平安時代ー重なり
衝撃の初対面(?)からも、和歌は届く。
父「言の葉の君からだぞ……」
声は、どこか誇らしげで、
そして――ほんの少しだけ、遠い。
敦姫「なんでそんな誇らしげなの父上!!」
父は小さく笑う。
父「才ある方に想われる娘を持つ父は、
誇らしくもなるさ」
一瞬、間。
父「……それに」
父「和歌は、届くだけで十分な想いもある」
敦姫「……?」
父「ほら、早く読め」
敦姫は首をかしげながらも、
いそいそと文を手にする。
敦姫の手は皺が入らぬよう、無意識に指先は丁寧だった。
封を開く。
中には――
流れるような筆致の和歌。
言の葉の君
【風吹けば
簾の奥に
見し人の
目の面影ぞ
夢に離れぬ】
敦姫「…………」
敦姫「……何これ……」
敦姫「何これ何これ何これ」
敦姫「“風吹けば思い出すのは君の目”って意味じゃないのこれ!!
平安男子、情緒が直球すぎるでしょ!!!」
顔が一気に赤くなる。
敦姫「夢に離れぬって……
勝手に夢に出すな!!
私の許可取って!!」
しかし――
もう一度、読み返す。
敦姫「……」
敦姫「……筆、綺麗……」
敦姫「……語彙、強い……」
敦姫「……ずる……」
胸の奥が、きゅっとなる。
敦姫「……こんなの……
返さないわけにいかないじゃない……」
必死に考える。
敦姫「……えっと……えっと……」
何度も書いては破る。
敦姫「情緒とか知らない!!
なんて書けばいいのか分からない!!」
最終的に、半ばキレ気味に書く。
敦姫
【見し人の
夢に離れぬ
その理由
本人に聞けと
申し送りけり】
敦姫
「“理由は本人に聞け”って和歌!!
私史上いちばん可愛くない和歌!!」
でも、送り出してしまった。
翌日。
返歌を読んだ言の葉の君。
言の葉の君「……ふ……」
すぐに返事を書く。
言の葉の君
【問うまでも
なく知れぬほど
心には
すでに答えが
住みつきにけり】
敦姫、受け取る。
敦姫「…………」
敦姫「……“心の中にはもう答えがある”って……
やめて……和歌で恋愛論ぶつけてこないで……」
布団に倒れ込む。
敦姫「……無理……
この人……静かに心臓殺しに来る……」
顔を両手で覆う。
敦姫「……でも……」
そっと胸元で文を握る。
敦姫「……嫌じゃないのが一番困る……」
ーーー
数日後
敦姫の部屋の御簾越し
言の葉の君が穏やかに座っている。
敦姫「……また来てくれた」
言の葉の君「会いたかったので」
敦姫「軽く言うな!!
平安男子は“会いたかった”を日常会話にするな!!」
言の葉の君「では……来たかったので」
敦姫「言い換えても軽さ変わってない!!」
言の葉の君、少し笑う。
言の葉の君「……和歌では、足りませんでしたか」
敦姫「足りすぎ!!
もう情緒の過剰摂取で倒れるとこだった!!」
言の葉の君「ですが」
一歩、距離を詰める。
言の葉の君「……敦姫の返歌は、とても嬉しかった」
敦姫「……どこがよ……」
言の葉の君「“理由は本人に聞け”と」
敦姫「……っ……」
言の葉の君「……聞いてよい、という意味だと思いました」
敦姫「解釈が都合よすぎる!!!
平安版ポジティブ変換機か!!!」
言の葉の君「では、答えます」
敦姫「聞いてない!!」
言の葉の君「……初めてお会いしたはずなのに」
敦姫「やめろ、もう嫌な予感しかしない」
言の葉の君「……最初から、隣に座っていたような気がするのです」
敦姫「重い!!
平安男子は“自然だった”をそんな言い方するな!!」
言の葉の君「ですが」
言の葉の君「今ここに、敦姫がいる」
言の葉の君「それだけで、十分だと思いました」
敦姫「……っ……」
敦姫「……そういう言い方……
急に静かに刺してくるの、ずるい……」
言の葉の君「……刺さりましたか」
敦姫「聞こえなかったことにして!!」
顔を背ける敦姫。
頬は真っ赤。
言の葉の君「では」
言の葉の君「これからも、和歌で追いかけます」
敦姫「逃げ場なしかよ!!
しかも情緒付き追跡型かよ!!」
でも。
敦姫(……嬉しいとか思ってる自分が一番腹立つ……)
心臓は、完全に裏切っていた。
言の葉の君
【風吹けば
心の奥に
音立ちて
君の名ばかり
胸に残れり】
敦姫
【月影に
隠す心を
照らされて
逃げ場もなくて
君を見る夜】




