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平安時代ー祈り
春。
宮中の回廊。
正妻となる姫は、
淡い香をまとい、静かに歩いていた。
家格も、美しさも、教養も、
何一つ欠けていない姫。
敦姫は、柱の陰からその姿を見る。
(……この方が)
(……隣に立つ方)
その時、正妻の姫が、ふと立ち止まる。
敦姫の気配に気づいたように。
視線が合う。
ほんの一瞬。
だが、その一瞬で互いに分かる。
――同じ人を想っている、と。
正妻の姫は、微かに微笑んだ。
敦姫は、深く頭を下げる。
言葉はない。
けれどその沈黙は、
「どうか、大切にしてください」
と、
「どうか、幸せにしてあげてください」
選ばれなかった側の、
それでも消えなかった祈りだった。




