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双鏡の君へ 2 ー輪廻編ー  作者: ゆら。


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戦国時代ー託命(たくめい)


城下町は、すでに静まり返っていた。


勝敗は決していた。


炎の匂いと土埃だけが残り、

人の声は、遠くへ溶けていく。


敦盛は馬を下り、ゆっくりと町を見渡す。


そこは、かつて笑い声が満ちていた場所とは思えないほど、空白だった。


――そのとき。


路地の奥から、低い笑い声と歪んだ言葉が漏れてきた。


敦盛は迷わず歩み寄る。


敦盛「……村人に手を出すな。命令だ」


その声は低く、静かに、しかし鋼のように響いた。


二人の部下は振り返る間もなく、その場から消えた。


音も、


叫びも、


残らなかった。


その奥に、女性が横たわっていた。


乱れた衣。


荒い呼吸。


虚ろな瞳。


――言の葉の君の魂を持った者……


敦盛の中で、感情が止まる。


怒りも、


悲しみも、


衝動も。


すべてが静かに凍った。



敦盛は膝を折り、何も言わずに近づく。


乱れた衣を、そっと整える。


触れ方は、

戦場のそれではなかった。


壊さないように。

怯えさせないように。


彼女の指先が、かすかに揺れる。


だが、視線はまだ、どこにも向かわない。


敦盛は低く、静かに言葉を置いた。


敦盛「……ここで生きるか」


敦盛「……それとも、ここを終わりにするか」


命令ではない。


裁きでもない。


ただ、“選択”だけを差し出す声。


彼女の胸の奥で、何かが微かに揺れた。


(……選んで……いい……?)


誰にも与えられなかった言葉。


彼女は、すぐには顔を上げられない。


けれど、呼吸が、ほんの少しだけ深くなる。


敦盛の声は、奪う者の声ではなかった。


裁く者の声でもなかった。


ただ――

選ばせる声だった。


彼女の視線が、ゆっくりと焦点を取り戻していく。


血と土にまみれた若武者。


だが、その目だけは、誰かを壊す目ではない。


(……この人は……)


(……私を……)


(……“物”として……見ていない……)


そこで初めて、

彼女の心に、言葉が戻る。


もう抵抗も希望も尽きた場所で、


初めて“人として扱われた”


彼女はゆっくりと敦盛を瞳に映す。


胸の奥に、かすかな温度が生まれる。


理由もなく、

彼女はほんの少しだけ笑った。


それは喜びではなく、

“戻ってきた証”だった。


彼女(……心に、ほんの少しの安らぎが広がる)


やがて、震える声で言う。


彼女「……ここに居続けても」


彼女「……何も届かない気がする」


一度をフッと伏せた。


だが顔を上げて、もう一度敦盛を見る。


彼女「……でも……」


彼女「……少しでいいから……」


彼女「……あなたの記憶に……場所をください」


それは

死を望む言葉でありながら、


同時に――


【消えたくない魂の願い】だった。


敦盛は、その願いを聞いた瞬間、

刀を握る手を、強く閉じた。


敦盛「……忘れない」


敦盛「……お前が、ここにいたこと」


敦盛「……苦しみの中で、それでも……」


敦盛「……誰かに覚えられたかったことも」


敦盛「……そして……」


敦盛「……それを、俺に託したことも」


彼女は、ほんの少しだけ笑った。


彼女「……それで、十分です」


彼女(最期に……こんな方に会えるなんて……なんて幸せなのでしょうか)



風が吹き、


煙が流れ、


二人の間に、静けさだけが残る。




そして、この出会いが、敦盛の人生を決めた。


彼女の命を「選ばせ」、

その選択を「背負った」瞬間から。


彼の戦いは、意味を変えた。


勝利のためではない。


名誉のためでもない。


正義のためですらない。


ただ一つ。


戦いを、早く終わらせること。


そして、


平和な世界を手に入れ、


 彼女が――次こそ、


 怯えず、奪われず、


笑顔で過ごせる未来を引き寄せること。


その未来が自分の生では叶わなくとも構わない。


それでも、


“選ばせてしまった命”が、


次の時代で笑えるなら。


敦盛は、刀を取る。


英雄になるためではない。



――「人として生きられる世界」を作るために。



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