なんとか
いまだに魔力の奔流がやまない部屋で一人の金髪の女性が不快そうに手を振りかざす。その瞬間、部屋の中は静寂に包まれた。先ほどまでの荒れた様子が嘘だったかのように。
「何故途中から介入してきたんですか?連れ戻せとあんなにもうるさかったのに」
誰に向けていった言葉かわからない。ただ一つ確かなのは、今の発言に恨み、憎しみ、侮蔑が込められていることだけ。そこにはネガティブな感情しかない。
「私の仕事は果たしました。逃げられたのはあなたが邪魔してきたからです。」
ボワァァン
空間の裂け目を作り、彼女はそこに足をかける。
「その時が来るまで私に干渉するな。このごみ野郎」
この部屋から誰もがいなくなり、それと同時にこの黒いピラミッドも消失した。まるで最初から何もなかったかのように。あまりのも自然に消えてしまった。
命からがら逃げだしたはいいものの、またもや知らないところにワープしてしまった。なくなってしまった下半身は直ぐに再生したため、今は五体満足の状態になっている。なぜか服も一緒に再生してきた。
今現在の自分は、幸運なことにかなりの大都市?大国?にいる。転移してきたのがこの場所から一キロほど離れている洞窟だ。そこからこの場所を発見し、今ここにいるわけだ。
身分証もないのにどうやってこの都市に入ったって?そりゃあ、光魔法を使ったに決まっている。自分の周囲に魔力を展開して、自分の周囲の光を捻じ曲げて周りから見えないようにしたんだよ。この時に周りの人間から違和感を抱かれないよう、細心の魔力制御が必要だ。背景からの光を完璧の戻さないといけないからな。
この時、自分も目で周りの様子を把億できないから、自分が出した魔力によって場所を確認している。そんなこんなで堂々と扉を突破したわけだ。
この場所は巨大な壁に囲まれている。まるで進撃の巨人の世界みたいだ。出口、入り口は4か所しか確認できなかったが、あまりにも少なすぎるな。入ってくる人や出ていく人がそんなにも少ないのか?
まぁ、そんなことはどうでもいい。
とりあえずわかったのはゼロというあの女性がもう自分を追ってきていないことだ。あの人は自分のことをこの世界に来てからずっと監視してきたといっていた。そのうえ、恐らくだが転移を使えると思う。自分をあの場所に送り込んだのはあの人の片割れだとか言ってたもんな。ゼロがその魔法を使えても不思議ではない。
それなのに、俺を捕まえにここまで来ていないことが、もう追ってきていないことの証明だろう。安心してこの場所の観光を楽しめる。
「まずは図書館いきたいな。この場所にあるかな?」
ん?いや待てよ、文字が読めないじゃないか。これだと魔法を調べるための手段が人づてに聞くしかなくなくなってしまう。
この町の識字率はどうなっているんだろうか?かなり栄えているように見えるが、魔法がある世界だったら普通ぐらいなのかもしれない。中世の時代ぐらいだとみんながみんな文字が読めたり、かけたりするするはずがないもんな。
きれいに補整されている石畳の道。隙間がないくらい多くたてられている石やレンガの建物。4階の高さぐらいの建物もあるぐらいだ。広場では、なんと噴水があって、そこで屋台が所狭しと並んでいて多くの人が足を運んでいることが分かる。
かなり清潔な街で、服も凝っているデザインのものが多い。あの村を見て、この場所をイメージするのは無理な話だよな。
通行人に話しかけて、仕事をあっせんしてもらう場所はないか、図書館はないか、文字を教えてくれる人はいないのかなど色々聞いてみたら快く応じてくれた。
「なんだ、あんた田舎から出稼ぎに来ている人間か?」
「仕事が欲しいなら、第三都市の農業地域か、第四都市の工業地域に向かえばいいさ。人手不足の所が多いからな、身分証があれば二つ返事で雇ってもらえるぜ」
「図書館は王都にしかないな。お金がない貧乏人がいけるところじゃないぞ」
「文字が読めない!?まぁ田舎からのやつだとそうか、習ってないのか。すまん驚いちまったよ。文字が習える場所か・・・・学校にでも入ればどうだ。年齢や種族不問の所も多いぞ」
色々と親切なおっさんに教えてもらった。どうやらこの国はマドリオンという超大国らしい。図らずとも目的の場所にこれたようだ。この幸運を生かさない手はない。魔法の知識が集約している国なんて、最高以外の言葉が見つからないな。
マドリオンは王都、第一都市から第四都市までの5つの場所で構成されているらしい。王都では魔法が、それ以外の所では商業、鉱山業、農業と牧畜、工業が盛んにおこなわれていて、一つの国で完結できるような仕組みになっているらしい。そのため他国との交流は最低限で、魔法に関することでしか他国と交わることがないらしい。
識字率もおっさんの口ぶりからして高そうだ。学校があるということはマドリオンは教育にも力を注いでいることが分かる。これはうれしい誤算だな。働いて、学費が溜まったら学校に通おう。
結構長期スパンの計画になるが、まぁ気長にやるか。
いや、できそうもないかな。いつまたゼロの襲撃が来るかわからないし、次来たとしてもうまく逃げれる保証は何もない、逃げれない可能性のほうが圧倒的に高い。
「そんなこと考えてもどうしようもないんだけどな・・・。お迎えが来るまでできる限り楽しむか」
「身分を証明できるものは?」
「持っていないです・・・」
「まじ?じゃあ住民票は持ってるよね。第二ゲート通ろうとしてるんだし」
「ありません・・・」
「はぁ!?ゲート通るときにはどっちか必要ってわかってるよね。あ!もしかして別の国の人?」
「そうです」
「なんだ、初めからいっとけよ。区役所で通行許可書もらってから来てください」
「滞在証明書は?」
「ありません」
「じゃあ、通行許可書を発行することはできません」
「え、ちょっと待ってください。どこで発行してもらえばいいんですか?」
「紙は渡します。その紙に滞在先の人からのサインをもらってまた来てください」
「すいません。最低でも一泊してもらわないと、滞在証明書は書けなくて」
「でもお金がなくて・・・」
「だめです」
どうやら自分は他の都市には行けないらしい。第二都市のゲートを通るために通行許可書が必要で、その通行許可書をもらうために滞在証明書が必要で、滞在証明書をもらうために宿に泊まる必要があって、宿に泊まるのにお金が必要で、で自分は今無一文で。
この第一都市で何か職を見つけるしかないのか。しかしここは商業都市。知識と信頼がない自分は仕事する場所がないだろう。
何か、お金になる仕事はないだろうか?魔法を使ってパフォーマンスでもするか?
最悪魔法を使って別の都市に行くのもいいんだが、流石に自重をするべきだろう。違法行為ばかりするのもよくない。ここに不法入国した分際でって感じだが。
ギルドとかあって、魔獣を倒してお金をもらえる職業があればいいんだが、魔獣はそこまでこの国では脅威になっていないらしくそんな職業はないとのこと。
弱い頭で必死に考えていたところに、誰かが話しかけてきた
「少しお話よろしいですか?」
小柄な女性だ。赤く大きいリボンで長い茶髪を一にまとめているりりしい女性だ。身なりからして裕福な家庭に生まれたのだろう。他の通行人に比べ、高そうな服を着ている。
驚いている自分に対し、さらに言葉を続ける
「少しそこの喫茶店でお茶しましょう」
人生初の逆ナンパだ。




