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平安時代ー礼
後日。
敦姫は、正式に呼ばれる。
正妻の姫の前へ。
敦姫は、深く、深く、頭を下げた。
「……お慶び、申し上げます」
声は震えなかった。
それが、敦姫の誇りだった。
正妻の姫は、しばし沈黙し、静かに言う。
「……お辛いでしょうに」
敦姫は、ゆっくりと顔を上げ、微笑った。
「……いいえ」
「……あなたが選ばれた方なら」
「……私は、それでよいのです」
正妻の姫は、目を伏せた。
「……あなたは、強い方ですね」
敦姫は答えた。
「……いいえ」
「……弱いからこそ、
礼を尽くすのです」
その言葉に、正妻の姫は何も言えなかった。
帰り際。
敦姫は、誰もいない回廊で、初めて呼吸を崩した。
壁に手を添え、ほんの一瞬だけ目を閉じる。
――泣かなかった。
泣く権利は、もう持たないと決めていた。
ただ、静かに息を整え、歩き出す。
その背に、
京は何も言わなかった。
そして数日後。
敦姫は、実家へ戻る支度を整える。
華やかな都を離れ、
恋の名を持たぬまま、
想いだけを胸に残して。




