安土桃山時代ー再会
城下町。
市場の通り。
琴葉は、護衛も付けずに一人で歩いていた。
団子を片手に。
そして――
人混みの中に、一人の町娘を見つける。
敦乃。
その姿を見た瞬間。
琴葉の足が止まる。
団子が、落ちる。
転がる。
誰も気づかない。
琴葉の胸の奥で、
静かに、何かが崩れる。
(……あ)
(見つけた)
――また。
一瞬だけ、過去の記憶が重なる。
――御簾越しにしか話せなかった平安の敦姫。
――工事現場の事故で自分は死に、村に残してしまった室町の敦乃
(……今度は)
(今度は、絶対一緒にいる)
今度は、間に合った。
琴葉は、にこっと笑う。
そして――
全力で駆け寄る。
ーーー
琴葉「ねぇ!!」
敦乃「えっ!?はい!?」
琴葉「あなた、敦乃でしょ!」
敦乃「え!?え!?はい!?なんで名前!?」
琴葉「付き人になって!!」
敦乃「話が早すぎます!!」
琴葉「大丈夫大丈夫!」
敦乃「何がですか!?」
琴葉「私、姫だから!」
敦乃「理由になってません!!」
琴葉は敦乃の手を両手で握る。
琴葉「運命だから!」
敦乃「雑すぎます!!」
敦乃「ちょ、ちょっと待ってください!」
敦乃「私、ただの町娘ですよ!?」
琴葉「うん!」
敦乃「付き人なんて無理です!」
琴葉「できるできる!」
敦乃「根拠は!?」
琴葉「笑顔がいい!」
敦乃「基準が軽い!!」
敦乃は後ずさる。
敦乃「姫様、冗談ですよね……?」
琴葉「本気」
敦乃「本気の顔で言う内容じゃありません!」
琴葉「だって」
琴葉は、少しだけ声を落とす。
でも笑顔のまま。
琴葉「私、敦乃と一緒にいる未来しか考えてないから」
敦乃「……は?」
敦乃は、なぜか――その言葉を否定できなかった。
琴葉「だから付き人!」
敦乃「思考が一本道すぎます!」
敦乃「……どうして、私なんですか」
琴葉は、一瞬だけ、目を伏せる。
(平安で、届かなかった手)
(室町で、失った約束)
でもそれは言わない。
琴葉は、いつもの天然な笑顔で言う。
琴葉「直感!」
敦乃「軽っ!」
琴葉「でもね」
琴葉「私、直感だけは外したことないの」
敦乃「……信用できるようでできません!」
琴葉は、少しだけ真剣になる。
琴葉「敦乃」
敦乃「……はい」
琴葉「私は、あなたと笑ってたいの」
敦乃「……」
胸の奥が、
ほんの少しだけほどける。
初めて会ったはずなのに、
――なぜか、怖くなかった。
琴葉「それだけ」
敦乃は困る。
身分も、状況も、理解できない。
でも。
琴葉の笑顔が、あまりにも真っ直ぐで。
敦乃「……本当に……よく分かりませんけど……」
琴葉「うん!」
敦乃「……そんな顔で言われると……」
琴葉「うん?」
敦乃「……断りにくいです……」
琴葉「やった!」
敦乃「まだ承諾してません!」
琴葉「もう心は承諾してる!」
敦乃「勝手に決めないでください!」
しばらく沈黙。
そして敦乃は、ふっと小さく笑う。
敦乃「……でも」
敦乃「姫様、楽しそうですね」
琴葉「楽しいよ!」
敦乃「……じゃあ」
敦乃「しばらく、付き人……やってみます」
琴葉「ほんと!?」
敦乃「はい……」
琴葉は、子どもみたいに喜ぶ。
琴葉「やったぁ!!敦乃!!」
敦乃「距離近いです!」
琴葉「これで一緒にいられるね!」
敦乃「……最初からその前提なんですね」
その瞬間。
琴葉の胸の奥で、
二つの時代の後悔が、静かに溶けていった。
(……今度こそ)
(今度こそ、同じ時間を生きる)
琴葉は、何も知らない敦乃に向かって、
ただ笑った。




