に行っただけのはずなのに酷く汚れています。それに小さいですが服のあちこちが破れています」
確認してみると確かに複数の箇所に小さく穴が空いていた。この穴は魔族と戦闘している時にでも出来たのだろう。それにしてもこんな小さな穴にすぐに気づくとは...テイラは目がいいんだな
「それに微かに服が焼けている様に見えます」
「...確かに焼けた臭いがしますね」
アイリスまでもが話しに入ってきた。リコは...空気をよんだのか黙ったままだが視線はこちらに向けていた
「あーこれは...少し魔法の練習をしてたら魔力の制御を誤ってな」
「そんな嘘はいいです。本当は何をしていたんですか」
「...」
「また危険なことをしてきたんですね」
本当にテイラは勘が鋭い。というか異常だ。それに観察力も鋭くなっているようだ。本当に俺とイリナが孤児院に行っている時に何をしているんだ?
チラッとアイリスに視線を送ると、俺の考えを察したのか視線を逸らした...アイリスも視線を逸らすことがあるんだな
「危険...って程でもなかったぞ。心配する必要はない。現に俺はこうして元気に帰ってきただろう」
いつもように軽い感じで答える。それでもテイラは未だ納得はしていないようだ
この時テイラはタクマの表情をみて気づいていた。体はなんともなくても、心には傷があることを。その事までは今は触れないほうが良いことも
「...そうですね。元気に帰ってきてくれたんです。それだけでとても嬉しいです」
「そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。改めてただいまテイラ」
「はい。お帰りなさいタクマさん!」
テイラはなるべく明るく元気に言葉を返した。タクマが無事に帰ってきた事は本当に嬉しかった...けれど今の私はタクマの後ろに隠れているだけの存在なんだと改めて気づかされた。タクマと肩を並べたい。それがたとえ無理だとしても、少しでもいいからタクマに近づきたい。そう強く思うテイラであった




