楽しい生活
彼がこの地に降り立ってから一週間がたった。
彼はこの一週間である程度のことを把億していた。今の自分のことやこの世界のことを。
「もう一週間か・・」
一と刻まれた文字の下に縦棒を追加する。
「この一週間でやっと今の自分の状態が分かってきたぞ。 まず自分は人間ではなくなったことだ。」
とんでもない事実をサラッと流す。勿論最初は彼も困惑していたが時間がたつごとにその事実を受け止め始めていた。
「今の自分は空腹を感じないし、便意も全くない。それに眠たいと感じることもないし、体もなぜか汚れない。汗すら一滴も流れない生物になっている。」
なぜこうなってしまったかは理解できないし、する必要もないだろう。ただそうなったという結果だけあればいいと思考停止した彼であった。
「それにやはりここは地球ではない別の世界だということも分かった。空に飛んでいたドラゴンも自分の気が狂った末の幻覚じゃなくて実際に存在していた。まだ実際に生きている生物にあったのは最初に見たドラゴンだけだが、そこらに落ちていた生物の死体は明らかに地球のものではない」
2日目に角の生えた馬、いわゆるユニコーンといわれる死骸を見つけ、4日目に巨大なムカデの上に亀の甲羅が乗ったかのような生物の死骸を発見した。馬のほうは内臓と脳みそが食い荒らされていてまだ死にたてほやほやな状態であった。ムカデのほうは過食部位がないのか胴体が二つに分かれていただけで他に損傷はなかった。
「そして、これが一番の発見」
彼は手を空中に掲げ、ぶつぶつとつぶやき始めた
その瞬間
ボァァァと手のひら大の大きな火の玉が出現する。10秒ほどその状態をキープするが集中力がなくなったのか手のひらから火の玉を消した。
彼は一日目の時に夜に備えて火をつけようとしていたが、勿論簡単につくわけがなく、30分ほど湿った木の棒と板をこすり合わせていた。火どころか煙すら出ない状況にイラつき彼は木の棒を投げ捨て、ほとんどやけくその気持ちで手のひらを木の板に向けから火が出て来いと強く念じていた。その瞬間に木の板を燃やし尽くす勢いで炎が出てきた。
異世界に行ったら魔法が使えるかどうかを試すのはテンプレートだと思うが、精神年齢が70代のおじいさんにはその発想は全く出てこなかった。しかし一日目に気付けたのは幸いである。
「手から炎が出るだけでない、さらにいろんなことができる」
手のひらを木に向かってかざし強く念じる、すると木が視界から消える。
地面を見るとそこには地面にめり込んだ木が見える。まるで上からハンマーにたたかれたかのようなありさまだ。
彼はその様子を見てひどく興奮していた。
「火を出すだけでない、重力も操れる!まだ試していないことは多くあるがおそらくまだできることは多くあるだろう。木をつぶすだけの力を使ったのに何か消耗している感じでもない。わからないことがいっぱいだ」
彼は声を荒げ大きな独り言を叫ぶ。満面の笑みで。何十年ぶりかの心からの笑顔だ。彼は心底楽しく、喜んでいた。一度人生が終わったかと思えばまだ続いていて、こんな楽しいことを用意してくれる。誰が彼をここに連れてきたかは不明だが彼はその何者かにひどく感謝していた。
そして心に誓う。
「今度の人生はめいいっぱい楽しもう」




