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双鏡の君へ 2 ー輪廻編ー  作者: ゆら。


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安土桃山時代ー到達


燃え落ちる城。


梁が軋み、瓦が砕け、火の粉が闇に舞う。


琴葉と敦乃は、煙の中を走っていた。


息を切らしながら、互いの手を離さずに。


琴葉の胸に、決意が宿る。


(……この時代は)


(まだ、終わらせない)


(私は――)


(この人と、ここで終わるために来たんじゃない)


(また失うために、巡ってきたんじゃない)


炎の熱の中で、


琴葉の目だけが、強く光る。


(……今度こそ)


(今度こそ、選び続ける)



――次の瞬間。


柱が崩れ落ちる。


敦乃は、守るように琴葉を抱き寄せた。


琴葉

「……敦乃……!」


重い音が、すぐ背後で弾けた。


空気が押し潰される。


敦乃は一瞬だけ表情を歪め、

それでも琴葉に向かって、かすかに微笑んだ。


敦乃「……姫様……」


敦乃「大丈夫ですか……?」


琴葉は悲鳴を飲み込むように頷く。


敦乃の腕から、血が滴り落ちていた。


琴葉「……私のせいで……」


敦乃「違います」


敦乃「あなたのせいじゃない」


敦乃「――守りたかっただけです」


敦乃「……それだけです」


琴葉は、初めて声を震わせる。


ずっと溜め込んでいた想いが、溢れだす。


琴葉「……怖い……」


琴葉「……また、失うのが……怖い……」


姫としてではなく。


ただの一人の人として。



敦乃は一瞬だけ言葉を失い、


それから、静かに、はっきり言った。


敦乃「……姫様」


敦乃「……一人で背負わなくていいんです」


敦乃「今は……私がいます」


敦乃は、そっと微笑む。


敦乃「……生きのびて」


敦乃「……また、一緒に笑いましょう」


琴葉「……えぇ……」


炎が近づく。


敦乃は琴葉の手を強く握る。


――崩れる。


そう理解するまでに、

ほんの一拍、遅れた。


天井が歪み、

火の粉が落ちる。


世界が、壊れる準備を始めていた。


敦乃は、琴葉を見た。


その瞬間、

なぜか――昔から知っていた気がした。


守るためでも、縛るためでもない。


送り出すために、ここにいる。


だから、敦乃は琴葉を突き飛ばした。


自分だけが、

後ろに残る選択で。


琴葉の視界が、横に流れる。


床が近づき、遠ざかる。


音が、途中で途切れた。


ほんの一瞬だが意識が遠のく――


弾かれたように琴葉が目を開くと、


敦乃が落ちた天井の一部に挟まれている。


琴葉「……敦乃……!」


敦乃はかすかに笑う


敦乃「……よかった……」


敦乃「……姫は……無事ですね……」


琴葉は震える手で敦乃の頬に触れる。


琴葉「……どうして……」


敦乃「……付き人ですから……」


琴葉の涙が、静かに落ちる。


琴葉「……私は……」


琴葉「あなたを、巻き込んだと……」


敦乃はゆっくり首を振る。


敦乃「……違います……」


敦乃「……私は……選びました……」


敦乃「姫様の隣を……」


炎が近づく。


敦乃の目には、もう迷いはなかった。


敦乃「……姫様……」


敦乃「……お逃げください……」


琴葉は、唇を噛む。


琴葉「……一緒に……」


敦乃は、ゆっくり首を振る。


敦乃「……生きてください……」


敦乃「……姫様は……」


敦乃「……生きて……笑っている方が……」


敦乃「……ずっと……似合います……」


血の海が琴葉の膝を濡らす。


琴葉「⋯敦」


琴葉の目から、涙が溢れる。


琴葉「…………分かった……」


声は震えていた。


でも、確かに答えた。


敦乃は、その言葉を聞いて、安心したように微笑む。


敦乃「……よかった……」


敦乃「……琴葉……」


――なぜそのように呼んだか本人にも分からない。


――ここに、その名を。


ーー初めて、そして最後に。


琴葉は息を呑む。


敦乃は、流血と体力の限界で静かに目を閉じる。


その表情は、穏やかだった。


琴葉「……」


炎は、まだかろうじて城を呑みきってはいない。


崩れた回廊の向こう、

煙の切れ目には、外へ抜ける道が残っている。


家臣が叫ぶ。


「姫様! こちらへ!」


生き延びるための配置は、確かにそこにあった。


“一人でなら”通れる道。


琴葉は、そこを見た。


――そして、目をそらせた。


視線は、手元に落ちている。


瓦礫の影。

煙に伏せた身体。

動かない、敦乃。


琴葉は、立ち上がらなかった。


逃げなかった。


ただ、敦乃をそっと抱き寄せる。


――生きる確率は、まだ残っていた。


けれど。


けれど琴葉は、

迷わず、別の未来を選んだ。


炎が近づく。


家臣の声が、遠くなる。


琴葉は、敦乃を抱いたまま、動かない。


守るように、


覆うように。



遠くの時代からの魂の願い


ここで初めて


――もう、次に託す必要がなくなった


琴葉は微笑んでいる。


炎が、二人を包む。


煙が、視界を覆う。


琴葉は、敦を抱いたまま、


炎の中へ消えていった。



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